「る・らる」の根源は自発?

古典の助動詞「る・らる」の自発根源説には、疑いを持っています。以下、その理由を示してみます。


「る・らる」の意味展開には二説ある。すなわち、
○受身→自発(自然勢)→可能(能力)→尊敬(敬語)・・山田孝雄
○自発(自然的実現・勢相)→受身(所相)・可能・尊敬(敬相)・・時枝誠記
という、「受身根源説」と「自発根源説」である。
現在、有力視されているのが「自発根源説」である。これは、「ゆ・らゆ」からの音韻交替説で考えると、「ゆ・らゆ」は「自発」で用いられることが圧倒的に多いことによる。しかし、窪薗晴夫(1997)が述べるように、「r」から半母音の「j」「w」に変化するのが自然である。そうすると、「ゆ・らゆ」の「y」、つまり「j」の音が「る・らる」の「r」の音に変化するのは逆の現象であり、不自然で無理があるようにも思える。その立場で考えると、「ゆ・らゆ」から「る・らる」への自然な変化ではなく、それぞれが持つ、基本的な意味役割に違いがあるのではないだろうか。たしかに「ゆ・らゆ」と「る・らる」は、音の響きは似ているため反論の余地はあるだろうが、音韻交替説に縛られる必要はないため、一般に有力とされている「る・らる」の根源的な意味が自発である必然性はないのではなかろうか。


(参考文献)
佐伯梅友(1936)『国語史−上古篇』刀江書院
和田利政(1969)「る・らる(付ゆ・らゆ)−受身(古典語)」『助詞助動詞詳説』学燈社
窪薗晴夫(1997)「音声学・音韻論」『日英対照による英語学概論』くろしお出版