日本語の基本文型

日本語の基本文型
1.日本語の構造・・述語中心
a.学校文法・・主語と述語に修飾語を加える。
(例)
太郎が 食堂で 友達と そばを 食べた。
主語  修飾語 修飾語 修飾語 述語
b.日本語記述文法・・述語を中心に複数の成分から成立すると考える。
(例)
太郎が 食堂で 友達と そばを 食べた。
成分1 成分2 成分3  成分4 述語

2.日本語の述語文
a.動詞文(動詞述語文)
(例)父親が書斎で本を読む。
b.形容詞文(形容詞述語文)
(例)海がとても静かだ。
c.名詞文(名詞述語文)
(例)あの人が英国人だ。

3.日本語の主な文型(必須成分+述語)
1−が 名詞だ。     太郎は独身だ。
2−が イ形容詞。    その内容はつまらない。
3−が−に イ形容詞。  太郎にはその姿がにつかわしい。
4−が ナ形容詞。    その色は鮮やかだ。
5−が−に ナ形容詞。  太郎は学業に熱心だ。
6−が 動詞。      太郎が暴れた。
7−が−を 動詞。    太郎が花子を助けた。
8−が−に 動詞。    父親がその意見に反対した。
9−が−と 動詞。    太郎が花子と結婚した。
10−が−を−に 動詞。 太郎が花子を両親に紹介した。

論語の名句

【『論語』の名句】 加地伸行(二〇一五)『論語のこころ』講談社学術文庫

一  子曰く、辞は達するのみ。
老先生(孔子)の教え。文章を書くなら、達意であれ。

二  子曰く、巧言令色、鮮(すくな)なし仁。
老先生の教え。(他人に対して人当たりよく)ことばを巧みに飾り立てたり、外見を善人らしく装うのは(実は自分のためというのが本心であり)、「仁」すなわち他者を愛する気持ちは少ない。

三  子曰く、利に放りて行なへば、怨み多し。
老先生の教え。利害打算だけで行動すると、他者から怨まれることが多くなる。

四  子曰く、過ちて改めず、是を過(あやま)ちと謂ふ。
老先生の教え。過ちを犯したのに改めない。これが真の過ちである。

五  子曰く、道同じからざれば、相(あい)為(ため)に謀(はか)らず。
老先生の教え。進む道が同じでないならば、互いに心を割って話し合うことはしない。

六  子曰く、其の位に在らざれば、其の政を謀(はか)らず。
老先生の教え。その地位にはいるのでなければ、(差し出がましく)全体運営について口を挟まない。

七  子曰く、吾未だ徳を好むこと色を好むが如き者を見ざるなり。
老先生の教え。美人(色)よりも、教養人(有徳者・人格者)に近づこうという気持ちが強い人物に、私は出会ったことがない。

八  子曰く、徳孤(こ)ならず、必ず隣(となり)有り。
老先生の教え。人格のすぐれている人(徳)は、けっして独りではない。必ず(その人を慕ってそのまわりに)人が集まってくる。

九  子曰く、仁に当たりては、師にも譲らず。
老先生の教え。道徳(仁・人の道)の実践においては、(それが正しい以上、)たとい師に対してであっても一歩も譲らない。

十  子曰く、人能く道を弘(ひろ)む。道人を弘むに非ず。
老先生の教え。人間が(努力して)道徳を実質化してゆくのであって、道徳が(どこかに鎮座していて、それが自然と)人間を高めてゆくわけではない。

一〇 子曰く、教へ有りて類無し。
老先生の教え。教育によって、人間の区別(類)がなくなるのだ。

一一 子曰く、学は及ばざるが如くせよ。猶之を失はんことを恐れよ。
老先生の教え。学問をするとき、自分はまだ十分でないという気持ちをいつも持て。しかも、得たものは失わないと心がけよ。

一三 子曰く、学びて思はざれば、則ち罔(くら)し。思ひて学ばざれば、則ち殆(あやふ)し。
老先生の教え。知識や情報を(たくさん)得ても思考しなければ(まとまらず)、どうして生かせばいいのか分からない。逆に、思考するばかりで知識や情報がなければ(一方的になり)、独善的になってしまう。

一四 子曰く、苗にして秀でざる者、有るかな。秀でても実らざる者、有るかな。
老先生の教え。苗の中には、(途中で枯れて)花の咲かないものもある。花が咲いても(秀)、実をつけないで終わるものもあるぞ。

一五 子曰く、知者は惑はず、仁者は憂へず、勇者は懼(おそ)れず。
老先生の教え。賢人は迷わない。人格者は心静かである。勇者は恐れない。

一六 子曰く、故きを温めて新しきを知る。以て師為る可し。
老先生の教え。古人の書物に習熟して、そこから現代に応用できるものを知る。そういう人こそ人々の師となる資格がある。

一七 子の慎しむ所は、斎(さい)・戦・疾なり。
老先生が粛然とされるのは、祭祀・戦争・疾病(つまり死)のときであった。

ユングの流れ

ユング心理学の三つの方向性

1.古典派・・ユングの考えを最も忠実に継承する。心の深層で起きるイメージの変容を重視する。
(例)グリム童話「かえるの王様」
お姫様がある日、遊んでいた金色の鞠(まり)を誤って泉の中へ落した。そこへ醜いカエルが現れ、カエルに金色の鞠を取ってきてもらう。カエルに取ってきたのに、カエルを嫌悪感で壁に叩きつけた。すると、カエルは王子様に変身して、二人はめでたく結婚する。
(解釈)
金色の鞠・・自己の象徴
姫が嫌悪したカエル・・未知なる男性や他者
→男性や他者と不快な気持ちで関わることで、姫は大人へと成長し、結婚に象徴される自己実現に到達する。

