松本亀次郎の受身文の論

1.松本亀次郎

松本亀次郎(大正八年)では、受身文は「被役助動詞」の箇所で扱われている。以下のように述べている。

〔被役助動詞〕ハ、甲ガ、乙ノ動作ヲ、受ケル意味を表ハス詞デス。・・(中略)・・レルハ、四段ノ第一変化ニ接続シ、ラレルハ、其ノ他ノ動詞ノ、第一変化ニ接続シマス。又サ行変格ガ、ラレルニ接続スル時ハ約音ヲ生ジマス。・・(中略)・・使役助動詞ト、被役助動詞トノ接続。使役助動詞ニ、被役助動詞ヲ接続サセレバ、使役相ヲ受ケル詞トナリマス。・・被役相ヲ表ハスニハ、レルラレルノ二語ヲ用ヒマス。漢字ノ被見為・・所等ノ意デス。被役相ノ文章ニハ、被動者ト起動者トヲ具ヘナケレバナリマセン。又起動者ニハ、必ズ助詞ノニ或ハカラヲ添ヘマス。・・(中略)・・上欄ノ飲マセル聴カセルナドハ、普通ノ使役相デ、下欄ノ飲マセラレル聴カセラレルナドハ、使役相ヲ受ケル意味ヲ表ハス者デス。

この記述から、次のことが指摘できる。
○主語と動作主は有情で扱っている。
→非情の受身については扱っていない。
○動作主は「ニ」「カラ」で示される。
→「ニヨッテ」は扱われていない。
○「れる・られる」の接続で成立する。
○漢文の「被・見・為・所」に対応させている。
→それぞれの漢字のニュアンスには触れていない。
○使役受身を扱っている。
→比較的高度な受身文を扱っている。