古文文法と漢文法

古文文法と漢文法

-接点と相違-

 

1.古文文法との比較でみる漢文法

 

a.動詞・・1.漢文ではカ変動詞・ナ変動詞は存在しない。

→「来(く)」は「来(きた)る」、「往(い)ぬ」「去(い)ぬ」「死(し)ぬ」は「往(ゆ)く」「去る(さ)」「死(し)す」

になる。

2.漢文では、サ変が多く使用される。

3.ラ変動詞も「有り・在り・然(しか)り」ぐらいしか使用しない。

→「居り」は四段の「居る」になる。「侍り・いまそがり」はほとんど使

用しない。

 

(古文)

四段・下二段・上二段

下一段・上一段

サ変

カ変・ナ変・ラ変

(漢文)

四段・下二段・上二段

上一段

サ変

 

b.形容詞・・1.漢文では、未然形に「け」「しけ」という上代の語法を用いることがあ

る。

→「無からんや」「美しからんや」は、「無けんや」「美しけんや」にな

ることが多い。

2.漢文では、仮定条件が「連用形+は」は「連用形+んば」になる。

→「無くは」「説(よろこ)ばしくは」は、「無くんば」「説(よろこ)ばしくんば」となる

ことが多い。

 

(古文)

ク活用・シク活用・補助(カリ)活用

(漢文)

ク活用・シク活用・補助(カリ)活用

 

c.形容動詞・・古文ではナリ活用を主として用い、漢文ではナリ活用・タリ活用を用

いる。

→「堂々たり」「泰然たり」などのように、「○々たり」「○然たり」の形でタリ活用、「吝(やぶさ)かなり」「賢(けん)なり」など「性質・状態の漢字+なり」でナリ活用を構成する。

 

(古文)ナリ活用・タリ活用

(漢文)ナリ活用・タリ活用

 

d.助動詞・・漢文では古文よりも使用する助動詞がはるかに少ない。

→「る(受身)・らる(受身)・しむ(使役)・ず(打消)・ん(推量・意志)・んとす(推量・意志)・なり(断定)・たり(断定)・き(過去)・り(完了・存続)・ごとし(比況)」を使用する。「つ」「ぬ」「けり」は稀に使う。「たし」「けむ」はほとんど使用しない。「ず」は連体形「ざる」、已然形「ざれ」を多く使う。「べし」は上代の未然形「べけ」が「べけんや」の形で使用される。「ごとし」は「名詞+の+ごとし」「連体形+が+ごとし」が使用される。「たり(断定)」は「地位・身分・親・兄弟+たり」で使用される。

 

(古文)

る・らる・す・さす・しむ・ず・じ・む(ん)・むず(んず)・むとす(んとす)・

まし・まほし

き・けり・つ・ぬ・たり(完了・存続)・たし・けむ

べし・まじ・らし・らむ・めり・なり(推定・伝聞)

なり(断定・存在)・たり(断定)・ごとし・ごとくなり・やうなり

    り

(漢文)

る・らる・しむ・ず・じ・ん・んとす

き・けり・つ・ぬ・たり(完了)

べし

なり(断定)・たり(断定)・ごとし・ごとくなり・やうなり

    り

 

e.助詞・・漢文では「未然形+ば」は仮定条件、「已然形+ば」は仮定条件と確定条件

を示す。

 

(古文で使用される助詞)

格助詞・・が・の・を・に・へ・と・より・にて・して・から

接続助詞・・を・に・が・ば・ど・ども・とも・て・で・して・つつ・ながら・

ものの・ものを・ものから・ものゆゑ

副助詞・・だに・すら・さへ・のみ・ばかり・など・まで・し・しも

係助詞・・ぞ・なむ・や・か・こそ・は・も

終助詞・・な・そ・ばや・かし・かも・かな・なむ・よ・

もが・もがも・もがな・にしか・にしかな・てしか・てしかな

間投助詞・・や・よ・を・こそ

 

(漢文訓読で使用する主な助詞)