2.元型派・・個人の持った原型イメージを重視する。イメージそのものを大切にする。
(例)ギリシア神話オルフェウスの竪琴(たてごと)」
太陽神アポロの息子のオルフェウスは竪琴の名手であったが、亡くなった妻のエウリュディゲを迎えに黄泉の国に迎えに行った。ところが、地上にたどり着くまでは、後ろにいる妻をふりかえってはいけないのに、つい振り返って妻を見てしまい、妻は再び黄泉の国へ連れ戻された。その後、オルフェウスは失意のうちに亡くなるが、彼の竪琴はゼウスによって星の中に置かれ、竪琴として光輝いた。
(解釈)
竪琴・・自己実現
神話の登場人物、アイテムが生き生きとしている。
オルフェウスの竪琴そのものが自己実現の達成(元型派)
cf.男性性の確立に失敗した典型例(古典派)

3.発達派・・幼児期の親子関係が人格を形成すると考える。大人になった時の人格形成に、幼児期の親子関係が大きな影響を持っていると考える。ロンドンを中心に活躍する分析家の流れ。ロンドンは、フロイトユングの考えが融合している場所である。転移と逆転移を重視する。
(例)ハーロウの猿実験 cf.スポック博士vs.松田道雄
親の愛情を受けられなかった子どもは、愛情への欲求が大きいため、大人になってから対人関係が歪むケースが非常に多い。
子どもに関して無関心な親に育てられた
→大人になったとき、子どものときに満たされなかった愛情を恋人などに過度に求め
る。
→愛してもらうために良い子でいなくてはという思いから、常に優等生を演じる大人
に成長する。

文法用語の規定

小柳智一(2014)の記述
(1)モダリティ(modality):事態の非実現性、可能性や必然性などの様相、また、そのように把握する発話者の判断の仕方を表す文法範疇。ムード(mood)はそれを表す文法形式。
(2)テンポラリティ(temporality):現在・過去・未来という時間的様相を表す文法範疇。テンス(tense)はそれを表す文法形式。
(3)アスペクチュアリティ(aspectuality):動作の完了・未完了や結果・継続などの時間的局面を表す文法範疇。アスペクトaspect)はそれを表す文法形式。
(4)エビデンシャリティ(evidentiality):ある事態を何で知ったかという情報の入手源を表す文法範疇。エビデンシャル(evidential)はそれを表す文法形式。
(5)ミラティヴィティ(mirativity):予期していないことに対する意外性とそれに伴う驚嘆を表す文法範疇。ミラティヴ(mirative)はそれを表す文法形式。

現代日本語表現の参考資料

現代日本語表現の参考資料

一 接続語一覧

順接 順接 そして すると
     因果 したがって だから そこで そうなると ゆえに (前が原因で後ろが結果)
逆接 しかし けれども だが かえって (後ろに筆者の主張)
補足・説明 もっとも ただし なお (前に筆者の主張)
言い換え・要約・同格 つまり すなわち 要するに いわば
理由 なぜなら というのは(―だからである)
並立・添加・追加 しかも かつ そのうえ さらに も
選択 または あるいは  
対比 これに対して 一方で 他方で
比較 むしろ より (後ろに重点)
譲歩・確認 たしかに もちろん なるほど むろん しかしながら もっとも ただし
例示 たとえば
話題の転換 ところで さて
(文を分ける言い回し)
Aに対してB Aに比してB Aに反してB Aと逆にB AよりもB AとBとは 一方A、他方B
AではなくBである
(まとめの指示語)
そのように このように あのように



二 重要な構文

A ではなく(だけでなく・ばかりでなく) B
A であって B でない
A むしろ・それよりも B
たしかに・もちろん・なるほど・むろん A しかし・だが・けれども・が B
A とは(というのは・こそ) B
〜であろうか(問い)。〜だ(答え)。
〜と思う・考える・と信じる

三 呼応の副詞の例

けっして〜ない
まるで〜ようだ
いかにも〜みたいだ
もちろん〜わけではない
ただ〜だけ
なぜなら〜からである
おそらく〜だろう
もし〜ならば・ても
たとえ[たとい]〜ても・でも・とも・ども・にせよ・とはいえ

四 接続詞の具体的な使い方

A〜また・あるいは
考えや立場を並べて説明したいとき
Bさらに
前の考えに新たに考えをつけ加えたいとき
Cそして・そうして
順序づけて展開したいとき
Dつまり
説明してきたことを要約したいとき
Eところで・さて
話題を転じたいとき
Fしたがって・だから
前提を書いたあとで結論づけるとき
Gいいかえれば
読み手にわかりやすく伝えたいとき
Hしかし・けれども・これに対して・一方
反対・対立の関係を示したいとき

五 上手な文章表現法

A並立
(例)精進料理は健康的であり、安価である。
B限定・条件(―のとき・―において)
(例)父は酒を飲んだとき、暴言を吐く。その言葉は、専門家にはよく知られている。
C理由(―ので・―だから・―のため)
(例)彼は、働いて家計を助けるために学校を辞めた。
D対立
(例)与謝蕪村は画家としてではなく、俳人として評価されている。

古文・漢文・現代文の予備校テキストのやり方

古典(古文・漢文)の学び方・考え方

1 予習・読解問題の解き方・・何も見ないで自力でとく
1.前書き・注・設問に軽く目を通す。
2.口語訳しないで、本文を読む。
3.解けそうな問題を解く。
4.本文と設問とを交互に対照させて読解しながら、残りの設問を解く。
※必ず、空所・傍線を含む一文を確認してから分析して解くこと。設問を解きながら本文を読解すること。

2 復習のやり方
1.音読しながら、気になった古文単語・文法事項を辞書で調べてメモする。
2.間違えた設問について、読み取れなかった箇所をマーカーで塗る。

3 基礎力の高め方
1.読解・・問題集
2.文法・・問題集・参考書・辞書
3.単語・・単語集・辞書・教科書の脚注
4.基礎知識・・国語便覧・辞書

4 思考力・教養の高め方
1.疑問点は、すぐに調べてみる。
2.ノート・メモ・コピーを活用する。
3.Google検索を活用する。
4.岩波ジュニア新書などの新書












