和歌のレトリック

和歌の修辞技巧(レトリック)

 

A.歌論の基本用語

a.和歌の本末・・和歌の上の句と下の句

b.腰の句・・和歌の第三句目

c.腰折れ・・下手な歌

d.首切れ・・最悪の歌(『悦(えつ)目抄(もくしょう)』)

e.おもて歌・・代表歌

f.心と詞・実と花・・内容と表現

g.五(頭)七(胸)五(腰)七七(尾)(『和歌色葉』)

h.方人(仲間・味方)・晴の歌(公での歌)

i.『万葉集』の略体歌と非略体歌

 

B.和歌の修辞技巧(レトリックの分類)・・時枝誠記の2分類(「枕詞・序詞」:「掛詞・縁語」)・・

Ⅰ【第一類】・・枕詞・序詞・・『万葉集』・・

a.枕詞

(枕詞の意味と機能)

 枕詞は、三音(例:千葉の)・四音(例:そらみつ)・五音・六音(桜(さくら)麻(あさ)の)のものなどがあるが、五音が多く口語訳はしない。下にくる特定の語を引き出す。

 「枕詞・序などは、歌の意(こころ)にあづかれることなきは、すてて訳さず、これを訳しては、事の入(いり)まじりて中々にまぎらわしければなり」(本居宣長『古今集遠鏡』例言)

1「草枕―旅」のように枕詞が受ける語を意味的に修飾する場合・・修飾型

2「梓弓―春」のように枕詞が受ける語と同音または類似音の他の語(掛詞)にかかる場合

・・掛詞型

3「父の実の―父」のように枕詞と同音または類似音をもつ語にかかる場合・・同音型

4「ささなみの―志賀」のように枕詞が地名にかかる場合・・地名型

(枕詞の位置)

第一句目

ちはやぶる神代も聞かず龍田川からくれなゐに水くくるとは(古今集・秋下・在原業平)

第三句目(半臂(はんぴ)の句と呼ばれる)

わたのはらこぎ出でてみればひさかたの雲居にまがふ沖つ白波(詞花集・雑下・藤原忠通)

b.序詞

(序詞の意味と機能)

 序詞は、契沖が「序は枕詞の長きなり」、折口信夫が「序詞のつづまったもの」と述べているように、枕詞と性質は似ているが、二句以上、または、七音以上でその場その場で臨時的に自由に創作される。土地や情景になる場所であることが一般的である。

1「の」による比喩の場合(有心の序)

あしひきの山鳥の尾のしだり尾の長々し夜をひとりかも寝む(拾遺集・恋三・柿本人麻呂)

2同音反復の場合(無心の序)

駿河なる宇津の山べのうつつにも夢にも人にあはぬなりけり(新古今集・羇旅・在原業平)

3掛詞を引き出す場合(無心の序)

風吹けば沖つ白波たつた山夜半にや君がひとり越ゆらむ(古今集・雑下・読み人知らず)

Ⅱ【第二類】・・掛詞・縁語・・『古今集』・・語の縁(「音声・・掛詞」:「意味・・縁語」)・・

a.掛詞

(掛詞の意味と機能)

 掛詞は、あることばに二つ以上の意味を持たせる技法で、地名に起こりやすい。多義性及び異質なものの結合。

1地名型

もの思ふ心の闇は暗ければ明石の浦もかひなかりけり

(後拾遺集・羇旅・藤原伊周)

人知れぬ身は急げども年を経てなど越えがたき逢坂の関

(後撰集・恋3・藤原伊尹)

2キーワード型

都をば霞とともにたちしかど秋風ぞ吹く白河の関(後拾遺集・羇旅・能因法師)

3二重文脈の「交替型」型(仮名連鎖構文・尻り取り式)

秋の野に人まつ虫の声すなり我かとゆきていざとぶらはむ(古今集・秋上・読

人知らず)

4包含型

秋霧のともに立ちいでて別れなば晴れぬ思ひに恋ひやわたらむ(古今集・離別・

平元規)

b.縁語

(縁語の意味と機能)

 縁語は、掛詞とともに用いられることが多く、掛詞の中でも「物象」と「心象」とが掛けられている場合の「物象」と結びつく。

縁語掛詞仕立て

かれはてむ後をば知らで夏深くも人の思ほゆるかな(古今集・恋四・凡河

内躬恒)

 cf.序詞・掛詞の「心物対応構造」(鈴木日出男)

Ⅲ【その他】・・体言止め・その他・・『新古今集』

a.体言止め・連体止め

 体言止め・連体止めは、体言・連体形で終止させることで、余情・余韻をもたせるための技巧である。

    「体言止め」の例

み吉野の山の白雪ふみ分けて入りにし人のおとづれもせぬ(コトヨ)(古今

集・327)

