言語学の潮流

言語学の潮流

-自律系言語学から開放系言語学へ-

 

1.20世紀以降‐言語大三角形‐

 

a.歴史言語学・・ソシュール以前の比較言語学・通時言語学

b.構造主義・・ソシュール(1957-1913)・共時言語学ラングとパロール・恣意的・言語の線条性・社会

c.アメリ構造主義・・行動主義・ブルームフィールド・サピア・アメリ構造主義の言語状況

人類学的関心・ボアズ

言語相対論(言語によって思考は相対化・サピア=ウォーフの仮説

d.生成文法・・チョムスキー・1957年・超個人・言語運用と言語能力・普遍文法・言語の自律性

e.生成意味論・・1970年代・意味と文法との関係性

f.認知言語学・・レイコフとジョンソン・フィルモア・ラネカー・1980年・言語と認知能力・経験・身体性などの動機づけ(有契的)・メタファー・メトミニー・イメージ・スキーマ

g.開放系の言語学・・社会言語学・語用論(法哲学)・会話分析(社会学

-コミュニケーション学-

 

2.コミュニケーションの語用論

 

1.意味論と語用論

a.意味論(semantics)・・辞書にあるような意味を扱う。

b.語用論(pragmatics)・・特定の場面・状況の中での発話を扱う。

(例)

意味論・・「暑いですね」・・気温が高い(言内の意味)

語用論・・「暑いですね」・・エアコンの温度を下げてほしい(言外の意味)

2.発話行為(言語行為)理論

a.オースティン(1962)『言語と行為』の発話行為(言語行為speech act)3タイプ

1.発語行為

伝達を目的として、一定の意味を持つ文を発話する行為。

(例)「暑いね」ということ

2.発語内行為

発話によって、その意図が聞き手に伝わること。

(例)「暑いね」ということによって依頼すること。

3.発語媒介行為

発話によって、ある行為が行われること。

(例)「暑いね」ということによって、聞き手がエアコンの温度を下げること。

※サールは、オースティンの研究を継承し、聞き手に話し手の発語内容が伝わることを「間接発話行為」と呼んだ。

b.協調の原理と会話の公理

ハイムズは、「コミュニケーションの行為と解釈に関する知識を共有している共同体」を「スピーチ・コミュニティ(言語共同体)」と呼んだ。

グライスの協調原理の会話の公理

協調の原理

今行われている会話の方向や流れに沿うように会話に参加せよ。

会話における4つの公理(格率)

1.量の公理

必要な量の情報を提供し、必要な量以下・以上の情報を与えなさい。

2.質の公理

自分が偽りだと思っていることや、確信していないことを言わない。

3.関係(関連性)の公理

当面の状況と適切な関連性を持っていることだけを言う。

4.様式(様態)の公理

不明瞭な表現や曖昧な表現は使わず、簡潔に順序立てて言う。

 

3.ポライトネス

 

a.ポライトネス

グライスの理論を補完するものであり、相手との関係を保つための配慮(敬語も含む)。

b.リーチのポライトネス理論

1.気配りの公理・・相手の負担を最小に、利益を最大にする。

2.寛大性(寛容)の公理・・自分の利益を最小に、負担を最大にする。

3.是認の公理・・相手への非難を最小に、称賛を最大にする。

4.謙遜の公理・・自分への称賛を最小に、非難を最大にする。

5.合意の公理・・相手との意見の相違を最小に、合意を最大にする。

6.共感の公理・・相手との反感を最小に、共感を最大にする。

c.ブラウン&レビンソンのポライトネス理論-FTA(Face Threatening Act)-

積極的フェイス

他人に認められたい、受け入れられたいという感情。

消極的フェイス

自分の領域に入り込んでほしくない、自由でいさせてほしいという欲求。

※フェイス・・人間関係における基本的な欲求、対面的な振る舞い、面子のこと

(ゴフマンの用語)。

 

 

 

 

 

4.相互行為の社会言語学

 

1.用語

a.韻律

・・再生によって音声的特徴(韻律)から相手の意図を読み取る

b.コンテクストの合図化

・・韻律が発話をどうよみとるかという枠組みを作り出す相図の役割をする(ガンパーズ)

c.会話の成立

・・字義的なことばの意味だけではなく、ある合図を手掛かりとして、どのように解釈するかという慣習が共有され、聞き手に予期させるようでなければならない。会話の参加者は、解釈の枠組みを得ようとする。リアルタイムに解釈の枠組みを想起させ、引き出している。

d.言語行為

・・話し手の意図だけではなく、相互行為によっても成立している。

e.解釈的アプローチ

・・会話のやりとりを録音、録画し、後からその会話に参加した人を含めて、会話をどう解釈したかをインタビューして集積していくガンパーズの採用した方法。

f.メタコミュニケーション(メタコミュニカティヴ・コメント)

・・コミュニケーションの意図について言及すること

 

2.非言語的コミュニケーションの手法(ナップによる分類)

1身体動作・・身振り、姿勢、表情、目の動きなど。

2身体特徴・・容貌、頭髪、スタイル、皮膚、体臭など。

3接触行動・・スキンシップするかどうか、その仕方。

4近言語・・泣き、笑いなどの言葉に近い動作、声の高低やリズムなど。

5空間の使い方・・人との距離の取り方や着席行動など。

6人工物の利用・・化粧、服装、装飾品など。

7環境・・建築様式、インテリア、照明、温度、標識など。

※バードウィステルの調査では、「言葉で伝わるメッセージ(35%)+言葉以外で伝わる非言語的メッセージ(65%)」となり、非言語コミュニケーションの重要性が分かる。非言語コミュニケーションはダーウィンが初めて研究した。

 

5.談話分析

 

a.談話分析

アメリカの社会学者であるガーフィンケルが創始したもので、その後、シェグロフ、サックスによって確立された会話分析の方法。

b.談話(ディスコース

文の単位を超えた長さのテキストや発話の構造のことを指す。

c.結束性

発話あるいは文章の中で前後の文がどのように関連しているかという文と文との結びつき

d.優先応答

明日、暇?どこか飲みにいかない?

うん、行く。どこにする?

e.非優先応答

明日、暇?どこかに飲みにいかない?

ううん、明日かあ。最近、レポートが溜まっていて。(→言いさし)

f.照応

ある文の中の特定の語が他の文のどこの部分と対応しているかということで、前方照応と後方照応とがある。

1.(前方照応)

名詞照応

パソコンを買った。パソコンはすぐに壊れてしまった。

指示詞照応

パソコンを買った。それはすぐに壊れてしまった。

ゼロ照応

パソコンを買った。すぐに壊れてしまった。

2.(後方照応)

こんなことがあるなんてびっくり。新婚旅行から帰った日に離婚したんだって。

g.整合性

接続詞を用いて、文と文との間に因果関係、論理関係、時間的前後関係が認められる場合、その談話は整合性があると言われる。

(例)

太郎は雑誌を買った。それを読んだ。

太郎は雑誌を買った。そして、それを読んだ。

h.推論

既有知識をもとに未知の事柄を推し量ることで、「橋渡し推論」と「精緻化推論」とがある。

1.橋渡し推論・・文と文とをつなぐもの

(例)

合格しました。

それは良かった。おめでとう。

2.精緻化推論・・会話あるいは文章の中には出ていないが、自分が知っているスキーマを使用し、内容を推測すること。

(例)

昨日、さいたま市近郊で放火事件があったさいたま市周辺では、三日前にも同様の事件が起こっている。現在、埼玉県警では二つの事件の関連を調査中である。

(→同一犯として推測して読んでいる)