現代文の学び方・考え方

1 予習・読解問題の解き方・・何も見ないで自力でとく
1.前書き・注・設問に軽く目を通す。
2.本文を軽く読む。
3.解けそうな問題を解く。
4.本文と設問とを交互に対照させて読解しながら、残りの設問を解く。
※必ず、空所・傍線を含む一文を確認してから分析して解くこと。設問を解きながら本文を読解すること。

2 復習のやり方
1.気になった語句を辞書で調べてメモする。
2.間違えた設問について、読み取れなかった箇所をマーカーで塗る。
3.内容がつかめなかった問題については、速音読が効果的。

3 基礎力の高め方
1.読解・・問題集
2.語句・・現代文用語集・辞書・教科書の脚注
3.基礎知識・・国語便覧・辞書・Google

4 思考力・教養の高め方
1.疑問点は、すぐに調べてみる。
2.ノート・メモ・コピーを活用する。
3.Google検索を活用する。
4.岩波ジュニア新書などの新書

テンス・アスペクト論と日本語教育

第24回國學院大學日本語教育研究会
発表資料 2018年7月21日(土)

テンス・アスペクト論と日本語教育

國學院大學兼任講師
大東文化大学非常勤講師
岡田 誠

はじめに

言語学・日本語学・日本語教育において、重要な概念として、「テンス・アスペクト」という概念がある。しかし、その捉え方は研究者によって大きく異なり諸説ある。
本発表ではテンス・アスペクト論の変遷を概観していき、日本語教育にはどのような影響を与えてきたか、そして、日本語教育ではどのように受容され、どのような問題点があるのかを考察する。

1.テンス・アスペクト論の背景としての日本語記述文法

日本語文法としては、大槻文彦の流れを汲む橋本進吉の文法が学校文法として使用され、規範文法とされたが、言語の使用実態としては現代語では不整合を生じたことから、言語の使用実態に即した日本語記述文法の流れが生じることになった。それとともに、文法論の焦点も移り変わってきた。野田尚史(2005)は、以下のように文法論の焦点の時代区分を示している。

1900年頃−1950年頃:総合文法の時代
(代表)松下大三郎(1928)『改撰標準日本文法』紀元社
1950年頃−1970年頃:理論文法の時代
(到達点)渡辺実(1971)『国語構文論』塙書房
1970年頃−2000年頃:記述文法の時代
(典型)日本語記述文法研究会編(2003)『現代日本語文法4 第8部モダリテ
ィ』くろしお出版

このように、日本語記述文法研究会のものが一つの典型となっているが、益岡隆志(2003)は、現代語(日本語話者の母語)を対象として具体的な言語事実の観察を重視する文法研究の流れである日本語記述文法を戦後に限定した場合、以下の三つに分けられるとしている。

1奥田靖雄をリーダーとし鈴木重幸や高橋太郎などがメンバーである「言語学研究会」(教科研グループ)の流れ
2南不二男の研究の流れ
3三上章から寺村秀夫に受け継がれた流れ

1の流れに関して須田義治(2008)は、教科研グループの中心人物は、東京大学ローマ字会を組織していた鈴木重幸が中心であり、その鈴木重幸に理論的な基礎を与えたのが奥田靖雄であり、執筆代表は奥田靖雄であるものでは、動詞の部分に関しては鈴木重幸が実際には執筆している点を指摘している。また、鈴木重幸が田丸卓郎の本を読み、さらには宮田幸一の本に衝撃を受けた点を指摘し、「戦後の日本語研究は、佐久間鼎や三上章や三尾砂など、傍流の日本語研究者によって、前進させられてきたが、宮田幸一も、そうした研究者のうちの一人と見ることができるだろう。三上を継承する寺村秀夫の影響を受けた研究者たちが、現代語研究の大きな流れをつくっているように、宮田に影響を受けた鈴木重幸の研究が、また、直接的にも間接的にも、多くの現代語研究者に影響を与えていることを見るなら、(三上に比べれば、その残した日本語研究は、量的にはわずかであるけれども)、宮田にも、再評価の光があてられてもいいのではないだろうか」と述べている。
3の流れに関して鈴木一(2008)は、「学校文法の範疇だけでは処理しにくい、日本語の根本にある諸問題に取り組んだ研究の系譜として、松下大三郎−佐久間鼎−三尾砂−三上章−金田一春彦などの諸家の豊かな業績があることを銘記したい。それはみな『改撰標準日本文法』からの発信を受けてのことなのである」と述べている。
後に述べるが、この1と3の流れの背景をもつテンス・アスペクト論が日本語教育には折衷的に取り入れられている。この点でも、この日本語記述文法の背景は重要であると考える。

2.テンス・アスペクト論の変遷

現在は、テンス・アスペクト論は、その定義をめぐる問題や「ている」「た」という語の形式の意味するものへの捉え方の違いに重点があるが、その基本となるテンス・アスペクト観の変遷をまとめてみる。小矢野哲夫(1982)は、テンス・アスペクト観の変遷を3期(萌芽期・成長期・転換期)に分類している。以下に、その3期の区分にしたがって、代表的な人物をとりあげてみると以下のようになる。

(1期)萌芽期
松下大三郎(1901)・三矢重松(1908)・山田孝雄(1908)・細江逸記(1932)
小林好日(1927)・佐久間鼎(1936)・宮田幸一(1948)・金田一春彦(1950)
三上章(1953)
(2期)成長期
金田一春彦(1955)・鈴木重幸(1957)・鈴木重幸(1958)・鈴木重幸(1965)
鈴木重幸(1972)・國弘哲彌(1967)・高橋太郎(1969)・寺村秀夫(1973)
佐川誠義(1972)
(3期)転換期
奥田靖雄(1977)・鈴木重幸(1979・1996)・高橋太郎(1985)
工藤真由美(1982ab・1995)・森山卓郎(1984・1988)

3.テンス・アスペクト論の諸問題

3.1動詞分類

戦後のアスペクト研究は、金田一春彦(1950)の「ている」を付けることによる、動詞の分類から始まった。この論の流れで研究が行われ、鈴木重幸、藤井正、高橋太郎などの研究を経て、吉川武時のあたりで到達点に達した。この金田一春彦分類は、哲学者のヴェンドラーの英語の動詞分類にも似ていることから、注目されている。以下に金田一春彦の分類とヴェンドラーの分類を三原健一(1997)が整理したものを示してみる(p.116,p.133)。

