副用語

副用語

副用語・・自立語で活用変化がなく、一般に主語や述語とはならず、副次的かつ依存的な一つの職能に限定されるもので、副詞・連体詞・接続詞・感動詞のことである。

1副詞
(基本的性格)
述語の修飾語として働くのを原則とする語。
a「状態の副詞」
ゆっくり・堂々と・じっと・さっと・すくすくと・はっきりと
わざと・うっかり
b「程度の副詞」
たいへん・とても・ずっと・ずいぶん・たいそう・いちばん
あまり・たいして・少しも
c「量の副詞」
たっぷり・どっさり・たくさん・少し
あまり・さほど・ちっとも
だいたい・おおよそ・ほぼ
d「テンス・アスペクトの副詞」
かつて・いずれ・これから・もうすぐ
ずっと・ちょうど・ようやく・いったん
いつも・きまって・しばしば
e「陳述の副詞」
ぜひ・いったい・決して・ぜひ・きっと・なんでも・まるで・もし
f「評価の副詞」
当然・さいわい・偶然
g「発言の副詞」
実は・例えば・実は
h「その他の副詞」
特に・単に・異に

2連体詞
(基本的性格)
名詞修飾(連体修飾)の機能を果たす。
a「動詞の名詞修飾に由来」
ある・いわゆる・あらゆる
b「動詞のタ形に由来」
たいした・ふとした・ちょっとした
c「形容詞の名詞修飾形式に由来」
おおきな・こまかな・はるかなる
d「名詞+の」
例の・一種の
e「その他」
ほんの・せいぜい・およそ

3接続詞
(基本的性格)
文頭において、先行する文とのつながりを示す役割を果たす。
a「接続助詞やそれに相当する表現に由来」
が・けれども・だから・なのに・反面・一方
b「指示詞に由来」
それに・それから・そのため・そして・それで
c「動詞に由来」
したがって・つまり
d「名詞+助詞」
おまけに・ゆえに・ちなみに

4感動詞
(基本的性格)
文の他の要素と結びついて事態に対する感情や相手の発言に対する受け答えを一語で分析的に表す表現。
a「眼前の事態に対する驚き」
ああ・あら・あれれ
b「眼前の事態や相手の言ったことへの意外感」
なんと・へー
c「相手の発言に対する同意・不同意」
はい・ええ・いや
d「相手の発言に対する理解」
なるほど・ふうん・はあ
e「解答を模索中」
さあ・ええと・そうですね
f「相手への呼びかけ・注意を喚起」
もしもし・おい・ねえ
g「自分に対する疑問」
はて・はてな
h「動作・行動の開始時に自分に言い聞かせる」
さてと・やれやれ・よいしょ
i「挨拶」
さようなら・おはよう・こんにちは・行ってきます・ありがとう・ごちそうさま

名詞

名詞
1基本的性格
名詞は文の主題になったり、文の補足語になったり、文の述語になったりする。

2名詞の意味範疇
人名詞・・ひと・誰
物名詞・・もの・どれ・何
事態名詞・・こと・どれ・何
場所名詞・・ところ・どこ
方向名詞・・ほう・どちら
時間名詞・・とき・いつ

3特殊な名詞
数量名詞・・数量を表す名詞。
(例)大勢・たくさん・一人・一枚・一冊・一時間・二月・二回・三番

形式名詞・・名詞の性質を持ちながら、意味的に希薄で、修飾要素なしでは使用できない名詞。
(例)こと・の・ところ・とき・ために・とおり・かぎり・はず・こと


接辞

1基本的性格
接辞は、語(派生語)を構成する要素であり、語幹(派生語幹)に付加して独立の語を派生する。「接頭辞」と「接尾辞」とがある。

2接頭辞
a名詞につくもの・・(例)ご心配・小鳥・両横綱
b動詞につくもの・・(例)とり壊す・ぶち壊す・うち沈む
cイ形容詞につくもの・・(例)ま新しい・こうるさい

