モダリティの規定(日本語教育)
小泉保(1993)
法は、まずムード(法)とモダリティ(法性)に分けておく必要がある。一般に法(ムード)は、法性(モダリティ)が語形変化の種類として、直説法、仮定法、命令法というように、文法的体系で表されたものである。日本語の文法書は、研究者が自己流にモダリティを規定しているので、内容が雑多になり、比較検討するのがむずかしい状態にある。それに、法性をモダリティと外来語で呼んでいるのに、言語学で一般に通用している法性の概念に準拠しないのも不思議である。法性は、言語による伝達内容の真実性もしくはその実現に対する話し手の見方を表す文法的カテゴリーである。言語伝達にあっては、常に真実の伝達内容が求められている。・・〈中略〉・・さて、法性を規定するにあたり、事実についての話し手の見方を述べておいたが、法性は大きく2種類に分けられる。
(a)認識的法:伝達内容の真実性に関するもの。
(b)義務的法:伝達内容の実現に関するもの。 (pp.130−131)
姫野昌子編(1998)
日本語では、話し手の態度は主に文末に現れる。初級では、ほんの少しだけ習うが、中級では、推量、伝聞、願望、意志など、いわゆる「ムード」の表現のバラエティーを順次学んでいくことになる。(pp.27−28)
松岡弘監修(2000)
モダリティとは、簡単に言えば、話し手がことがあをどのようにとらえ、どのように述べるかを表すものです。・・〈中略〉・・このようにすべての文は客観的なことがら(命題)と、話し手の主観であるモダリティによって構成されているとするのが、現在の文法研究の定説です。(p.175)
白川博之監修(2001)
とりたて助詞は話し手の気持ちや独自の捉え方、評価を言外の意味として明示するためのものなので、モダリティに近いものです。とりたて助詞が用いられる文の述語に制限がある場合が少なくないのは、とりたて助詞がこのように話し手の主観を反映するものだからです。(p.383)
庵功雄(2001)
出来事を描く部分のことを命題あるいは「コト」・・〈中略〉・・出来事に対する話し手の主観を表す部分をモダリティあるいは「ムード」と言います。(p.72)
文は客観的な内容を表す命題と、それに対する話し手の主観を表す部分から成ります。この話し手の主観を表す表現をモダリティと言います。この場合の「主観」は「発話時」における「話し手」のものであるのが基本です。・・〈中略〉・・日本語の文は命題をモダリティが包む・・〈中略〉・・モダリティは命題の内容に関わる話し手の捉え方を表す対事的モダリティと、聞き手に対する話し手の態度を表す対人的モダリティとに分かれます。(p.166)
野田尚史(2005)
書くための文法では、言い切りの「−ほうがよい。」や、婉曲的に意見を述べる「−ほうがいいだろう」などのモダリティ表現を伴った形式で提示すること、そして、読むための文法でじゃモダリティ部分の様々な形式について、各モダリティ表現の違いを理解するよりも、婉曲表現であると理解できるように指導することが大切である。(pp.116−117)
池上嘉彦・守屋三千代編(2009)
事柄に対する話し手の推量・疑問、あるいは聞き手に対する話し手の働きかけなど、いわゆる「モダリティ」の表現においても、英語で人称代名詞が現れるところに日本語では現れないことがあります。(p.178)
原沢伊都夫(2010)
日本語文は、文の基本的な部分であるコト(命題、言表事態、叙述内容)とそれに対する話し手の主観を表すムード(モダリティ、言表態度、陳述)からなり、文の骨格とも言えるコトをムードの表現で覆うような関係にあります。(p.99)