金田一春彦の動詞分類(1950)
1.状態動詞(ある、いる、など)
2.継続動詞(読む、書く、降る、吹く、など)
3.瞬間動詞(死ぬ、消える、壊れる、割れる、など)
4.第四種動詞(そびえている、優れている、など)


ヴェンドラーの動詞分類(1967)
1.活動(activity)
動的・継続的・未完了的動詞(laugh,strollなど)
2.完成(accomplishment)
動的・継続的・完了的動詞(build a house,walk to schoolなど)
3.達成(achievement)
動的・瞬間的・完了的動詞(win the race,reach the topなど)
4.状態(state)
状態的・継続的動詞(know,loveなど)

金田一春彦の論を批判したのが奥田靖雄であった。そして、奥田靖雄は、以下のような対応関係で形態論的に捉え直し、「継続動詞は主体動作動詞(動作継続・動作進行)」、「瞬間動詞は主体変化動詞(結果継続)」と修正した。後に「限界動詞」「非限界動詞」という考え方も示した。

完成相 継続相
非過去 スル シテイル
過去 シタ シテイタ

この奥田靖雄の論を受けて発展させたのが工藤真由美と鈴木重幸である。工藤真由美は「パーフェクト」という概念を入れた。また、運動動詞と非運動動詞とに分け、動詞の語彙分類を行った。その一部を以下に示す(p.175)。

運動動詞
時間的展開性がある
(時間的限界あり)
動態的 主体動作:
開ける、殺す、作る、壊す、消す、叩く、飲む、読む、歩く、泳ぐ・・
主体変化:
開く、死ぬ、出来る、壊れる、消える、太る、出かける、来る、帰る・・ アスペクト対立あり
テンス:スルは未来
非運動動詞
時間的展開性がない
(時間的限界なし)
静態的 状態:
信じる、迷う、困る、痛む、匂う、見える
存在:
ある、いる、存在する、点在する
特性:
優れている、しゃれている、ありふれている
関係:
一致する、違う、共通する、属する、兼ねる アスペクト対立なし
(部分的対立)
テンス:スルは現在
(または恒常性)


その後、「テリック(完了的)」「アテリック(未完了的)」という概念も導入されたが、鈴木重幸(1996)は「ペルフェクト的な過去(実現の後、現在に結果や状態が残っている)」と「アオリスト的な過去(過去の実現だけが問題で、現在の状態との関係は問わない)」という概念を導入した。
寺村秀夫(1984)は、一次アスペクト、二次アスペクト、三次アスペクトとわけ、その局面の語句を動詞にいれた。ル形とタ形(1次アスペクト)、「動詞+テ+イル、アル、シマウ、等」(2次アスペクト)、「動詞連用形+ハジメル、ダス、ツヅケル、オワル、等」(3次アスペクト)である。その流れを森山卓郎(1988)が発展させ、その局面を時定項でみていく方法をとり、発展させていった。このように日本語記述文法の流れは、教科研グループのものと、寺村秀夫系統のものとがあることがわかる。

3.2テンスの諸説

日本語のテンスについての諸説があり、一定していない。以下にテンスの諸説を示してみる。

(テンスの諸説)
1テンス説
ル形とタ形が過去・現在・未来という時間の概念を表す
2完了・未完了説・・國弘哲彌(1967)・佐川誠義(1972)
日本語にテンスはなく、文脈依存による事態の完了・未完了を表す。
3両者の中間的な説・・日本語教育の主流
テンスと完了の両方を表す
日本語教育では3が主流〈原沢伊都夫(2010)p.63〉

3.3「ている」の諸問題

報告性の動作主の三人称化・要約・引用・解説文の「ている」の用例が多く存在するため、柳沢浩哉(1994)のように、「ている」の非アスペクト性の強さを指摘する研究報告もある。また、小柳智一(2018)は「ている」に既実現性・現実性の付与として扱っている。「ている」に主観性かどうかという議論であるが、主観と客観というものが持ち込まれることがあるが、この用語は曖昧な用語であるため、批判も多い。特に、ダイクシス、やりもらい、ヴォイスの「れる・られる」にも主観を認めてしまう立場もあり、拡大しすぎてしまう。最終的に、視点の移動にも主観というものが存在してしまうことになる。また、客観というものは本当に存在するのかどうかも疑わしい面がある。しかし、間主観性という複数の主観性を重ね合わせるというのも問題がある。そのため、小柳智一(2018)は、「対人性」という用語を用いて説明を試みている。今後、主観性は文法用語として扱いが難しくなることが予測されるところである。金水敏(1995)は、日本語史研究の立場から、「ている」の進行態を「強進行態」と「弱進行態」とにわけることを提案している。

3.4「た」の諸問題

福田嘉一郎(2001)は、「た」の研究の立場を「意味論的研究」「形態論的研究」「統語論的研究」の三つに分けている。以下に「た」の捉え方の諸説をまとめてみる。
回想・ムード的・・山田孝雄(1922)・細江逸記(1932)
完了・・松下大三郎(1930)
ムード・モダリティ・・寺村秀夫(1973)
過去・・金水敏(1998)・定延利之(2014)・井上優(2014)
確述・・森田良行(2001)「主観的な認識を添える」
大鹿薫久(1990)は、「た」はムード的な回想と過去とにまたがるものであり、川端善明(1964)の「過去・現在・未来は、回想・直感・予期なる志向三作用の対象的性質として求められるのである」という記述を支持し、「テンスと言うときそれは描かれた世界の時間的な区分だけではなく、そのように区分する意識の作用がすでに内包されているということを、銘記する必要があるということである。そして、それはそれ以前とそれ以後という基準を意識の〈今〉に求めざるをえなかった当然の帰結なのである」と述べている。そして、また、大鹿薫久(1990)は、「た」の命令・要求・発見・驚き・感動は、相手に要求するという場面で呼びかけ的に実現されるもので、「た」の問題ではないとする。
また、金水敏(1998)、定延利之(2014)は、「た」には過去だけを認めて、そこに情報などのエビデンシャリティ、ミラティヴィティが加わったものとして扱っている。