「体言止め」の例

これやこの行くも帰るも別れては知るも知らぬも逢坂の関(『後撰集』

1089)

「つつ止め」の例

君がため春の野に出でて若菜つむわが衣手に雪は降りつつ(『古今集』21)

b.本歌取り

(本歌取りの意味と機能)

 本歌取りは、以前に詠まれた、すでにある名歌・古歌を本歌として踏まえた上で、その一部分を詠みこむことによって、本歌のもつ趣向・情景・発想などを新しい歌に取り入れ、歌の内容を広く深くしようとする技巧である。本歌取りは、藤原俊成が推進したが、法則化した人物としては、藤原定家と藤原為世をあげることができる。三代集から採るのが望ましく、70から80年以内の歌からは、採らない。

制(せい)詞(し)・・歌詞の著作権 (例)雪の夕暮れ(定家)・波に離るる(家隆)・

あやめぞ薫る(良経)

1歌から取る歌詞の長さは多くても二句と三四字までである。・・量の規定

2取った歌詞は本歌と位置を変える。・・配置の規定

3歌の季節や主題を変えて詠むこと。・・主題の規定

「本歌取り」の例

み吉野の山秋風さ夜ふけてふるさと寒く衣うつなり(『新古今集』

483)・・本歌取り

み吉野の山白雪つもるらしふるさと寒くなりまさるなり(『古今集』

325)・・本歌

c.倒置法

 倒置法は、論理上の普通の語順をかえることで、強く印象づけるものである。

花の色は移りにけりないたづらにわが身世にふるながめせし間に(古今集・113)

(いたづらにわが身世にふるながめせしまに花の色は移りにけりな)

春霞かすみていにしかりがねは今ぞ鳴くなる秋ぎりの上に(古今集・210)

(春霞かすみていにしかりがねは秋ぎりの上に今ぞ鳴くなる)

d.歌枕

 歌枕は、和歌に詠まれた地名である。しかし、それだけにとどまるものではなく、他の和歌の修辞と密接な関わりをもつ。 (例)白河の関・逢坂の関

e.物名歌

 物名歌は、歌題または物名・人名を一首の中に隠して詠み込んだものが中心で、これを隠題と呼び、『古今集』巻十には、物名としてあげられている。

心から花の雫にそほちつつ憂く干ず(鶯)とのみ鳥の鳴くらむ(古今集・422)」

 なお、物名歌の中に分類される折句や沓冠については、あまりにも脈絡がなく、ある物の名称を詠み込んでいくので、形式的に過ぎているため、掛詞の一種としてはみなすことはできないであろう。

f.見立て

 見立てについては、見立てと擬人法を同一視する考え方もあれば、見立てと擬人法とを区別する考え方もあり、認定が一定していない。「AをBとしてみる」「AをBとして取り扱う」

1〈見立て〉とは、視覚的印象を中心とする知覚上の類似に基づいて、実在する事物Aを非実在Bと見なす表現である。

2自然と人事を結ぶ見立てと自然物相互の見立てとがある。

a「見立て」の例

嵐吹く三室の山のもみぢ葉は龍田の川のなりけり(『後拾遺集』366)

b「擬人法」の例

わたの原八十島かけて漕ぎ出でぬと人には告げよ海人の釣舟(『古今

集』407)

g.和歌特有の語法

「なれや」「らむ」「なくに」「を」「―を―み」「結果的表現」「連体修飾の場合」「いづくはあれど」「已然形+や」「べらなり」などが知られているが、以下のものにも注意が必要である。

1.「ぞあり」の約まった「ざり」

照る月の流るる見れば天の川出づるみなとは海にざりける(土佐日記)」

2.「けるらし」の約まった「けらし」

春過ぎて夏来にけらし白妙の衣ほすてふ天の香具山(持統天皇)

3.疑問副詞の場合は結びは連体形になるが、疑問名詞の場合には、終止形で結

ぶ。

君恋ふる涙に濡るるわが袖と秋の紅葉といづれまされ(後撰集)

4.「ミ語法」・・AをBみ(AがBなので)・・

いた岩うつ波のおのれのみくだけてものを思ふころかな(『詞華集』

211)

 

【参考】その他の修辞技巧

a.「離合」・・漢詩文・・

吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風といふらむ(『古今集』249)

b.「折句」

らころもつつなれにしましあればるばるきぬるびをしぞおもふ(『伊勢

物語』9段)

→「かきづばた」

c.「沓冠」

くろひくちがひの糸のとにかくにくもでにものを思ふこのご(『三国伝記』)

d.「折句沓冠」

もすずしねざめのかりほたまくらもまそでもあきにへだてなきか(兼好)

→よねたまへぜにもほし(米給へ銭も欲し)