3接尾辞
a名詞性接尾辞・・(例)鈴木さん・一羽・植物性・暑さ・塗りたて
b形容詞性接尾辞・・(例)男らしい・わかりやすい・忘れがちだ
c動詞性接尾辞・・(例)悲しがる・深める・汗ばむ

形容詞

形容詞・形容動詞

1基本的性格
形容詞は、何らかの状態を表し、述語の働きと名詞の修飾語の働きをする。また、文中での働きの違いに応じて活用する。
(例)この地域は寒い。
寒い地域

2属性形容詞と感情形容詞−意味的分類−
a属性形容詞・・人やものの属性(性質や特徴)を表す表現。
「強い」「長い」「勤勉だ」「効果だ」など。
(例)日本人は勤勉だ。
b感情形容詞・・人の感情・感覚を示し、内面の状態を表す主観性の強い表現。
平叙文では主語は一人称、疑問文では二人称。
「ほしい」「なつかしい」「かゆい」「いやだ」など。
(例)私は車が欲しい。
あなたは車がほしいですか。
時として、感情形容詞が属性形容詞として用いられることがあり、人の感情・感覚を引き起こすものの属性が問題にされる。
(例)水虫はかゆい。
猛獣は恐ろしい。

3イ形容詞とナ形容詞−形態的分類−
aイ形容詞・・名詞を修飾する場合に「−い」という形で表されるもの。
「寒い」「強い」「ほしい」など。
(例)寒い地域
bナ形容詞・・名詞を修飾する場合に「−な」という形で表されるもの。
「勤勉だ」「高価だ」「いやだ」など。学校文法では形容動詞と呼ばれる。
(例)高価な本

4活用
aイ形容詞
基本形語尾
基本形 i
基本条件形 kereba
基本連用形(連用形)ku
タ形語尾
タ形 katta
タ系条件形 kattara
タ系連用形(テ形・タリ形) kute,kattari

bナ形容詞
1「だ」の系列(普通の文体)
基本形語尾
基本形 da
基本連用形(連用形) ni
連体形 na
タ形語尾
タ形 datta
タ系条件形 dattara
タ系連用形(テ形、タリ形) de,dattari

2「である」の系列(硬い文章体)
基本形語尾
基本形 dearu
基本連用形(連用形) deareba
連体形 deari
タ形語尾
タ形 deatta
タ系条件形 deattara
タ系連用形(テ形、タリ形) deatte,deattari

3「です」の系列(丁寧な文体)
基本形語尾
基本形 desu
タ形語尾
タ形 desita
タ系条件形 desitara
タ系連用形(テ形、タリ形) desite,desitari

細江逸記のヴォイス論再考

全国大学国語国文学会発表資料(2018.6.3於二松學舍大學)

細江逸記のヴォイス論再考

國學院大學兼任講師・大東文化大学非常勤講師
岡田 誠

 序
細江逸記は、英語学の泰斗として知られているが、国語学にも多大な影響を与え、戦前・戦後の国語学の論文等では「中相概念」・「き」「けり」の論で引用されてきた。特に、細江逸記(一九三二)『動詞時制の研究』は頻繁に引用されてきた。しかし、その国語学の背景を知るには、拙稿(二〇一七)でも論じたように、「中相」について提唱した、細江逸記(一九二八)「我が国語の動詞の相(Voice)を論じ、動詞の活用形式の分岐するに至りし原理の及ぶ」(『岡倉先生記念論文集』)にその原型があり重要である。この論文は、近年では引用されることの少ない論文であるが、この論文を晩年、大幅に加筆したものとして、細江逸記(一九四四)「我が国語の動詞の『話相』(Voice)並びに動詞活用形式分岐の初期相に就いて」(『大阪商科大学・同経済研究所 経済学雑誌』第一四巻三号)の存在がある。この論文はほとんど知られておらず、参考文献で示されることさえ稀である。この中での文法観は変わることはないものの、細江逸記の国語学はヴォイス論から始まり、ヴォイス論で終わることがわかり、国語学の深化がわかる。本発表では、これまで扱われることのなかった細江逸記の晩年のヴォイス論を紹介し、その内容を検討することで、細江逸記に影響を与えた英語学・国語学の淵源を探っていく。なお、本発表では、初期のヴォイス論を「前期ヴォイス論」、晩年のヴォイス論を「後期ヴォイス論」とし、国語学という名称で扱われていた当時の状況から、日本語学ではなく、国語学と表記することにする。