3.日本語教育でのテンス・アスペクトの受容

以下にテンス・アスペクト日本語教育文法ではどのように扱っているのかについて、日本語教師が教授資料として参照すると考えられる日本語教育文法関連の書籍をみてみる。
日本語教育の事典の項目の執筆者をみると、「テンス」「アスペクト」の捉え方がある程度見えてくる。また、そのことは、日本語教育での「テンス」「アスペクト」の受容の傾向をも示していると考えることができる。以下に、日本語教育の事典と「テンス」「アスペクト」の項目の執筆者を示してみる。

【事典】
a日本語教育学会編(1982)『日本語教育事典』
「テンス」・・寺村秀夫
アスペクト」・・吉川武時
b日本語教育学会編(2005)『新版 日本語教育教育事典』
「テンス」・・岩崎卓
アスペクト」・・森山卓郎
c近藤安月子・小森和子編(2012)『研究社日本語教育事典』
「テンス」「アスペクト」・・近藤安月子

日本語教育事典』では、寺村秀夫が「テンス」の執筆者である。寺村秀夫は英語との比較から日本語を分析しており、テンスについてはモダリティの側面について着目していた研究者である。『新版 日本語教育』では、岩崎卓が「テンス」の執筆者である。岩崎卓(2000)は、「た」を過去で一括して捉える金水敏、井上優の研究を踏襲しており、アスペクトとテンスとモダリティとの連続性には否定的である。
日本語教育事典』では、吉川武時が「アスペクト」の執筆者である。吉川武時は教科研グループの中でも、奥田靖雄とは一線を画しており、金田一春彦アスペクト論の到達点を示す論を成し遂げた、東京外国語大学日本語教育に従事した研究者である。吉川武時(1982)は、以下のように整理している。
(1)進行の状態 花子さんは今本を読んでいます。
(2)結果の状態 月が出ています。
(3)単純状態 桟橋が湖に突き出ている。
(4)経験 彼は二十歳のときにその曲を作曲している。
(5)くりかえし 家には毎日大工さんが来ています。
日本語教育では(1)と(2)を教え、次に(3)を教え、(4)と(5)は実際の例にぶつかったときに取り上げるとしている。(1)と(2)は重要なので、動作の順に以下のように示すとしている。
読む(主体の動作・継続動詞)→読んでいる→読んだ
出る(主体の変化・結果動詞)→出た→出ている
また、吉川武時(1982)では、「アスペクトと言っても、ボイス、ムードと関連しているので、アスペクトだけを切り離して研究するのは、困難なことである」と述べている。  
『新版 日本語教育事典』では、森山卓郎が「アスペクト」の執筆者である。森山卓郎は、寺村秀夫・仁田義雄という文の成立をモダリティに見る研究者である。森山卓郎(1988・1997)はモダリティの視点でみるため、奥田靖雄の影響のもと、教科研グループで「パーフェクト」という概念をアスペクトに持ち込んだ工藤真由美とは、テンス・アスペクト観でも異なっている。また、森山卓郎(1988)で局面によって分析していく「時定項分析」を提唱しているため、日本語教育としては取り入れやすいと考えられる。
このように日本語教育学会の基本的な方向としては、モダリティに文の成立を見る方向性の中でテンス・アスペクトを見る考え方が見えてくる。ただし、そこには主観・客観という、その定義づけの難しい視点の問題があることは指摘しておきたい。
なお、『研究社日本語教育事典』は、「テンス」「アスペクト」ともに近藤安月子の執筆である。その記述の方法は、「テンス」「アスペクト」ともに、精密な動詞分類を行う教科研グループのものと、モダリティに文の成立をみる寺村秀夫・仁田義雄の系統のものとを折衷している記述である。
次に、教授資料として活用されていると思われる書籍類の記述を整理してみることとする。

【教授資料(別記)】
a小泉保(1993)『日本語教師のための言語学入門』pp.118−130
文法的カテゴリーの中の動詞関係のカテゴリーで立項
時制・・話し手がある発話をなしている時、すなわち言語伝達を行っていると
きを「発話の現在」と呼ぶ。・・〈中略〉・・時制は、発話の現在時を
基準として、相対的にとらえられた時間の文法的表示である。
相・・相は動詞の示す行為が完結している(完了的)か、完結していない(未
完了的)かを表す文法的表示である。
(立項)
ル形・タ形
テイル形・テアル形・テオク形・テシマウ・テオク・テクル・テイク
b松岡弘監修(2000)『初級を教える人のための日本語文法ハンドブック』pp.40−
71
テンス・・発話時と時間的前後関係を問題にするもの
アスペクト・・出来事の時間的性質に関わるもの
(立項)
ル形・タ形
てしまう・たことがある・たことがない・ことがある
ている・ているところだ・つつある・続ける・だす・終わる・やむ
ところだ・てある・ておく・てみる
c白川博之監修(2001)『中上級を教える人のための日本語文法ハンドブック』
pp.68−101
テンス・・出来事が起こったときと発話時/基準時との時間的前後関係を表す
概念
アスペクト・・開始、継続、終結などの出来事の局面を表す概念
立項
ル形・タ形
テイル形・たことがある・ことになる
〈直前・開始〉かける・ようとする・始める・だす
〈継続〉続ける・つつある
終結・直後〉終わる・終える・きる・つくす・たばかりだ
〈ところだ〉ところだ・たところだ・ているところだ
・ていたところだ・ところだった
d庵功雄(2001)『新しい日本語学入門』pp.142−165
テンス・・出来事と発話時の時間関係(以前〈過去〉、同時〈現在〉、以後〈未
来〉)を表す文法カテゴリー
アスペクト・・出来事がどのような局面にあるかを表す文法カテゴリー
※テンスが出来事などが起こった「時点(時間的前後関係)」を表すのに
対して、アスペクトは出来事などの「局面」を表す。
(立項)
ル形・タ形
テイル形・テイタ形
e近藤安月子(2008)『日本語教師を目指す人のための日本語学入門』pp.67-77
テンス・・時間軸に沿った出来事の述べ方
アスペクト・・出来事を時間軸上ではなく動きの側面から捉える文法範疇
(立項)
ル形・タ形
テイル形・テアル・テオク・テシマウ・(トコロダ・バカリダ)