は・や・か・ぞ・ぞや・(よ・や-呼びかけ)・しも・すら・まで・より・が・

の・に・を・をもって・をして・と・て・して・として・とも・といへども・

も・ば・に

 

f.名詞・・漢文では「ところ」「もの」「こと」「く・らく」「ゆゑん」の形式名詞が用い

られる。

「すなわち」と読むものも多い。

 

g.置字・・「于(う)・於(お)・乎(こ)」は「ニ・ト・ヨリ」を補読する読まない前置詞、「而(じ)」は「テ」を読み添える接続詞、「矣(い)・焉(えん)」は「リ」を読み添えることもある語気詞と呼ばれることがある。

 

h.再読文字をはじめとする助詞・助動詞群がある

-『漢英詞典』(2007)商務印書館国際有限公司-

 

  自                                                            from,since

  より

対                                                            to

  にたいして

以                                                            by

  もって

与                                                            with

  と・ともに

為                                                            for

ために

縁・因                                                     along,through

よりて

未                                                            not,didn’t,have not

いまだ・・ず

将・且                                                     will,be going to,be about to

まさに・・んとす

欲(再読しない)                                   wish,want to,will,be going to,be about to

・・んとほっす

当・応・合 宜・須                                must,should,ought to,have to

まさに・・べし すべからく・・べし

猶                                                            just as,as if,like

なほ・・ごとし

何不・盍                                                 Why don’t you ~?,why not~?

なんぞ・・ざる

可(再読しない)                                   may,can

べし

能(再読しない)                                   can,be able to

よく

得(再読しない)                                   can,be able to

非・匪 不・弗(再読しない)              not

にあらず ず

見・被(再読しない)                            be Vp.p. by~

る・らる

勿・毋(再読しない)                            not

なし・なかれ

使・令・遣・教・俾(再読しない)       make O V,haveO V

  しむ

 

2.訓読についての基礎知識

a訓読派と音読派

・・荻生徂徠・倉石武四郎

b.ヲコト点・レ点・一二点・上下点

c.旧訓読(中古)と新訓読(近世)

d.儒教漢文と仏教漢文(翻訳漢文)

  ・・漢音と呉音

c.漢文訓読・蘭文訓読・英文訓読

d.博士家(大江家・菅原家・清原家・中原家)・奈良の僧侶・五山の禅僧

・・訓読みが多い・置字が多い

e.佐藤一斎(一斎点)・後藤芝山(しざん)(芝山点・後藤点)・山﨑闇斎(闇斎点)

・・音読みが多い・置字が少ない(于・於・乎・而・矣・焉)

  f.明治45年3月29日「漢文教授に関する文部省調査報告」

・・佐藤一斎の訓読が基本

g.古文の「べし」「ごとし」は助動詞とは認定していない

・・「可し」「如し」とすることもある

 

(参考文献)

大坪併治(1961)『訓点語の研究』風間書房.

加地伸行(2010)『漢文法基礎』講談社学術文庫.

築島裕(1963)『平安時代の漢文訓読語につきての研究』東京大学出版会.

築島裕(1978)『平安時代語新論』東京大学出版会.

松下大三郎(1978)『標準漢文法』勉誠出版.

山本史也(2017)『先生のための漢文Q&A100』右文書院.

福井久蔵編(1975)『国語学大系』図書刊行会.

湯澤質幸(2001)『古代日本人と外国語』勉誠出版.

吉川幸次郎編(1979)『漢語文典叢書』汲古書院.