るもうしねたくわがせこはてはこずなほざりにだにしばしとひま(頓阿)

→よねはなしぜにすこし(米はなし銭少し)

e.「句割れ」

桜あさのをふの下草しげれ ただあかで別れし花のななれば(『新古今集』・185)

f.「字余りの例」・・「本居宣長の字余り法則」『字音(じおん)仮字用(かな)格(づかい)』=句中に「あいうえお」「む」がある。

わびぬれば今はた同じ難波なるみをつくしても逢はむとぞ思ふ(『後撰集』960)

今来むと言ひしばかりに長月の有明の月を待ち出でつるかな(『古今集』691)

cf.五七五七七・・第一句・第三句・第五句は字余り句(山口佳紀)

 字余りは、音声では生じない。(川上蓁)

 

(参考文献)

尼ヶ崎彬(1988)『日本のレトリック』筑摩書房.

江湖山恒明(1957)『国語表現論』牧書店.

片桐洋一(1999)『歌枕歌ことば辞典 増訂版』笠間書院.

鈴木日出男(1990)『古代和歌史論』東京大学出版会.

鈴木日出男(1999)『古代和歌の世界』ちくま新書.

山口佳紀(2008)『万葉集字余りの研究』塙書房.

渡部泰明(2018)『和歌とは何か』岩波新書.

 

「和歌・短歌」から「俳諧・俳句」へ -基礎知識-

「和歌・短歌」から「俳諧・俳句」へ

-基礎知識-

 

1.基礎知識

a和歌の種類‐『万葉集』‐

長歌・・五七・五七・五七・・・・五七七

反歌・・五七五・七七(長歌の要約・補足・感想として添えられる)

短歌・・五七五・七七

旋頭歌・・五七七・五七七

片歌・・五七七

仏足石歌・・五七五・七七・七

b正岡子規・・和歌・俳諧の革新・写生・日常性

1.『歌よみに与ふる書』

和歌から短歌へ

『古今集』から『万葉集』へ

紀貫之・藤原定家から源実朝『金槐集』へ

2.『獺祭書屋(だっさいしょおく)俳話』

俳諧から俳句(俳諧の発句)へ

芭蕉から蕪村へ

c連歌と連句

  1.有心連歌と無心連歌

2.長連歌(鎖連歌)と短連歌

5・7・5               発句・・他の句を統率。切れ字と季語の必要性

7・7                            脇句

5・7・5                      第三

7・7                            平句

5・7・5                      平句

    ・        ・

    ・        ・

    ・        ・

7・7                            挙句・揚句

3.各句の完結性(『俊頼髄脳』)・発句の独立性(『八雲御抄』)

→助詞・助動詞を「切れ字」とする考え方の成立(『連理秘抄』)

 発句切れ字十八の事(『専順法眼之詞秘之事』)

 切れ字二十二(『連歌至宝抄』)

cf.和歌の発想・・連歌

俳諧の発想・・連句

d俳句について影響を与えた評論

1.「第二芸術論」-桑原武夫-

俳句は第二芸術に過ぎない。

2.『省略の文学』-外山滋比古-

世界短詩型の文学として評価

  e.狂歌・川柳(狂句)・・近世に流行・滑稽・卑俗・人間観察

    (例)君聞かずや地獄の沙汰も金次第かせぐに追いつく貧乏なし

       役人の子はにぎにぎを能(よく)覚(おぼえ)

 

2.文法

A俳諧・俳句の修辞技巧

a.切れ字

「発句の十八の切字事」

終助詞・係助詞  助動詞  形容詞の終止形  動詞の命令形

疑問語  や・かな・けり

b.切れ字の機能・・表現者の判断・感情

句末の「切れ字」は詠嘆・・(例)かな

句中の「切れ字」は曲折・焦点・・(例)けり・や

  (例)

     しづかさや岩にしみいる蝉の声 芭蕉

     花の雲鐘は上野か浅草か 芭蕉

     吹き飛ばす石は浅間の野分かな 芭蕉

     古池や蛙飛び込む水の音 芭蕉

     五月雨の降り残してや光堂 芭蕉

     降る雪や明治は遠くなりにけり 中村草田男

c.切れ字論争

松尾芭蕉「四十八字皆切れ字なり」・・切れ字論争

石田波郷「霜柱俳句は切れ字響きけり」

(切れ字は霜柱の立てる繊細な音に匹敵する)

・・切れ字の格調

d.季語・切れ字

季重ね・切れ字重ねの禁止

『歳時記』・・旧暦(太陰暦で掲載。

新暦(太陽暦)は、旧暦(太陰暦)+1か月半。

B和歌・短歌の修辞技巧

a句読点

若山牧水・折口信夫・窪田空穂・佐々木信綱・・短歌に句読点

  (例)葛の花 踏みしだかれて、色あたらし。

     この山道を行きしひとあり 釈迢空(折口信夫)

