富士谷成章と受身の論

1 富士谷成章

富士谷成章は、『あゆひ抄』において、受身・尊敬・可能・自発の助動詞とされる、「る」「らる」は「脚結」の中に分類されている。その「脚結」は「名に添加せず、立ち居する(活用する)語に添加する」ものと、「名に添加し、立ち居しない(活用しない)」ものとに分け、さらに、「名に添加せず、立ち居する(活用する)語に添加する」ものの中に「隊」「身」「倫」を入れ、「名に添加し、立ち居しない(活用しない)」ものの中に「属」「家」を入れている。
受身・尊敬・可能・自発の助動詞とされる、「る」「らる」は「脚結」の中でも、「身」に入れられており、「被身」として立項されている。なお、「身」は「一二身」として「て身」「し身」「めり身」「なり身」「ゆく身」「あふ身」「やる身」「かぬ身」「被身」「令身」「為身」「如身」から成っている。
「被身」では、接続が「何る」「何らる」とに分け、「何る」は「靡なき言葉を受く」、「何らる」は「靡ある言葉を受く」とあることから、動詞の四段活用には「る」が、上下の一段・二段活用には「らる」がつくことを示している。「レル」「ラレル」だけで訳していることから、明確には、受身・尊敬・可能・自発を訳し分けるものとして意識していなかったことを示しているのではないだろうか。
「る」「らる」「す」「さす」「しむ」は、接尾語説と助動詞説とがあるが,『あゆひ抄』では、
被身・令身は脚結を取り具して靡ある装となして見るべきこと、口づから伝へらる。
とあるように、富士谷成章も接尾語に近い考え方をしている。