庵功雄(2001)『新しい日本語学入門』は、「スル」と「シタ」、「シテイル」と「シテイタ」の対立図式を示した奥田靖雄(1977)の論を使用していることがわかる。他は、局面を示す表現として項目を立て、寺村秀夫(1982a)の示した1次アスペクト、2次アスペクト、3次アスペクト町田健(1989)の「ている」と「てある」の対立図式、森山卓郎(1988)の「時定項分析」の方に力点を置いていることがわかる。
テンス・アスペクトの議論の際、問題となるのは「タ形」と「テイル形」である。日本語教育では、松岡弘監修(2000)『初級を教える人のための日本語文法ハンドブック』・白川博之監修(2001)『中上級を教える人のための日本語文法ハンドブック』・庵功雄(2001)『新しい日本語学入門』が重要である。須賀義治(2003)は「前者二冊は、日本語教育のために書かれた文法の包括的な概説書であり、後者は、最新の日本語学の成果が的確にまとめられえたものである」とし、野田尚史(2005)は二冊の『日本語文法ハンドブック』を日本語文法の成果を日本語教育に応用する時代の研究の成果としている。また、よく利用されるものとして市川保子編(2010)『日本語誤用事典』がある。以下に、その記述をみることとする。

松岡弘監修(2000)『初級を教える人のための日本語文法ハンドブック』
タ形の二つの意味
(1)A:(午後6時ごろに)昼ごはんを食べましたか。(過去)
B1:〇はい、食べました。/×はい、もう食べました。
B2:〇いいえ、食べませんでした。
B3:×いいえ、まだ食べていません。
(2)A:(午後1時ごろに)昼ごはんを食べましたか。(完了)
B1:〇はい、食べました。/〇はい、もう食べました。
B2:×いいえ、食べませんでした。
B3:〇いいえ、まだ食べていません。
−ている
(1)田中さんはレストランで夕食を食べています。(動作・出来事の継続)
(2)教室の窓ガラスが割れています。(状態の継続)
変化動詞「死ぬ」「割れる」「溶ける」など(状態の継続)
状態動詞「走る」「降る」など(動作・出来事の継続)

白川博之監修(2001)『中上級を教える人のための日本語文法ハンドブック』
発見、再認識(想起)を表すタ形
(1)探していた傘、こんなところにあった。(発見)
(2)お名前は何とおっしゃいましたっけ。(再認識)
(3)会議は明日だった。(再認識)
(4)明日吉田さんと会うんだった。(再認識)
モダリティ形式のタ形
(1)彼はパーティーに来るはずだった。(反事実)
(2)大統領は辞職するべきだった。(反事実)
テイル形の基本的用法
(1)田中さんは部屋で勉強をしている。(進行中)
(2)掛け時計が止まっている。(結果残存)
(3)佐藤さんは毎日散歩をしている。(習慣)
経験・経歴を表すテイル形
(1)田中さんは去年まで3年間この店で働いている。(経験)
(2)この橋は5年前に壊れている。(経歴)
テイル形と「−たことがある」
(1)田中さんは3年前にその映画を見ている/見たことがある。
(2)田中さんはおとといその映画を〇見ている/×見たことがある。
(3)私はなまこを?食べている/〇食べたことがある。
完了、反事実を表すテイル形
(1)私が部屋に入ったとき彼は(すでに)死んでいた。(完了)
(2)あのとき彼が助けてくれなかったら僕は死んでいた。(反事実)

市川保子編(2010)『日本語誤用事典』
ている→子どもはテレビを見ている。車が止まっている。
「動作の進行」「動作の結果の残存(状態)」「事態の実現・完了」(例:昼ご
飯はもう食べている。)「経歴」(例:中東には3回行っている。)など多くの
意味用法を持つ。また、「ていない」の形で「事態の未実現・未完了」(例:
昼ご飯はまだ食べていない。)を表す。
(関連項目)る・た・ていない、てある、てくる、ていく、自動詞、他動詞
た→先月九州に行った。おなかがすいた。
過去および完了を表す。「おなかがすいた」のように状態を表したり、「知っ
たことではない」のように話し手の心的態度と結びつく用法も持つ。
(関連項目)る、ている・ていない、ことがある、名詞修飾節、トキ節「と
き」

このようにテンス・アスペクト論を日本語教育では、言語の使用実態に即した記述文法のものを採用していることがわかる。その記述文法の流れは益岡隆志(2003)の分類に従うと、奥田靖雄をリーダーとする教科研グループのものと、寺村秀夫の系統のものとが折衷的に受容されていることがわかる。特に奥田靖雄以降のアスペクト論は、現在のアスペクト研究につながる基礎となっており重要である。
呉幸栄(2003)は奥田靖雄をリーダーとする教科研グループの作成による、日本語テキストの『にっぽんご』シリーズを高く評価し、その解説書として書かれた鈴木重幸(1982)『日本語文法・形態論』は、日本語テキストや文法書づくりに大きな影響を与えたことを述べている。また、彭広陸(2004)は、奥田靖雄が中国に私費で渡航し、南京大学・北京外国語大学・北京大学などで、特別講演、集中講義、共同研究会、シノジウムなどで発表してきたことで、中国の日本語学に新風を与え、中国の言語学の研究誌で、その業績が紹介されるほど高く評価され、大きな影響を与えたことを述べている。

結語

日本語教育でのテンス・アスペクト論の受容は、記述文法の流れを受け継いでいる。その記述文法を受容する際、奥田靖雄の教科研グループのものと、寺村秀夫のものが参考にされている。形態論的には奥田靖雄の影響が濃く、実質は局面をみていく寺村秀夫の系統のものが色濃く反映されている。そこには、できるだけ整理して日本語を教えると方向性が見える一方で、日本語学、言語学で問題となっている、主観性、客観性、テンス、アスペクト、ムード、モダリティの捉え方をどのようにするかという問題も残る。