会津八一・・ひらがなの単語分かち書きの短歌

  (例)かすがの に おしてる つき の ほがらかに 

あき の ゆふべ と なり に ける かも

石川啄木・・短歌の三行書き

  (例)東海(とうかい)の小島(こじま)の磯(いそ)の白砂(しろすな)に

     われ泣きぬれて

     蟹(かに)とたはむる

土岐善麿・・短歌のローマ字書き・短歌に句読点

  (例)りんてん機、今こそ響け。うれしくも、東京版に、

雪のふりいづ。

B主な修辞技巧

枕詞・序詞・掛詞・縁語・本歌取り・体言止め・連体止め・倒置法・

離合

 

(参考文献)

桑原武夫(1976)『第二芸術』講談社学術文庫.

小西甚一(1971)『宗祇』筑摩書房.

外山滋比古(1976)『省略の文学』中公文庫.

正岡子規(1898)『歌よみに与ふる書』(【テキストは岩波文庫版(1983)】).

山田孝雄(1943)『連歌概説』岩波書店.

 

【参考資料】  

1.和歌・俳諧の句点と句切れ

・・句点を打つ個所が句切れで、「初句切れ・二句切れ・三句切れ・四句切れ・句切れなし(全句

切れ)」がある。

  詞の調べ・・意味上の句切れ・・五七調から七五調へ

  声の調べ・・朗詠のときの第三句目の息継ぎ

(句点の位置)

1終止形の下

2係り結びの下

3命令形の下

4連体止めの下

5終助詞の下

6体言止めの下

7切れ字の下(俳諧)

花の色はうつりにけりな。いたづらにわが身世にふるながめせしまに。

(小野小町)

人はいさ心は知らず。ふるさとは花ぞ昔の香ににほひける。

(紀貫之)

古池や。蛙飛び込む水の音。(芭蕉)

雪薄し。白魚しろき事一寸。(芭蕉)

2.和歌と短歌

(古代和歌の特徴)

1枕詞・序詞・懸詞・縁語などを中心とする修飾

2五七調・七五調との違いを生み出す句切れ

3本歌取り

4体言止め・用言止めなどを中心とする結句における止め方

5うたことば(歌語)といわれる用語・・(例)鶴(たづ)・駒(こま)・

蛙(かわず)

6言語の省略と順序

(現代短歌の特徴)

1と3は、現代短歌ではあまり用いられていない。

2と4は、現代短歌ではまちまちの減少で、現代短歌としての特徴をまとめる

のが難しい。

5は、現代短歌では活発に用いられている。

6は、現代短歌では、省略されていることばの判断が難しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

古文文法と漢文法

古文文法と漢文法

-接点と相違-

 

1.古文文法との比較でみる漢文法

 

a.動詞・・1.漢文ではカ変動詞・ナ変動詞は存在しない。

→「来(く)」は「来(きた)る」、「往(い)ぬ」「去(い)ぬ」「死(し)ぬ」は「往(ゆ)く」「去る(さ)」「死(し)す」

になる。

2.漢文では、サ変が多く使用される。

3.ラ変動詞も「有り・在り・然(しか)り」ぐらいしか使用しない。

→「居り」は四段の「居る」になる。「侍り・いまそがり」はほとんど使

用しない。

 

(古文)

四段・下二段・上二段

下一段・上一段

サ変

カ変・ナ変・ラ変

(漢文)

四段・下二段・上二段

上一段

サ変

 

b.形容詞・・1.漢文では、未然形に「け」「しけ」という上代の語法を用いることがあ

る。

→「無からんや」「美しからんや」は、「無けんや」「美しけんや」にな

ることが多い。

2.漢文では、仮定条件が「連用形+は」は「連用形+んば」になる。

→「無くは」「説(よろこ)ばしくは」は、「無くんば」「説(よろこ)ばしくんば」となる

ことが多い。

 

(古文)

ク活用・シク活用・補助(カリ)活用

(漢文)

ク活用・シク活用・補助(カリ)活用

 

c.形容動詞・・古文ではナリ活用を主として用い、漢文ではナリ活用・タリ活用を用

いる。

→「堂々たり」「泰然たり」などのように、「○々たり」「○然たり」の形でタリ活用、「吝(やぶさ)かなり」「賢(けん)なり」など「性質・状態の漢字+なり」でナリ活用を構成する。

 