 

古典解釈文法

古典解釈文法

 

1.文法の根本的な枠組み

(戦前)

古典文解釈のための文法・・本居宣長の流れの国学者流の文法

(戦後)

実用的口語文法・・ブロックの流れの日本語教育文法

 

2.古典文の特徴

a主語の省略・助詞の省略

b係り結びの存在

  係り結び崩壊の諸説

    a.連体形と終止形との同一化

・・大野晋(通説)

b.プロミネンスの発達と係助詞の文末への移動

・・北原保雄

    c.係り結びは貴族的でやわらかいので武士は好まない

・・阪倉篤義・山口仲美

    d.主格の「が」の発達

・・柳田征司

    e.断続関係から格関係重視への論理関係の変化

・・森重敏

 

3.古今異義語・多義語・漢文訓読語

a.古典語と現代語との意味の異なる語の存在 (例)やがて・あさまし

  b.多義語の存在 (例)いみじ・ものす

  c.漢文訓読語 (例)「いみじ」(和文)と「はなはだし」(漢文訓読語)

 

4.助詞・助動詞の解釈

a.本居宣長『古今集遠鏡』・・近世後期の京阪地方の話しことばで口語訳

b.富士谷成章『あゆひ抄』・・助詞・助動詞を近世後期の話しことばで口語訳

c.折口信夫『口訳万葉集』 

d.谷崎潤一郎の『源氏物語』の口語訳・・山田孝雄の監修・添削

 

5.高等学校での古典解釈文法の問題点

a近世文の語法への対応の欠如

(例)井原西鶴(雅俗折衷文・曲流文)・松尾芭蕉(俳文・簡潔)

b時代別・ジャンル別の語彙解説の欠如

→小西甚一(2015再版)『古文研究法』(洛陽社)

大野晋編(1983)『時代別作品別解釈文法』(至文堂)

 

(参考文献)

大野晋(1998)『古典文法質問箱』角川文庫.

小田勝(2015)『実例詳解古典文法総覧』和泉書院.

亀井孝(2017再版)『概説文語文法』ちくま学芸文庫.

小西甚一(2010再版)『古文の読解』ちくま学芸文庫.

小西甚一(2015再版)『古文研究法』ちくま学芸文庫.

小西甚一(2016再版)『国文法ちかみち』ちくま学芸文庫.

関谷浩(1990)『古文解釈の方法』駿台文庫.

永野賢(1958)『学校文法概説』共文社.

中村幸弘(1994)『先生のための古典文法Q&A100』右文書院.

村上本二郎(1966)『古典文解釈の公式』学研.

望月光(1994)『古典文法講義の実況中継 上・下』語学春秋社.

品詞分類と学校文法

品詞分類と学校文法

 

1.学校文法

a.古典文法・・作品理解のための解釈文法・理解文法

b.口語文法・・国語を理解するための規範文法・記述文法・表現文法

 

2.学校文法への影響力

a.橋本進吉監修・岩淵悦太郎執筆『中等文法』(1943・1944)

→岩淵悦太郎執筆『中等文法口語』『中等文法文語』(1947)

     橋本進吉『新文典別記 上級用』(1938)の影響力

「橋本進吉の文節文法・品詞分類」と「山田孝雄の副詞と助詞の分類」

b.橋本文法・・大槻文彦の品詞分類に近い

文節文法

  c.文節文法の発展と修正・・佐伯梅友・田辺正男・渡辺実・北原保雄

 

3.品詞分類の歴史

上代・・『万葉集』に「てにをは欠く歌」の記述

中世・・歌学書に「物の名」「ことば」「てにをは」の記述

近世・・富士谷成章『あゆひ抄』・・名(な)・装(よそい)・挿(かざし)・脚結(あゆい)

鈴木朖『活語断続譜』『言語四種論』

・・体の詞(ことば)・形状(ありかた)の詞・作用(しわざ)の詞・てにをは

東条義門『玉緒繰分』『活語指南』

・・有形の体言・無形の体言・形状の用言・作用の用言

富樫広蔭『詞の玉橋』・・言(体言)・詞(用言)・辞(動辞・静辞)

近代・・権田直助『語学自在』・・詞(体言・用言)・辞(用辞・体辞)

鶴峯戊申『語学新書』・田中義廉『小学日本文典』・・英文法的分類

大槻文彦『語法指南』(『言海』の付録)・『広日本文典』『同別記』

・・名詞・動詞・形容詞・助動詞・助詞・副詞・接続詞・てにをは・感動詞

山田孝雄『日本文法論』『日本文法講義』・・国学・論理学

橋本進吉『国語法要説』『国語研究法』『国文法体系論』・・大槻文法の流れ

松下大三郎『標準日本文法』・・話しことば・日本語教育の流れ

時枝誠記『日本文法文語篇』『日本文法口語篇』・・国学の流れ

 