一 『動詞職能論』の存在と岡倉由三郎
 前期ヴォイス論ではヴォイスを「相」としているが、後期ヴォイス論では「話相」としている。この当時、ヴォイスを「相」としているものが一般的であるが、「話相」としているものは管見には入らないものである。この点については、話し手の視点という、テンス・ムード一体論の細江逸記のこだわりを感じるところである。
全体の総頁数は、前期ヴォイス論が三五頁で横書き、後期ヴォイス論が五一頁で縦書きである。このように、大幅に加筆されていることがわかる。目次を見ると以下のようになっており、章立ては同じであるが、多少、各章のタイトル名を変更してある。
(初期ヴォイス論・一九二八年)
    Ⅰ 序言
    Ⅱ 印欧語の動詞のVoiceを瞥見す
    Ⅲ 我が国語の動詞の相の真相
       (A)「中相」及び「所相」の発達及びその意義
       (B)「所相」の運用
Ⅳ 活用形式分岐の原理
    Ⅴ 跋語
(後期ヴォイス論・一九四四年)
    一 序言
    二 印欧語瞥見
    三 我が国語の話相
        (イ)中相並に所相の発達とその意義
        (ロ)所相の運用とその本義
    四 動詞活用形式分岐の初期相
    五 結語
追記
この二つの論文は内容的には、拙稿(二〇一七)でも述べたように、以下の三点がこの論の特徴的な点である。これは、多少の加筆はあるものの、前期ヴォイス論、後期ヴォイス論、ともに基本的に共通している。
一 上代の「ゆ」以前、つまり文献以前の時代に「原始中相」というものがあり、そこから、「自動詞」「勢力」「所相」と発達し、「勢力」から自然勢、能力、敬語と発達した。その痕跡は、「おぼゆ」などに残るとする。