(古文)ナリ活用・タリ活用

(漢文)ナリ活用・タリ活用

 

d.助動詞・・漢文では古文よりも使用する助動詞がはるかに少ない。

→「る(受身)・らる(受身)・しむ(使役)・ず(打消)・ん(推量・意志)・んとす(推量・意志)・なり(断定)・たり(断定)・き(過去)・り(完了・存続)・ごとし(比況)」を使用する。「つ」「ぬ」「けり」は稀に使う。「たし」「けむ」はほとんど使用しない。「ず」は連体形「ざる」、已然形「ざれ」を多く使う。「べし」は上代の未然形「べけ」が「べけんや」の形で使用される。「ごとし」は「名詞+の+ごとし」「連体形+が+ごとし」が使用される。「たり(断定)」は「地位・身分・親・兄弟+たり」で使用される。

 

(古文)

る・らる・す・さす・しむ・ず・じ・む(ん)・むず(んず)・むとす(んとす)・

まし・まほし

き・けり・つ・ぬ・たり(完了・存続)・たし・けむ

べし・まじ・らし・らむ・めり・なり(推定・伝聞)

なり(断定・存在)・たり(断定)・ごとし・ごとくなり・やうなり

    り

(漢文)

る・らる・しむ・ず・じ・ん・んとす

き・けり・つ・ぬ・たり(完了)

べし

なり(断定)・たり(断定)・ごとし・ごとくなり・やうなり

    り

 

e.助詞・・漢文では「未然形+ば」は仮定条件、「已然形+ば」は仮定条件と確定条件

を示す。

 

(古文で使用される助詞)

格助詞・・が・の・を・に・へ・と・より・にて・して・から

接続助詞・・を・に・が・ば・ど・ども・とも・て・で・して・つつ・ながら・

ものの・ものを・ものから・ものゆゑ

副助詞・・だに・すら・さへ・のみ・ばかり・など・まで・し・しも

係助詞・・ぞ・なむ・や・か・こそ・は・も

終助詞・・な・そ・ばや・かし・かも・かな・なむ・よ・

もが・もがも・もがな・にしか・にしかな・てしか・てしかな

間投助詞・・や・よ・を・こそ

 

(漢文訓読で使用する主な助詞)

は・や・か・ぞ・ぞや・(よ・や-呼びかけ)・しも・すら・まで・より・が・

の・に・を・をもって・をして・と・て・して・として・とも・といへども・

も・ば・に

 

f.名詞・・漢文では「ところ」「もの」「こと」「く・らく」「ゆゑん」の形式名詞が用い

られる。

「すなわち」と読むものも多い。

 

g.置字・・「于(う)・於(お)・乎(こ)」は「ニ・ト・ヨリ」を補読する読まない前置詞、「而(じ)」は「テ」を読み添える接続詞、「矣(い)・焉(えん)」は「リ」を読み添えることもある語気詞と呼ばれることがある。

 

h.再読文字をはじめとする助詞・助動詞群がある

-『漢英詞典』(2007)商務印書館国際有限公司-

 

  自                                                            from,since

  より

対                                                            to

  にたいして

以                                                            by

  もって

与                                                            with

  と・ともに

為                                                            for

ために

縁・因                                                     along,through

よりて

未                                                            not,didn’t,have not

いまだ・・ず

将・且                                                     will,be going to,be about to

まさに・・んとす

欲(再読しない)                                   wish,want to,will,be going to,be about to

・・んとほっす

当・応・合 宜・須                                must,should,ought to,have to

まさに・・べし すべからく・・べし

猶                                                            just as,as if,like

なほ・・ごとし

何不・盍                                                 Why don’t you ~?,why not~?

なんぞ・・ざる

可(再読しない)                                   may,can

べし

能(再読しない)                                   can,be able to

よく

得(再読しない)                                   can,be able to

非・匪 不・弗(再読しない)              not

にあらず ず

見・被(再読しない)                            be Vp.p. by~

る・らる

勿・毋(再読しない)                            not

なし・なかれ

使・令・遣・教・俾(再読しない)       make O V,haveO V

  しむ

 

2.訓読についての基礎知識

a訓読派と音読派

・・荻生徂徠・倉石武四郎

b.ヲコト点・レ点・一二点・上下点

c.旧訓読(中古)と新訓読(近世)

d.儒教漢文と仏教漢文(翻訳漢文)

  ・・漢音と呉音

c.漢文訓読・蘭文訓読・英文訓読

d.博士家(大江家・菅原家・清原家・中原家)・奈良の僧侶・五山の禅僧

・・訓読みが多い・置字が多い

e.佐藤一斎(一斎点)・後藤芝山(しざん)(芝山点・後藤点)・山﨑闇斎(闇斎点)

・・音読みが多い・置字が少ない(于・於・乎・而・矣・焉)

  f.明治45年3月29日「漢文教授に関する文部省調査報告」

・・佐藤一斎の訓読が基本

g.古文の「べし」「ごとし」は助動詞とは認定していない

・・「可し」「如し」とすることもある

 

(参考文献)

大坪併治(1961)『訓点語の研究』風間書房.