4.品詞分類の視点・・単語を形態・意味・職能などの点から種類分けしたもの

a.素材としての語「詞」(モノ・コト・サマ)+素材間の関係または話し手の態度を表す語「辞」(テニヲハ)・・時枝誠記

自立語(詞)・・活用がある(動詞・形容詞・形容動詞-用言-)

活用がない(名詞・代名詞-体言-)

(副詞・連体詞・接続詞-副用言-)

(感動詞)

付属語(辞)・・活用がある(助動詞)

活用がない(助詞)

b.主語になるもの(名詞)+主語にならないもの・・橋本進吉

主語になる・・体言(名詞・代名詞)

主語にならない・・副詞・連体詞・接続詞・感動詞・助詞・助動詞

述語になる・・用言(動詞・形容詞・形容動詞)

 

5.品詞別の特徴

1動詞・・(例)飛ぶ・咲く・いる

a動作・作用を表す。bウ段で終わる。c活用する。命令形がある。

2形容詞・・(例)堅い・美しい

a性質・状態を表す。b「い」で終わる。c活用する。命令形がない。

3形容動詞・・(例)素直だ・静かだ・静かです

a性質・状態を表す。b「だ」「です」で終わる。c活用する。命令形がない。

4名詞・・(例)鳥・あなた・万葉集・五

a物事を表す。b活用しない。

5代名詞・・(例)これ・それ・あれ・どれ

a物事を指し示す。b活用しない。

6副詞・・(例)にっこり・とても・もし

a主に用言を修飾する。b修飾語になる。c活用しない。

7連体詞・・(例)この・ある・わが

a体言を修飾する。b修飾語になる。c活用しない。

8接続詞・・(例)また・それから

a主として文と文とをつなぐ。b活用しない。c接続語になる

9感動詞・・(例)ああ・もしもし・はい

a感動・呼びかけ・応答を表す。b独立語になる。c修飾語にならない。

d活用しない。

10助動詞・・(例)た・だ・ない

a意味を付け加えたり、話し手の判断を表したりする。b活用する。

11助詞・・(例)が・さえ・に

a語と語の関係を示したり、意味を付け加えたりする。b活用しない。

 

6.形容動詞認定の問題点

a.近世の国学者・・形容動詞を認めない

b.近代の国語学者・・形容動詞を認める(橋本進吉)

形容動詞を認めない(時枝誠記・新村出編『広辞苑』)

c.言語学・日本語教育・・形容動詞を認めない(イ形容詞・ナ形容詞)

(例)静かだ・さわやかだ

1.学校文法・・性質・状態を示す・・「静かだ」・「さわやかだ」で「形容動詞」。

2.岩波の国語辞典・・二つに分けられる・・「静か+だ」・「さわやか+だ」は「名詞+断定」

d.「名詞+だ」とする問題点・・「名詞は主語になる」という定義と合わない

(例)

「外国は」「私は」などのように名詞は主語として使用できる。

「静かだ(形容動詞)」を「静か(名詞)+だ(断定)」・・「静か」は「静かは」「静かが」という形で主語としては使えない→名詞として認定できない

※歴史的にみると名詞に語尾がついて形容動詞が派生した。名詞を厳密に定義すると形容

動詞を認めたほうがよく、日本語を歴史的にみると形容動詞を認めないほうがよい。

 

7.「れる・られる(る・らる)・せる・させる(す・さす)」の特殊性

(扱い)

a.助動詞・・橋本進吉

b.接尾語(動詞の一部)・・時枝誠記

c.特殊な複語尾・・山田孝雄

(特徴)

a.格関係を変化させる。

  (例)太郎が花子を呼び出した。→花子が太郎に呼び出さた。

b.動詞と動詞の間に位置する。

  (例)部長に言わなさる。

c.活用形が完備している。

  未然形・連用形・終止形・連体形・仮定形(已然形)・命令形

 

(参考文献)

芳賀綏(1962)『日本文法教室』教育出版.