  
三 
二 日本語の受身は純粋な所相ではない。また、中相を考え
れば、自動詞の受身の存在も理解できると述べた。
  三 金田一春彦以前に、アスペクトの存在を主張した。
このヴォイス論は、どのような成立過程を持っているのかについて、それぞれのヴォイス論の助言には以下のように示されている。
(前期ヴォイス論・一九二八年)
この小論文は、予自身の菲才浅学なると、今一ツは紙数の限られて居る為とで極めて不完全なものであるが、予の研究の一端として此芽出度き機会に於て、啻に英語学者英文学者のみならず日本文法学の先達でもあられた我が師岡倉先生に深厚なる敬意と共に捧ぐることを許され度い。(九六頁)
(後期ヴォイス論・一九四四年)
此小論文は私が大正七年に纏めた『動詞職能論』(未発表)の一部を成し、曽て極めて限られたる範囲内に少しく発表したこともあるのであるが、愚考に紹介の栄を恵まれた二三の専門学史をみると逸要の憾みがないでもないので、茲に勧めらるるままに同じ問題を掲げ、補ふに新知を以てし再び国語学界に見ゆることとした次第である。(一四六頁)
このように、二つのヴォイス論の序言から、未公刊の『動詞職能論』というものがあり、その一部を発表したものであることがわかる。
また、岡倉由三郎の名前があがっているが、細江逸記(一九三二)『動詞時制の研究』にも以下のように岡倉由三郎の名前があがっている。
私が此研究を進めるに至った動機は大正六年九月某日岡倉由三郎先生を雑司ヶ谷のお宅にお訪ねしたとき、先生の座談に暗示を得たことにあるので、先生は夙に私の言ふことに類した区別を「き」と「けり」との間に認めておられるように思う。(一二七頁)
細江逸記の英語学の指導教授は、音声学で知られた片山寛であ
るが、東京外国語学校にも講師で岡倉由三郎は出講していた時期もあるため、国語学の知見は岡倉由三郎から得たものが多いという可能性が高い。北原保雄(一九九五)は、岡倉由三郎の自宅には多くの日本語関連の蔵書があったことを指摘している。
また、『動詞時制の研究』には、以下の記述がみられる。
この論の骨子は、私が昭和三年七月に岡倉先生還暦祝賀の記念論文集に寄せた『我が国語の相(Voice)を論じ、動詞の活用形式の分岐するに至りし原理に及ぶ』と題した小論文とともに、私が大正七年にまとめた『動詞職能論』の一部を成すものである。・・〈中略〉・・我が国語の動詞の相に関する論文が、実は拙き要約的のものであつたにも拘はらず、・・(二頁)
これらの記述から、未公刊の『動詞職能論』という体系的なものがあり、それが全体を俯瞰できるものであることがわかるのである。また、この論を作成するにあたり、「烏滸がましくも二十数カ国の言語を動員した」(二頁)と述べられており、まさに世界の言語を俯瞰したものであることがわかる。
このように岡倉由三郎の国語学の影響、そして未公刊の『動詞職能論』というものが、細江逸記の国語学の基本的な体系であることがわかり、その体系に最も近いものが、前期・後期ヴォイス論であることがわかる。細江逸記の追悼号(『英語青年』一九四七年六月号)には、細江逸記の略歴が掲載されており、以下の記述がある。
日本語教育振興会研究嘱託として昭和二十一年に「平安朝文語文法の新研究」をなした事にも一層よく窺はれると思ふ。又「日本古代文化の紹介」にも従事しておられたこともある。 (二一二頁)
この記述にある「平安朝文語文法の新研究」は未公刊であるが、『動詞職能論』と同様に、体系的なものであることが予想され、『動詞時制の研究』『動詞叙法の研究』の著述をなした後のものであるだけに、注目したいところである。

  

このように前期・後期のヴォイス論、『動詞時制の研究』の記述には細江逸記の国語学がよく反映されている。また、『動詞叙法』の研究では、拙稿(二〇一七)で述べたように、『動詞叙法の研究』は、「き」「けり」に「叙想」の力を認め、「む」「べし」についても論じている。しかし、テンス・ムードは別個ではないと論じた、英語学の業績として取り上げられることが多い。しかし、「き」「けり」の論の普及に影響を与えたといわれている、木枝増一(一九三八)では、『動詞時制の研究』『動詞叙法の研究』を取り上げている。このように後期ヴォイス論と『英語青年』を資料に加えることで、細江逸記の国語学の業績の順序を以下のように整理することができる。
一九一八年『動詞職能論』(未公刊)
一九二八年「我が国語の動詞の相(Voice)を論じ、動詞の活用形式の分岐するに至りし原理の及ぶ」
一九三二年『動詞時制の研究』
一九三三年『動詞叙法の研究』
一九四四年「我が国語の動詞の『話相』(Voice)並びに動詞活用形式分岐の初期相に就いて」
一九四四年「平安朝文語文法の新研究」(未公刊)
整理してみると、細江逸記の国語学はヴォイス論で始まりヴォイス論で終わるという特徴がある。また、その体系的に示したと考えられる著作は未公刊であることも注目してよいであろう。さらには、途中、国語学の著作を示さない時期が、一九一八年から一九二八年と一九三三年から一九四四年の二回、それぞれ約十年ずつあることも注目してよい。この二回の国語学の中断の時期は、佐藤道子(一九八八)の調査による業績一覧を見ると、『英語青年』を中心に精力的に英文法の論文や著作を示している時期である。後期ヴォイス論にも示されているように、外国語との比較で示された細江逸記の国語学の論は加筆されてはいるものの、基本的な考えは生涯変わることはなかったと言える。