加地伸行(2010)『漢文法基礎』講談社学術文庫.

築島裕(1963)『平安時代の漢文訓読語につきての研究』東京大学出版会.

築島裕(1978)『平安時代語新論』東京大学出版会.

松下大三郎(1978)『標準漢文法』勉誠出版.

山本史也(2017)『先生のための漢文Q&A100』右文書院.

福井久蔵編(1975)『国語学大系』図書刊行会.

湯澤質幸(2001)『古代日本人と外国語』勉誠出版.

吉川幸次郎編(1979)『漢語文典叢書』汲古書院.

 

古典解釈文法

古典解釈文法

 

1.文法の根本的な枠組み

(戦前)

古典文解釈のための文法・・本居宣長の流れの国学者流の文法

(戦後)

実用的口語文法・・ブロックの流れの日本語教育文法

 

2.古典文の特徴

a主語の省略・助詞の省略

b係り結びの存在

  係り結び崩壊の諸説

    a.連体形と終止形との同一化

・・大野晋(通説)

b.プロミネンスの発達と係助詞の文末への移動

・・北原保雄

    c.係り結びは貴族的でやわらかいので武士は好まない

・・阪倉篤義・山口仲美

    d.主格の「が」の発達

・・柳田征司

    e.断続関係から格関係重視への論理関係の変化

・・森重敏

 

3.古今異義語・多義語・漢文訓読語

a.古典語と現代語との意味の異なる語の存在 (例)やがて・あさまし

  b.多義語の存在 (例)いみじ・ものす

  c.漢文訓読語 (例)「いみじ」(和文)と「はなはだし」(漢文訓読語)

 

4.助詞・助動詞の解釈

a.本居宣長『古今集遠鏡』・・近世後期の京阪地方の話しことばで口語訳

b.富士谷成章『あゆひ抄』・・助詞・助動詞を近世後期の話しことばで口語訳

c.折口信夫『口訳万葉集』 

d.谷崎潤一郎の『源氏物語』の口語訳・・山田孝雄の監修・添削

 

5.高等学校での古典解釈文法の問題点

a近世文の語法への対応の欠如

(例)井原西鶴(雅俗折衷文・曲流文)・松尾芭蕉(俳文・簡潔)

b時代別・ジャンル別の語彙解説の欠如

→小西甚一(2015再版)『古文研究法』(洛陽社)

大野晋編(1983)『時代別作品別解釈文法』(至文堂)

 

(参考文献)

大野晋(1998)『古典文法質問箱』角川文庫.

小田勝(2015)『実例詳解古典文法総覧』和泉書院.

亀井孝(2017再版)『概説文語文法』ちくま学芸文庫.

小西甚一(2010再版)『古文の読解』ちくま学芸文庫.

小西甚一(2015再版)『古文研究法』ちくま学芸文庫.

小西甚一(2016再版)『国文法ちかみち』ちくま学芸文庫.

関谷浩(1990)『古文解釈の方法』駿台文庫.

永野賢(1958)『学校文法概説』共文社.

中村幸弘(1994)『先生のための古典文法Q&A100』右文書院.

村上本二郎(1966)『古典文解釈の公式』学研.

望月光(1994)『古典文法講義の実況中継 上・下』語学春秋社.

品詞分類と学校文法

品詞分類と学校文法

 

1.学校文法

a.古典文法・・作品理解のための解釈文法・理解文法

b.口語文法・・国語を理解するための規範文法・記述文法・表現文法

 

2.学校文法への影響力

a.橋本進吉監修・岩淵悦太郎執筆『中等文法』(1943・1944)

→岩淵悦太郎執筆『中等文法口語』『中等文法文語』(1947)

     橋本進吉『新文典別記 上級用』(1938)の影響力

「橋本進吉の文節文法・品詞分類」と「山田孝雄の副詞と助詞の分類」

b.橋本文法・・大槻文彦の品詞分類に近い

文節文法

  c.文節文法の発展と修正・・佐伯梅友・田辺正男・渡辺実・北原保雄

 

3.品詞分類の歴史

上代・・『万葉集』に「てにをは欠く歌」の記述

中世・・歌学書に「物の名」「ことば」「てにをは」の記述

近世・・富士谷成章『あゆひ抄』・・名(な)・装(よそい)・挿(かざし)・脚結(あゆい)

鈴木朖『活語断続譜』『言語四種論』

・・体の詞(ことば)・形状(ありかた)の詞・作用(しわざ)の詞・てにをは

東条義門『玉緒繰分』『活語指南』

・・有形の体言・無形の体言・形状の用言・作用の用言

富樫広蔭『詞の玉橋』・・言(体言)・詞(用言)・辞(動辞・静辞)