阪倉篤義(1974)『日本文法の話』教育出版.

渡辺正数(1978)『先生のための口語文法』右文書院.

中村幸弘(2011)『学校で教えてきている現代日本語文法』右文書院.

山田敏弘(2004)『国語教師が知っておきたい日本語文法』くろしお出版.

  山田敏弘(2020)『国語を教えるときに役立つ基礎知識88』くろしお出版.

日本語の特質

日本語の特質

 

1.日本語の音韻・・音韻(意味重視・/ /)と音声(発音重視・[ ])に区別すること

も多い。

a.音素

母音音素・・/a/ /i/ /u/ /e/ /o/

子音音素・・/k/ /g/ /s/ /z/ /t/ /d/ /n/ /h/ /b/ /m/ /y/ /r/ /w/

※音声的には半母音/y//w/は他の母音を伴って音節になるという子音的要素がある。/y/は/i/、/w/は/u/と同じである。音韻の実体化したものが音声。

b.特殊音素

/Q/(促音)・・つまる音 (例)買う・・買った

/N/(撥音)・・はねる音・異音の存在 (例)読む・・読んだ 

cf.産婆・三台・参加

/R/(長音)・・長母音で2モーラ(拍) (例)おばあさん

(特徴)

(1)常に単独で音節を構成する

(2)原則として語頭にたたず、語中語尾に出現する。

(3)対応する音声は音韻環境により極めて多様である。

c.アクセント

日本語のアクセントは「ピッチアクセント」(高低アクセント)である。近年は、アクセントの平板化が指摘されている。 (例) ドラマ・カレシ・パンツ

※英語は「ストレスアクセント」

d.音韻論的音節

(1)1つの母音で構成されるもの(ア行)

(2)子音+母音のもの

(3)子音+半母音+母音のもの(拗音)

→日本語の音節構造はCV構造(C=consonant,V=vowel)であるとされ

る。

(4)開音節性

→日本語の単語は基本的に母音で終わる。 cf.イタリア語・ポリネシア語

 

2.日本語の文法

a.素材表示の職能を中心とする単語(観念語・詞・自立語)と関係構成の職能を中心とする単語(関係語・辞・付属語)に二分される。

b.文法機能は関係構成の職能を中心とする単語に委ねられる。

→膠着語(こうちゃくご)(助詞の付着)

c.用言は活用という語形変化によって文法機能を明示する。

→屈折語(語形変化)

d.アルタイ型言語・・(例)モンゴル語・トルコ語

(1)述語が基本的文の成分であり、文の終わりにくる。

(2)修飾語が被修飾語の前に置かれる。

 

3.日本語の表現

a.主語と待遇表現

・・「は」「が」「省略」「尊敬語・謙譲語Ⅰ・謙譲語Ⅱ・丁寧語・美化語」・・

b.結果志向・自然志向の表現「-になる」

c.語順-客観的・素材的な成分から主観的・陳述的な成分へ-

d.述語は常に文末に位置する。

e.修飾語は常に被修飾語の前に位置する。

f.付属語(助詞・助動詞)は常に自立語に後接する。

g.同一動詞に後接する助動詞群の相互承接には一定の決まりがある(助動詞の相互

承接)。

①使役 ②受身 ③希望 ④否定 ⑤時 ⑥断定 ⑦推量

(例)太郎は買い物に行かせられたくなかっただろう

h.文末の助詞群にも一定の決まりがある。

判断-聞き手への働きかけ (例)行かないかねえ・行くともさ

 

4.日本語の語種

a.単種語

(1)本来の日本語・・和語(やまとことば・固有日本語)

(例)たけなわ・春・見る

(2)中国からの借用・中国からの字音の借用・・漢語(字音語)

・・呉音・漢音・唐宋音

(例)季節・一同・学校

(3)欧米や近現代の中国語からの借用・・外来語(洋語)

