読みへの熟達
(読みへの熟達―読むことをどう教えるか―)
読解活動で問題となるのは、「読む量」「文字、語彙、統語、文章についての知識」「ストラテジー」「読む目的」「第一言語の活用」といった点である。このことを解消するために以下、三つの点についてみていく。
○読む分量の確保―個人読解とグループ読解の統合を通して
多く読むためには、テキスト自体の目的にあった読解活動が重要である。雑誌の娯楽記事、新聞の社説、小説などによって変わるものである。また、関心があるものであれば、量的にもたくさん読むことができ、無意識にスキーマを活性化し、予測を立て、その予測を検証しつつ読むことが行われる。
個人読解を行うメリットは、三つある。第一に「語彙の飛躍的増大」、第二に「学習者が自分自身をよく知ることができる」、第三に「読解が無理なく好きになる」である。
個人読解の問題点としては、「学習者が自由に好きなものを選ぶためには、図書の充実が必要であるが、予算的には無理であること」「グループワークが難しくなること」「学習者の学習動悸の維持が困難になること」などがあげられる。
グループ読解の長所としては、他の人の別の視点が導入されることで、新たな学習の過程が引き起こされやすく、学習に広がりや深まりが期待される。日本語教室でも、豊かな可能性を提供できる。
このような個人読解とグループ読解の特徴を考えて、個人読解とグループ読解とを並行して読み進めるデザインが考えられる。
○読解成功経験の蓄積
第一段階としては、先行タスクとして、「読む目的の明確化」「新スキーマの形成・既有スキーマの活性化」が必要である。そのための活動例として、キャレルはテキストのトピックと関連のある「講義を聞く」「映画、スライド、絵などを見る」「現場を見学する」「討論、ディベート、劇、ロールプレイなどをする」「語彙の連想ゲーム、アナロジーや比喩などで比較する」「テキストの概略、鍵になる語彙、プロットを簡単に紹介する」をあげた。また、語彙学習は先行タスクとして辞書的意味にかぎらずに、背景知識(スキーマ)を同時に扱うとよい。
第二段階としては、予測を立てながら、その予測を検証するために、つまり、能動的に読むという読み方の学習が必要である。特に、クローズ法による穴埋め方式は、スキーマを活用して埋めるものなので、有効である。
第三段階としては、フォローアップが必要である。フォローアップとは、テキストを読むことによって、新たに獲得した情報を既有のスキーマに統合したり、読みの過程で意思決定した事柄(未習語彙の推測結果のどちらをとるか、スキャニング、スキミングどちらで読むかなど)を確認したりすることを目指して、読んだ後に設定するものである。
○ボトムアップ技能の養成―瞬時に意味内容を把握する力
ボトムアップの技能とは、テキストに表現されている文字を見て、語の意味や文型を素早く正確に、つまり瞬時のうちに、自動的に識別し認識することに関わる技能である。意識的に養成されていくことが多いものである。成人が一般的に備えているトップダウン技能を補償的に使って読解を進めながら、他方でボトムアップ技能を軸に語彙力・文法力の向上に努める方が賢明であり、現実的であるといえる。
語彙学習の方法としては、「語彙に関連のあるものでまとめる方法」と「チャンクでとらえる方法」がある。チャンクで識別するための方法としては、最小限の時間に限りながら、単語の代わりに意味のまとまりをもった句のレベルで行う識別方がある。