(参考文献)
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森山卓郎(1988)『日本語動詞述語文の研究』明治書院
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【参考資料】−辞典類に見る定義(抄出)−
A『日本語教育事典』の記述
「テンス」
ある時の一点(基本的には発話時)を基準として、描こうとする事象がその時のことであるか、それより前か、あるいは、それより後かによって、言語形式(普通は動詞の形態)が一定の規則性をもって変化するとき、その言語はテンスをもつといい、その文法形式をテンスという。・・〈中略〉・・過去・現在・未来といえば一見客観的な区分のように思われるけれども、言語形式と結び付けてそれを考えるときは、話し手の主観的な事象の把握(はあく)のしかたを問題にしなければならず、その意味でテンスというのはムードまた一方ではアスペクトの体系と切り離して考えることはできない。【寺村秀夫】
アスペクト
あることがどんな状態にあるか、ある動作・作用がどんな過程にあるかの別をアスペクトという。アスペクトの研究には二つの方向がある。一つは、宇宙空間の現象から説きこし、それぞれの現象の体系に従って、どんな言語形式が用いられるかを考察し、その言語形式を分類するという方向、もう一つは、言語形式自体の中に問題点を見つけ出し、アスペクトを表す思われる形式を取り上げ、その形式の用法について研究するという方向である。先の方法では、問題の把握(はあく)のしかたが哲学的にすぎ、結果として一つのアスペクトのカテゴリーのところに、いろいろな言語形式が集まることになる。後の方法では、言語形式そのものから出発する点で考察がしやすい反面、問題の形式をすべて取り上げきれないこと、考察の対象がアスペクト以外のヴォイス、ムードにまで広がってしまうなどの問題点がある。【吉川武時】
B『新版 日本語教育事典』の記述
「テンス」
述語が示す事態は、通常、時間軸上において生起する。たとえば、「太郎が東京へ行
った」という文では、〔太郎が東京へ行く〕という事態は、時間軸上における過去
において生起したことが意味され、また「太郎が東京へ行く」という文では、〔太
郎が東京へ行く〕という事態が、未来において生起することが意味される。このよ
うに、通常、述語が表す事態は、文において時間軸上のどの時点においてのことが
表されるが、述語が表す事態を、時間軸上のどの時点のこととして位置づけるのか
(過去か現在か未来か)、その表し分けにかかわる文法形式を「テンス」と呼ぶ。
「テンス」という文法形式とは、具体的には、「行った」「暑かった」「休みだっ
た」のように「た」が付加した形態(タ形)と、「行く」「暑い」「休みだ」という
「た」が付加しない形態(ル形)の対立である。述語が表す事態を時間軸上に位置
付け、それを過去・現在・未来とするには、基準点が必要となる。その基準点が、
典型的には、会話文の主文末におけるテンスについては、発話時となる。発話時を
基準として、時間軸上の以前に位置づけると「過去」となり、同時に位置づけると
「未来」になる。このように、発話時を基準として、述語が表す事態を時間軸上に
位置づける文法形式を、「絶対的テンス」と呼ぶ。一方、従属節におけるテンスの
場合、主節が表す事態の時(=主節時)を基準として、それより以前か同時か以後
かを表し分けるということがある。たとえば、「来年博士号を取った人を、助手に
採用しよう」という文では、「取った」は発話時には未来のことであるが、主節時
から見て過去のこととしてタ形になっている。これを絶対的テンスと呼ぶ。動きを
表す動詞の「した」については、「昨日は晩ご飯を食べた」「昨年はアメリカに行っ
た」の「食べた」「行った」のように、事態を発話時現在と切り離されたものとし
て表現するものと、「晩飯はもう食べた」「さくらちゃん、大きくなったねえ」の
「食べた」「大きくなった」のように、事態を発話時現在にも関連したものとして
表現するものがある。前者をアオリスト的な過去、後者をペルフェクト的な過去と
し、両者をテンスとする研究もあれば、前者を過去というテンス、後者を完了とい
アスペクトとする研究もある。また、前者をアスペクトは完成相、テンスは過去
とし、後者をアスペクトはパーフェクト相、テンスは現在とする研究もある。【岩
崎卓】
アスペクト
アスペクトとは、進行中かどうかなど、動きの局面(aspect)の捉え方に関する表現のグループである。基本的に動詞述語においてしか問題にならない。とくに、事態を状態として捉えるか、状態ではなく動きとして捉えるかの区別を、狭い意味でのアスペクトと呼ぶこともある。形態的には、無標のスル形か状態としての捉え方になるシテイル形かの選択がアスペクトの中心的な形である(ほかにシテアル、シツツアルなども状態を表す)。なお、これに対してシハジメルなどの複合動詞が出来事の開始局面や終結局面を表すこともあるし、シテクルなどのテ形形式も事態の進展など、動きの時間的局面を表す。こうした事態そのものの時間的局面の表し方もアスペクトの中に含まれるが、とくに区別する場合には、アクチオンスアルト(aktionsart)と呼ばれることもある。なお、アスペクトは、以前、以後といった出来事の時間的関係を表す場合にも関わることがあり、テンスに隣接している。たとえば「すでにそのとき〜している」というとき、以前に動作があったということの有効性を、状態表現を用いて表すことになっている。こうした表現はパーフェクトと呼ばれる。パーフェクトもアスペクトの枠内で考えられるのが普通であるが、これはテンスにも無関係なわけではない。通常、過去成分はル形と共起しないが、テイル形によるパーフェクトの表現では、「去年死んでいる」のように、過去の副詞がル形と共起することができる。この例でいえば、「去年」が出来事の時を示し、そういうことが先行して起こっているという経歴が現在において有効であると表現されているのである。【森山卓郎】
C『研究社日本語教育事典』
「テンス」