(例)ジーパン・パン・ギョーザ

b.複種語

混種語

(例)スナップ写真

 

5.現代日本の文字

a.表語文字(音と意味を示す)・・漢字 

cf.(後漢)許慎(AD.100年ごろ)『説文解字』

b.表音文字(音節を示す)・・仮名(平仮名・片仮名)

(音素を示す)・・アルファベット・ローマ字(ヘボン式・訓令式)

※「音+訓(重箱読み)(例:台所)」と「訓+音(湯桶読み)(例:消印)」

 

(参考文献)

池上嘉彦(1981)『「する」と「なる」の言語学』大修館書店.

井上史雄(1998)『日本語ウォッチング』岩波新書.

大野晋(1978)『日本語の文法を考える』岩波新書.

橋本進吉(1980)『古代国語の音韻に就いて』岩波文庫.

馬淵和夫(1993)『五十音図の話』大修館書店.

 

日本語の系統

日本語の系統

 

1.国語と日本語

国語・・それぞれの国において、国民一般が自国語として承認している言語。一国のうちにいくつかの言語が行われている場合、中心となっている民族の言語が国語として認められる。

※「国語は国民の慈母なり」(上田萬年『国語のため』)

日本語・・他の言語から見た場合の名称。国際化・学際化に伴い、使用されている

名称。

 

2.日本語研究

(中世から現代へ)

歌学→国学(詠歌作法と注釈)→国語学・国文学→日本語学・日本文学

(研究法)

実用的研究・・口語

文献学的研究・・写本

言語学的研究・・外国語との対照

 

3.関連分野

音声学・音響学・文字学・心理学・論理学

社会学・文献学・民俗学・歴史学・法学・文学

 

4.言語と音

(ソシュールの言語学)

  a.言語の線条性

  b.言語の恣意性

c.言語は「ラング(langue)」と「パロール(parole)」から成り立つ。

「ラング(langue)」・・材料である脳内の言語観念。社会的側面。

「パロール(parole)」・・行為と具体的に発音されて表現されたもの。

個人的側面。

(参考)

橋本進吉「文節文法」と時枝誠記「入れ子型構造」

ソシュール「共時言語学」とパウル「通時言語学」

チョムスキー「生成文法」とラネカー「認知文法」

 

5.日本語学に影響を与えた20世紀の主な言語学者

  a.ヨーロッパ流・・比較文献学・通時的(パウル)←→共時的(ソシュール)

  b.アメリカ流・・アメリカ・インディアンの言語と文化の保存・文化人類学

(主な言語学者)

ソシュール(1857-1913スイス)『一般言語学講義』

トルベツコイ(1890-1938ロシア)

ブルームフィールド(1887-1949アメリカ)『言語』

イェルムスレウ(1899-1965デンマーク)

チョムスキー(1928-アメリカ)『言語と精神』

フンボルト(1767-1835ドイツ)

サピア(1884-1939アメリカ)『言語』

ウォーフ(1897-1941アメリカ)

ヤコブソン(1896-1982ロシア)

グリム(1785-1863ドイツ)

パウル(1846-1921ドイツ)『言語史原理』

マルティネ(1908-1999フランス)

ヴィトゲンシュタイン(1889-1951オーストリア)『言語哲学論考』『言語哲学

探究』

 

6.世界の言語・・系統分類(通時的)・音韻対応・・比較言語学

1.インド・ヨーロッパ(インドゲルマン・印欧)語族  

英語・ドイツ語・フランス語・イタリア語・ロシア語など

cf.バベルの塔(『旧約聖書』)・インド・ヨーロッパ祖語

2.ハム・セム語族

エジプト語・アラビア語など

3.ウラル語族

ハンガリー語・フィンランド語など

4.アルタイ語族

トルコ語・蒙古語・満州語など

5.シナ・チベット語族

中国語・チベット語など

6.ドラヴィダ語族

インドの土着語

7.南アジア(オーストロアジア)語族

カンボジア語など

8.南島(オーストロネシア語族)

