ブリーフセラピー

ブリーフセラピー
⑴ ブリーフセラピーの理論
ブリーフセラピーは,アメリカの精神科医であるミルトン・H・エリクソンの天才的な
奇妙な治療に基づいた,多くの理論モデルがあります。共通しているのは,治療の効果性
や効率性を重視して,治療を短期に終結することです。
従来の心理療法は,問題志向的・過去志向的,つまり,問題は何か,なぜ問題が起こっ
たのかを,過去にさかのぼることによって解明しようとしていました。
それに対してブリーフセラピーは,そんなものはどうせわからないし,わかったとして
もどうにもならないと考えます。そして,解決志向的・未来志向的,クライエントが「ど
うなりたいのか」「どうなればいいのか」「どうなっているのか」といった解決や未来に
焦点を当てます。
基本的なルールは次の3つです。
①もしうまくいっているなら,それを直そうとするな。
②もし一度うまくいったなら,またそれをせよ。
③もしうまくいっていないのなら,何か違うことをせよ。
プリーフセラピーの姿勢
①クライエントに合わせようと思うこと。
②2つ以上の方法が頭の中に浮かんでいること。
③そのうちどれがクライエントに合っているかをクライエントに聞くこと。
④うまくいった時にはクライエントを誉め,うまくいかなかった時はカウンセラーはすぐ
謝ること。
⑵ ブリーフセラピーの技法
①マッチング(ペーシング)
マッチングとは,クライエントに合わせることです。「受容」と言うとクライエントが
やってくるのを待って受け入れる感じがするが,「合わせる」はカウンセラーがクライエ
ントの所へ行く感じがして,より積極的・能動的です。
また,「共感」と言うと対象が主に感情や情緒になりますが,「合わせる」は対象が主
にクライエントの使っている言葉や行動,価値観,考え方や発想の枠組み,興味や関心,
趣味や嗜好などになります。感情は見えないから本当に共感できたかどうか分からないの
で,まずは見えるものから合わせていきます。また,感情はコントロールできませんが,
言葉や行動はコントロールできます。
②リフレーミング
ある具体的な状況に対する構えや見方を変化させることです。それによって異なった結
果をもたらすことがあります。
③ミラクル・クエスチョン
クライエントの未来時間のイメージを扱う質問です。当然こうなっているだろうという
必然的進行としての解決像を質問します。例えば,「もし,ある晩,あなたが寝ている間
に奇跡が起こっていて,すべての問題か解決していたとしたら,あなたはどうやってその
ことがわかるでしょう」「〜歳になった時,あなたはどうなっていると思う?」
④例外探し
例外とは,すでに起こっている解決の一部,あるいは,例外的に存在している解決の状
態です。そのような状態について具体的に細かく聞いていきます。否定的な形の質問をす
ると肯定的な内容を考えやすくなります。そして,例外を糸口にして,すでに存在してい
る解決を発展させ,積み上げていくように協力し援助します。例えば,「最近こうしたこ
とがなかったのはいつですか」
⑤プレサポジショナル・クエスチョン
良い変化があったことを前提にした,具体的な答えを必要とする質問です。例えば,
「どんないいことがありましたか?」
⑥プリテンド・ミラクル・ハブンド
クライエントに,奇跡が起こったつもりになって,解決した後のように振る舞ってもら
い,他の人がどんな反応をしたかを観察してもらいます。
⑦外在化
クライエントの問題を名付けることによって対象化して取り出し,その対処法を指導し
ます。
⑧ビデオ・トーク
クライエントに,ビデオで見ているようにありありと写実的な記述をしてもらいます。
⑨スケーリング・クエスチョン
様々な事柄を数値に置き換えて表現してもらいます。これによって,抽象的なものを具
体的な記述に結びつけることができます。数値の大きさよりもその差や変化が重要です。
例えば,「あなたがこうあってほしいという状態を10,これまでで最悪だった状態を0と