文が表す事態を時間軸上に位置づけ、基準となる時点と文の内容との時間的な関係の概念を示す述語の文法範疇(grammatical category)。テンス(tense)、モダリティ(modality)と共に、述語の文法範疇のTAMと称されることがある。テンス形式が表す時の概念は、述語の種類により異なる。例えば、日本語の動きのある動詞の場合、「yom-u(読む)」、「tbe-ru(食べる)」は「yon-da(読んだ)」「tabe-ta(食べた)」のようにu/ruとda/taとの形態的な対立を成す。発話現在を基準とすると、「読む」「行く」は基準時より後に位置づけられ、「読んだ」「行った」は基準時より前に位置づけられる。一方、状態性述語の場合、例えば「いる」「わかる」は基準時より後の状態を表すのではなく、基準時に存在する状態を表し、「いた」「わかった」は、「読んだ」同様に基準時より前の状態を表す。また、形容詞や名詞述語の場合も、「よかった」「学生だった」は基準時より前の事態の状態を表すが、「よい」「学生だ」は基準時に存在する事態を表す。・・〈中略〉・・発話時との関係で決定される場合を絶対的テンス、主節のテンスとの関係で決定される場合を相対的テンスと呼んで区別することがある。(p.9)
アスペクト
ある現象がどのような局面の対立から捉えられるかを示す動詞の文法範疇(grammatical category)。テンス(tense)、モダリティ(modality)と共に、述語の文法範疇のTAMと称される。構文レベルの文法的アスペクトと語彙レベルのアスペクトがある。文法的アスペクトは、動きや変化を構文レベルで時間的な側面を対立させて捉える。ある参照時点での動きや変化について、完了したかどうか(完了相perfect/非完了相imperfect)、継続する事態かどうか(継続相durative/非継続相non durative)、進行中の動きかどうか(進行相progressive/非進行相non progressive)等の対立は文法的アスペクトである。日本語では、文法的アスペクトを、動詞のル形、テイル形、タ形が担う。語彙的アスペクトの基本的対立は、静態的(stative)か動態的(active/dynamic)かによって、動詞の意味を、時間的経過による変化に伴わない状態と変化を伴う過程(活動、行動等)に分ける。また、動詞(動詞句)が表す動きや変化を、時間と関係ない1回限りの完結したまとまりかどうか(完結性、perfectiveness)、限界点があるかどうか(限界性、telicity)、瞬間的かどうか(瞬間性、punctuality)等によって分けることもできる。(p.2)
D『日本語学キーワード事典』の記述
「テンス」
言表事態の成立時点と、発話時点や基準になる一時点との時間的な前後関係を、述
語の形によって規則的に表す文法システム。現代日本語では、ル形とタ形によって
現在・未来(非過去)と過去とに二分される。【赤羽根義章】
アスペクト
動きの時間的なとらえ方で、動詞の形態によって表し分けられる。アスペクトは構
文的にはヴォイスとテンスの間に位置し、意志・希望・命令などのムード表現を付
加した表出文にも現れることができる。の表現形式には、ル形とタ形(1次アスペ
クト)、「動詞+テ+イル、アル、シマウ、等」(2次アスペクト)、「動詞連用形+ハ
ジメル、ダス、ツヅケル、オワル、等」(3次アスペクト)がある。【赤羽根義章】
E『日本語文法事典』の記述
「テンス」1
テンスとは元来、(西欧諸語において)「発話時を基準とした出来事の先後関係」と対
応する「動詞の形態的対立」を指す概念である。・・〈中略〉・・テンスは動的述語と静
的述語で振る舞いが異なっている。動的述語は、動作や変化など、時間的な局面の進
展を意味として持つ述語で、通常の動詞および動詞にラレル、サセル、テシマウ等の
接辞が付いたものがこれに当たる。静的述語は、時間的進展性のない特性、一時的状
態、存在等を表す述語、すなわち形容詞・形容動詞、名詞述語(名詞+「だ」「であ
る」等の判定詞)、「ある」「いる」等の存在動詞や、動詞にテイル、テアルその他の接
辞が付いた形等がこれに当たる。【金水敏
「テンス」2
テンス(時制)は、事象の時間的位置を表す文法的カテゴリーであり、すべての述語
にある。終止の構文的位置では、発話時を基準にして発話以前か、発話時と同時ある
いは以後かを表し分ける。・・〈中略〉・・文法化の観点からは、より具体的な時間を表
アスペクトから、抽象的な時間を表すテンスが発達する。現代語のシタ形式もかつ
てはアスペクト形式であった。・・〈中略〉・・テンスは、基本的に発話時を基準とする
点でダイクシスの1つである。従って、発話時が基準とならない小説の地の文等では、
テンス形式の意味・機能が異なってくる。・・〈中略〉・・世界の諸言語を見渡すと、過
去形が複数ある言語もある。東日本のなかにも、2つの過去形がある方言がある。遠
い過去か近い過去かといった時間の長さの違いではなく、話し手の体験したことかそ
うではないのかを表し分ける。【工藤真由美】
アスペクト」1
どのような言語でも、コミュニケーション活動においては、時間的にみて、出来事が「いつ、どのように」起こる(起こった)のかを伝えなければならない。・・〈中略〉・・日本語ではこのような語彙的な表現手段のほかに、述語が文法的に形を変えることによって、出来事の時間を表しわける。これがアスペクトとテンスであり、2つの文法的カテゴリーはともに時間を捉えている点で共通している。このうちアスペクトは、動的な時間的展開を表す「運動動詞」において成立する文法的カテゴリーであり、「運動の時間的展開の捉え方の違い」を表し分ける。アスペクトという用語は広義にも狭義にも使用されるが、文法化の最も進んだ形態論的対立を形成する場合が、狭義のアスペクトである。【工藤真由美】
アスペクト」2
進行中かどうかなど、動きの時間的側面の取り上げ方による表現の違いをアスペク
トと呼ぶ。アスペクトは基本的に動きを表す動詞述語において問題になる。動きの述語の場合、そのまま動きとして取り上げる場合と状態として取り上げる場合とがある。【森山卓郎】