近代・・権田直助『語学自在』・・詞(体言・用言)・辞(用辞・体辞)

鶴峯戊申『語学新書』・田中義廉『小学日本文典』・・英文法的分類

大槻文彦『語法指南』(『言海』の付録)・『広日本文典』『同別記』

・・名詞・動詞・形容詞・助動詞・助詞・副詞・接続詞・てにをは・感動詞

山田孝雄『日本文法論』『日本文法講義』・・国学・論理学

橋本進吉『国語法要説』『国語研究法』『国文法体系論』・・大槻文法の流れ

松下大三郎『標準日本文法』・・話しことば・日本語教育の流れ

時枝誠記『日本文法文語篇』『日本文法口語篇』・・国学の流れ

 

4.品詞分類の視点・・単語を形態・意味・職能などの点から種類分けしたもの

a.素材としての語「詞」(モノ・コト・サマ)+素材間の関係または話し手の態度を表す語「辞」(テニヲハ)・・時枝誠記

自立語(詞)・・活用がある(動詞・形容詞・形容動詞-用言-)

活用がない(名詞・代名詞-体言-)

(副詞・連体詞・接続詞-副用言-)

(感動詞)

付属語(辞)・・活用がある(助動詞)

活用がない(助詞)

b.主語になるもの(名詞)+主語にならないもの・・橋本進吉

主語になる・・体言(名詞・代名詞)

主語にならない・・副詞・連体詞・接続詞・感動詞・助詞・助動詞

述語になる・・用言(動詞・形容詞・形容動詞)

 

5.品詞別の特徴

1動詞・・(例)飛ぶ・咲く・いる

a動作・作用を表す。bウ段で終わる。c活用する。命令形がある。

2形容詞・・(例)堅い・美しい

a性質・状態を表す。b「い」で終わる。c活用する。命令形がない。

3形容動詞・・(例)素直だ・静かだ・静かです

a性質・状態を表す。b「だ」「です」で終わる。c活用する。命令形がない。

4名詞・・(例)鳥・あなた・万葉集・五

a物事を表す。b活用しない。

5代名詞・・(例)これ・それ・あれ・どれ

a物事を指し示す。b活用しない。

6副詞・・(例)にっこり・とても・もし

a主に用言を修飾する。b修飾語になる。c活用しない。

7連体詞・・(例)この・ある・わが

a体言を修飾する。b修飾語になる。c活用しない。

8接続詞・・(例)また・それから

a主として文と文とをつなぐ。b活用しない。c接続語になる

9感動詞・・(例)ああ・もしもし・はい

a感動・呼びかけ・応答を表す。b独立語になる。c修飾語にならない。

d活用しない。

10助動詞・・(例)た・だ・ない

a意味を付け加えたり、話し手の判断を表したりする。b活用する。

11助詞・・(例)が・さえ・に

a語と語の関係を示したり、意味を付け加えたりする。b活用しない。

 

6.形容動詞認定の問題点

a.近世の国学者・・形容動詞を認めない

b.近代の国語学者・・形容動詞を認める(橋本進吉)

形容動詞を認めない(時枝誠記・新村出編『広辞苑』)

c.言語学・日本語教育・・形容動詞を認めない(イ形容詞・ナ形容詞)

(例)静かだ・さわやかだ

1.学校文法・・性質・状態を示す・・「静かだ」・「さわやかだ」で「形容動詞」。

2.岩波の国語辞典・・二つに分けられる・・「静か+だ」・「さわやか+だ」は「名詞+断定」

d.「名詞+だ」とする問題点・・「名詞は主語になる」という定義と合わない

(例)

「外国は」「私は」などのように名詞は主語として使用できる。

「静かだ(形容動詞)」を「静か(名詞)+だ(断定)」・・「静か」は「静かは」「静かが」という形で主語としては使えない→名詞として認定できない

※歴史的にみると名詞に語尾がついて形容動詞が派生した。名詞を厳密に定義すると形容

動詞を認めたほうがよく、日本語を歴史的にみると形容動詞を認めないほうがよい。

 

7.「れる・られる(る・らる)・せる・させる(す・さす)」の特殊性

(扱い)

a.助動詞・・橋本進吉

b.接尾語(動詞の一部)・・時枝誠記

c.特殊な複語尾・・山田孝雄

(特徴)

a.格関係を変化させる。

  (例)太郎が花子を呼び出した。→花子が太郎に呼び出さた。

b.動詞と動詞の間に位置する。

  (例)部長に言わなさる。

c.活用形が完備している。

  未然形・連用形・終止形・連体形・仮定形(已然形)・命令形

 

(参考文献)

芳賀綏(1962)『日本文法教室』教育出版.