します。今あなたはどこにいますか」「前回の状態は4だったけど,今回はいくつぐらい
ですか」「あと2上がったら,どんなことが起こりますか」
⑩コーピング・クエスチョン
クライエントの状況の困難さを受け止めながら,問題がさらに悪化していくのをくい止
めている何かを捜します。クライエントが自分では気づいていない力や強さ,少しでもう
まく行っていることへと話題が展開するようにします。例えば,「そんな大変な状況の中
で,よく今日までやって来ましたね。どうしてきたのかですか?」
⑪コンプリメント
クライエントを誉めることです。クライエントは自分が何気なくやっていることを評価
されることによって,自分の力や状態についての認識を新たにできます。
⑫ブリッジ
クライエントが納得できるように,課題の意味や価値を伝えます。
⑶ クライエントのタイプ
①ビジター・タイプ
クライエントが問題や不満があることを表明していない,あるいは,不満はあるが変化
や解決を期待していないタイプです。対応は,コンプリメント程度にとどめておきます。
②コンプレイナント・タイプ
クライエントは不満があり困っている,また,解決がどのようなものかを話せるし,変
化への期待ある,しかし,問題なのは誰か他の人物であって,自分はむしろ被害者である
と感じているタイプです。対応は,コンプリメントをし,例外探しの課題を出す程度にし
ておきます。
③カスタマー・タイプ
クライエントは困っており,解決への期待も抱いていて,自分の問題と感じ,解決のた
めには自らが積極的に変化し,行動することが必要だと考えているタイプです。対応は,
コンプリメントをし,ゴールセッティングをしっかりして,具体的な行動課題を出します。
⑷ ブリーフセラピーの過程
①クライエントの話を聞く
面接の最初は,「いかがですか?」「どうですか,最近の調子は?」で始めます。「そ
れで?」「もう少し詳しく聞かせてください」「具体的には」と,具体的に聞く。オウム
返しや明確化は多用せず,クライエントが解決につながる言葉を発した時に使います。例
外についても聞いておきます。
②ゴールについての話し合いを行う
問題が具体的になったら,ゴールについての話し合いに進みます。ゴールは本人の中に
あるもので,外から与えられるものではありません。カウンセラーの仕事は,ゴールを与
えることではなく,クライエントの中にあるゴールを引き出すことです。ゴールについて
の話し合いは,それ自体が治療的です。解決した時にはどんなことが起っているのかを質
問します。直接聞いたり,ミラクル・クエスチョンやスケーリング・クエスチョンを使い
ます。
③解決に向けての話し合いを行う
ゴールがいくつかでできたら,そこからさらにより実現の可能性の高いもの1つに絞り
込みます。良いゴール(解決像)が備えている要件は,
⒜大きなことではなく,小さなことであること。
⒝抽象的ではなく,具体的に行動の形で語られていること。
⒞否定形(〜しない)ではなく,肯定形(〜する)で語られていること。
⒟測定しやすいこと。
⒠達成しやすいこと。
絞り込めたら,ゴールを達成した後の状態をもう一度イメージしてもらいます。
④アドバイス・指示・課題などを与える
課題は成功体験を得てもらうために出します。したがって,簡単なものから1回に1つ
ずつ出します。
⑤ゴール・メンテナンスをする
課題の中でうまくやれたことや新たな例外を確認し,それを維持する方法も確認します。
そして,例外や既にある解決の一部分を増幅して,例外がクライエントの生活の多くの部
分を占めるようになり,もはや例外ではなくなるようにします。
(参考文献)
宮田敬一編『ブリーフセラピー入門』金剛出版1994
宮田敬一編『学校におけるブリーフセラピー』金剛出版1998
ミカエル・デュラン『効果的な学校カウンセリング』二瓶社1998
森俊夫『先生のためのブリーフセラピーの解説』月刊教育相談連載1997.4〜1999.3
ジェラルド・B・スクレア『ブリーフ学校カウンセリング』二瓶社2000__