二 細江逸記が参考にした人名と著作
拙稿(二〇一七)では、前期ヴォイス論には数多くの国学者国語学者・西洋人の日本語研究者の名前があげられている。その意味でも前期ヴォイス論を見ると、細江逸記の参考にしたものがわかることを示した。以下には、前期ヴォイス論で示されたものを基本として、後期ヴォイス論でも示されているものについては太ゴチックで示し、後期ヴォイス論で新たに加えられたものについては、□で示した。
賀茂真淵全集』巻三 本居宣長 『詞やちまた』 鹿持雅澄
大槻文彦『廣日本文典』『別記』 今泉定介『竹取物語講義』
岡倉由三郎 金澤庄三郎『日本文法論』『日本文法新論』
山田孝雄萬葉集講義』『奈良朝文法史』『日本文法論』
『日本文法学概論』
三矢重松『高等日本文法』 折口信夫 草野清民『日本文法』 
藤岡作太郎『国文学全史 平安朝篇』 大島正健
今泉忠義『国語発達史大要』 宮良当壮八重山語彙』
ホフマン アストン チェンバレンThe Japanese Language
サンソム イェスペルセン カーム スウィート
このように整理してみると、後期ヴォイス論で新たに加えられたのが、鹿持雅澄・折口信夫今泉忠義、そして山田孝雄『日本文法学概論』であることがわかる。
細江逸記の国語学には岡倉由三郎が大きく影響しているため、岡倉由三郎の師であるチェンバレンをはじめ、ホフマン、アストンの著作があがるのは自然である。この他に、最後の国学者とされた山田孝雄の著作が与えた影響は強いことがわかる。その関連でみると、賀茂真淵本居宣長、三矢重松、山田孝雄折口信夫今泉忠義といった国学の系統のものを参考にしていることがわかる。なお、細江逸記は、金澤庄三郎のことを批判的に扱っている。このことから、細江逸記が継承している国語学は、チェンバレン、岡倉由三郎の系統のものと、本居宣長山田孝雄国学の系統のものとから成立していることがわかる。特に山田孝雄については、『動詞時
制の研究』に以下の記述がある。
やうやく明敏なる見解を下さんとせられた学者は草野清民氏 であつたが、不幸にして氏は夭折せられたので充分に氏の説を聴くことが出来ないのは私の最も遺憾とするところである。・・〈中略〉・・氏に次で、更に数歩を進め牢固たる立場を保持して明透なる学説を立てられたのは今の東北帝国大学教授山田孝雄氏で、殆んど暗中模索の状態にあつた私の眼に一条の光明を与へたものは実に私が明治四十三年頃に読んだ博士の名著「日本文法論」であつたので、私は終生無限の感謝を未見の恩師山田孝雄博士に捧ぐるであらう(三六頁)
このように、山田孝雄の文法論によって大いにその文法観が変わったことを述べている。師という記述がなされるのは、岡倉由三郎と山田孝雄の二人である。岡倉由三郎は直接師事した間柄であるのに対して山田孝雄には会ったことはないがその著作から大いに学び恩師とし、後期ヴォイス論でも山田孝雄が『日本文法論』をさらに整理した形で示した『日本文法学概論』を追加していることは重要である。岡倉由三郎の著作からの引用がないのは、岡倉由三郎の国語学関連の著作は音声学が中心であり、用言及び助詞・助動詞の分類・整理に重点があるため、それぞれの個々の考察は行っていないことが考えられる。