阪倉篤義(1974)『日本文法の話』教育出版.

渡辺正数(1978)『先生のための口語文法』右文書院.

中村幸弘(2011)『学校で教えてきている現代日本語文法』右文書院.

山田敏弘(2004)『国語教師が知っておきたい日本語文法』くろしお出版.

  山田敏弘(2020)『国語を教えるときに役立つ基礎知識88』くろしお出版.

日本語の特質

日本語の特質

 

1.日本語の音韻・・音韻(意味重視・/ /)と音声(発音重視・[ ])に区別すること

も多い。

a.音素

母音音素・・/a/ /i/ /u/ /e/ /o/

子音音素・・/k/ /g/ /s/ /z/ /t/ /d/ /n/ /h/ /b/ /m/ /y/ /r/ /w/

※音声的には半母音/y//w/は他の母音を伴って音節になるという子音的要素がある。/y/は/i/、/w/は/u/と同じである。音韻の実体化したものが音声。

b.特殊音素

/Q/(促音)・・つまる音 (例)買う・・買った

/N/(撥音)・・はねる音・異音の存在 (例)読む・・読んだ 

cf.産婆・三台・参加

/R/(長音)・・長母音で2モーラ(拍) (例)おばあさん

(特徴)

(1)常に単独で音節を構成する

(2)原則として語頭にたたず、語中語尾に出現する。

(3)対応する音声は音韻環境により極めて多様である。

c.アクセント

日本語のアクセントは「ピッチアクセント」(高低アクセント)である。近年は、アクセントの平板化が指摘されている。 (例) ドラマ・カレシ・パンツ

※英語は「ストレスアクセント」

d.音韻論的音節

(1)1つの母音で構成されるもの(ア行)

(2)子音+母音のもの

(3)子音+半母音+母音のもの(拗音)

→日本語の音節構造はCV構造(C=consonant,V=vowel)であるとされ

る。

(4)開音節性

→日本語の単語は基本的に母音で終わる。 cf.イタリア語・ポリネシア語

 

2.日本語の文法

a.素材表示の職能を中心とする単語(観念語・詞・自立語)と関係構成の職能を中心とする単語(関係語・辞・付属語)に二分される。

b.文法機能は関係構成の職能を中心とする単語に委ねられる。

→膠着語(こうちゃくご)(助詞の付着)

c.用言は活用という語形変化によって文法機能を明示する。

→屈折語(語形変化)

d.アルタイ型言語・・(例)モンゴル語・トルコ語

(1)述語が基本的文の成分であり、文の終わりにくる。

(2)修飾語が被修飾語の前に置かれる。

 

3.日本語の表現

a.主語と待遇表現

・・「は」「が」「省略」「尊敬語・謙譲語Ⅰ・謙譲語Ⅱ・丁寧語・美化語」・・

b.結果志向・自然志向の表現「-になる」

c.語順-客観的・素材的な成分から主観的・陳述的な成分へ-

d.述語は常に文末に位置する。

e.修飾語は常に被修飾語の前に位置する。

f.付属語(助詞・助動詞)は常に自立語に後接する。

g.同一動詞に後接する助動詞群の相互承接には一定の決まりがある(助動詞の相互

承接)。

①使役 ②受身 ③希望 ④否定 ⑤時 ⑥断定 ⑦推量

(例)太郎は買い物に行かせられたくなかっただろう

h.文末の助詞群にも一定の決まりがある。

判断-聞き手への働きかけ (例)行かないかねえ・行くともさ

 

4.日本語の語種

a.単種語

(1)本来の日本語・・和語(やまとことば・固有日本語)

(例)たけなわ・春・見る

(2)中国からの借用・中国からの字音の借用・・漢語(字音語)

・・呉音・漢音・唐宋音

(例)季節・一同・学校

(3)欧米や近現代の中国語からの借用・・外来語(洋語)

(例)ジーパン・パン・ギョーザ

b.複種語

混種語

(例)スナップ写真

 

5.現代日本の文字

a.表語文字(音と意味を示す)・・漢字 

cf.(後漢)許慎(AD.100年ごろ)『説文解字』

b.表音文字(音節を示す)・・仮名(平仮名・片仮名)

(音素を示す)・・アルファベット・ローマ字(ヘボン式・訓令式)

※「音+訓(重箱読み)(例:台所)」と「訓+音(湯桶読み)(例:消印)」

 

(参考文献)

池上嘉彦(1981)『「する」と「なる」の言語学』大修館書店.

井上史雄(1998)『日本語ウォッチング』岩波新書.

大野晋(1978)『日本語の文法を考える』岩波新書.

橋本進吉(1980)『古代国語の音韻に就いて』岩波文庫.

馬淵和夫(1993)『五十音図の話』大修館書店.