インドネシア語・ニュージーランド語・ハワイの土着語など

 

7.国語(日本語)系統論

1.北方説・・ウラル・アルタイ語族-藤岡勝二・亀田次郎-

a.語頭に子音の二つ並ばないこと(母音調和)。

b.r音が語頭に立たないこと。

c.冠詞のないこと。

d.文法上の性のないこと。

e.動詞の変化の性質。

f.語尾の接辞の性質。

g.代名詞の変化のないこと。

h.語の関係を示す助詞が後につくこと。

i.助動詞のhaveのようなものがないこと。

j.形容詞に比較を示す変化のないこと。

k.問の文章の語序が肯定文と変わらないこと。

l.接続詞の使用が少ないこと。

m.文章成分の配列の順序。

n.関係代名詞の存在しないこと。

2.琉球語同系論・・チェンバレン・服部四郎

3.朝鮮語同系論・・アストン・白鳥庫吉・新村出

4.騎馬民族説・・江上波夫・・中国語・蒙古語

5.アイヌ語同系論・・梅原猛

6.南方説・・大野晋・・タミル語

 

8.言語類型論(共時的)・・語形変化(形態的)・語順(語彙的)・・対照言語学

  1.語形変化の視点

a.孤立語・・語順が文法関係を示す。

          (例)中国語・ベトナム語・タイ語

    b.屈折語・・名詞や動詞の末尾の変化によって文法関係を示す。語順が自由。

語形変化。

          (例)ギリシア語・ラテン語・ロシア語

    c.膠着語・・助詞・助動詞が付着する。

          (例)朝鮮語・トルコ語・フィンランド語

    d.抱合語・・一文が一語

         (例)アイヌ語・アメリカインディアン語

     (参考)

        日本語・・膠着語の要素が強いが、屈折語の要素も見られる。

        英語・ドイツ語・・屈折語の要素が強いが、孤立語の要素も見られる。

  2.語順の視点・・グリーンバーグの語順の調査

SOV(50%)・SVO(40%)・VSO(10%) cf.VOS(マダガスカル)・

OVS(稀)・OSV(稀)

 

(参考文献)

ソシュール(1972)『一般言語学講義』(小林英雄訳)岩波書店.

チョムスキー(1980)『言語と精神』(川本茂雄訳)河出書房.

服部四郎(1999)『日本語の系統』岩波文庫.

町田健(1999)『言語学が好きになる本』研究社.

町田健(2000)『生成文法がわかる本』研究社.

 

 

 

日本語学とは

日本語学とは

 

1.時代区分について

1.日本語・日本文学の時代区分

Ⅰ 上代(奈良)飛鳥・白鳳・天平

Ⅱ 中古(平安)弘仁

貞観

国風(藤原)

院政期

Ⅲ 中世(鎌倉)鎌倉

(室町)南北朝

北山

東山

天文

桃山

Ⅳ 近世(江戸)寛永

元禄

文化文政

幕末

Ⅴ 近代(明治・大正・昭和20年)

Ⅵ 現代(昭和20年以降・平成・令和)

(参考)

古代・・上代+中古

上代=上古

現代・・平成以降を示すこともある

近現代と一括することもある

近代・・室町時代以降とすることもある

国風暗黒時代と漢詩文

南北朝の動乱・・日本語アクセントの大転換

応仁の乱・・文法変化の大転換・文化史の大転換(内藤湖南)

1700年前後を近世を前半(元禄)、1800年前後を近世後半に分けるとよい。

第一次鎖国(国風文化へ)と第二次鎖国(近世の文化へ)

第一次開国(幕末)と第二次開国(戦後)

 

2.国文学と日本文学

a日本の文学(日本語学も含む)を相対化・比較化・・日本文学・・

b.日本の文学を研究する学問(国語学も含む)・・国文学・・

 

3.国学から国文学・国語学へ

a. 歌学・和学・・古注・旧注・・

平安時代から江戸時代初期

b. 国学・・新注・・

江戸時代初期から明治時代

古代日本の文化・精神を解明しようとする学問

(神道・歌学・語学・文学・史学・法学・有職故実)

実証的・合理的

近世初期の国学の成立・・契沖・荷田春満・賀茂真淵・本居宣長・

平田篤胤

c. 国文学・国語学

明治30年代以降

西洋近代科学・思想の影響

1897年「東京大学国語研究室」開設(国語を研究する国家機関)

・・上田万年・・

京都大学・・国文学・国語学を区別せずに融合させる

大阪大学・・歴史的分野を国語学、現代日本語分野を日本語学とする。

名称の違い・・国語学・日本語学・言語情報学(北海道大学)

d. 日本文学・日本語学

(賛成意見)戦後の国際化・学際化の流れ

(反対意見)先人からの伝統

→「国語学会」を「日本語学会」に名称変更(2004年)

 

4.日本語学とは

人文科学の1つで、言語学の下位部門。日本語を扱う対象とする。国語学ともいう。日本語学は、日本語の共時態を研究対象とする共時日本語学と通時態を研究対象とする通時日本語学とに大別される。

A共時日本語学

音声学・音韻論・文字論・表記論・文法論・意味論・語彙論・辞書論・敬語論・言語生活論・文体論・方言学・位相論・国語国字論

B通時日本語学

a史的変遷を研究対象とする日本語史(国語史)

b日本語研究史を対象とする日本語学史(国語学史)

 

(国語学)

(日本語学)

通時的

共時的

文献調査

実地調査

規範

記述

文語(書きことば)

口語(話しことば)

中央語(標準)

言語変種(地域方言・社会方言)

日本語研究

対照研究

独自理論

言語学

縦書き

横書き

 

5.日本語教育としての日本語学

日本の国際化に伴い、外国人への日本語教育の立場からの日本語観察に基づいた日本語研究も盛んになってきており、日本語学にも取り入れられている。

(例) 形容詞-イ形容詞

形容動詞-ナ形容詞

格助詞-後置詞

接続助詞+補助動詞-「テイル」形

 

6.日本文法研究史

第一期 中世以前(平安時代末まで)・・文法意識の萌芽時代

中国語との接触

第二期 中世(鎌倉・室町時代)・・文法意識の確立時代

和歌・連歌を詠むための規範としての文法

藤原定家・宗祇

第三期 近世(江戸時代)・・文法研究の本格化と体系的文法研究の確立時代

(前期)

契沖・・実証研究

(後期)

富士谷成章・・品詞分類

本居宣長・・係り結び

鈴木朖・・活用表の整備

本居春庭・・動詞の自他

東条義門・・活用形の整備

鶴峰戊申・・洋式文典の採用

第四期 近代・・言語学の影響なども受けながら、文法理論が発展する時代。

上田万年・大槻文彦

橋本進吉・松下大三郎・山田孝雄・時枝誠記

・・四大文法(独自理論)

佐伯梅友・北原保雄・渡辺実・・橋本文法の流れ

森重敏・川端善明・尾上圭介・・山田文法の流れ

佐久間鼎・・ゲシュタルト心理学

三上章・・数学教師

寺村秀夫・・英語教師・日本語教育

益岡隆志・・英語学

野田尚史・・スペイン語学

奥津敬一郎・・現象学・日本語教育

服部四郎・国広哲弥・町田健・・言語学

菊地康人・・言語学・日本語教育

仁田義雄・・時枝文法の流れ・日本語学史

金水敏・近藤泰弘・・時枝文法の流れ・パソコンの活用

※西洋人の日本語研究・・『日葡辞書』、ロドリゲス『日本大文典』

ホフマン、アストン、ヘボン、チェンバレン、

サンソム

 

(参考文献)

庵功(2003)『「象は鼻が長い」入門-日本語学の父三上章-』くろしお出版.

川上蓁(1995)『日本語アクセント論集』汲古書院.

金田一春彦(1991)『日本語の特質』NHK出版.

内藤湖南(1921)「応仁の乱について」【テキストは講談社学術文庫版(1976)『日本文化史研究(上)

(下)』】.