  三 『英文法汎論』と『動詞職能論』
細江逸記の体系的な英文法の著作として、細江逸記(一九一六)『英文法汎論』がある。『英文法汎論』で英語学者として細江逸記の存在が広く知られるようになった重要な著作で、アニアンズの流れを汲み、英語教育の世界で五文型を定着させたと評価されている。國弘正雄(一九七〇)はこれをテキストとして使用してきたこと(一〇九頁)を述べ、渡部昇一(一九九六)は上智大学のテキストとして使用してきたこと(四三頁・二〇四頁―二〇六頁)を述べている。
『英文法汎論』は未公刊の『動詞職能論』の二年前に出版されて
いる体系的な英文法の著作であるが、その目次には日本語との比較は立項されておらず、純然たる英文法を扱っているものである。また、『英文法汎論』の例文に日本語訳は施されていないが、細江逸記の英語学としては最後の著作となった『精鋭英文法汎論』には日本語訳が施されている。『精鋭英文法汎論』(一九四二年)の第一巻までの出版で亡くなってしまったため、完成はしていないが、『英文法汎論』で英文法の体系性から始まり、晩年再び、『精鋭英文法汎論』で英文法の体系性を加筆して終えていくのは、細江逸記の国語学においての『動詞職能論』・前期ヴォィス論から始まり、「平安朝文語文法の新研究」・後期ヴォイス論で終わることと共通したところがある。その間に軽井沢夏期大学会(会長は新渡戸稲造と記されている〈『動詞時制の研究』四頁〉)で一九三一年に行った講義の内容をもとに、『動詞時制の研究』『動詞叙法の研究』がなされたものである。『動詞時制の研究』には二頁で『動詞職能論』と前期ヴォイス論に骨子の記述がある他に、以下のような記述がある。
此小論考は私が軽井沢夏期大学会の求めに応じて、本年八月七日より同十日に亘つて成したさゝやかなる講演の原稿に、幾多説明的な筆を加へ、例文の追加をなしたもので、茲に会の首脳者と出版社との一致せる希望に基づいて之を上梓し、以て広く世に問ふこととしたのである。(『動詞時制の研究』一頁)
また、『動詞叙法の研究』では以下のように述べている。
此小著は、私が本年八月七日より同十日に亘つて軽井沢夏期大学に於いて試みた四回講演の原稿を基とし、更に整理を新たにし、幾多の事項を追加したもので、茲に諸方面より勧説に遵つて公けにするものである。(『動詞叙法の研究』一頁)
これらの記述を考えると、『英文法汎論』で体系性を示したのちの軽井沢夏期大学会での講演は、『動詞時制の研究』『動詞叙法の研究』につながり、細江逸記の英語学の根幹に当たると考えてよいであろう。以下に順番に整理してみる。

一九一六年 『英文法汎論』
一九三二年 『動詞時制の研究』
一九三三年 『動詞叙法の研究』
一九四二年 『精鋭英文法汎論』
細江逸記の英語学と国語学の体系性という視点で考えてみる
と、英語学は『英文法汎論』、国語学は未公刊の『動詞職能論』にその基礎があると言える。

  結
本発表では、従来、参考文献でも示されることが稀である細江逸記の後期ヴォイス論、すなわち、細江逸記(一九四四)「我が国語の動詞の『話相』(Voice)並びに動詞活用形式分岐の初期相に就いて」を資料として、『動詞時制の研究』に加えることで新たに細江逸記の論の淵源として見えてくるものがある点を報告した。そこからわかることは、未公刊の『動詞職能論』は体系的な細江逸記の国語学が示されているものであり、その『動詞職能論』にもっとも近いものが、前期ヴォイス論、後期ヴォイス論であることである。また、細江逸記が影響を受けた国語学は、前期ヴォイス論、後期ヴォイス論の参考文献・引用文献などから、チェンバレン、岡倉由三郎の系統のものと、本居宣長山田孝雄国学の系統のものであることがわかる。
その一方で、英語学者としての細江逸記の研究においても、『英文法汎論』ではじまり、『精鋭英文法汎論』で終わるという、体系性を意識していたことがわかるが、それは国語学でも、『動詞職能論』(未公刊)・前期ヴォイス論から始まり、「平安朝文語文法の新研究」(未公刊)・後期ヴォイス論で終わることとも、体系性から始まり体系性で終わるという点で共通している。英語学も国語学も、体系性を重視していたことがわかるのである。音声学で著名な片山寛が指導教授ではあったが、師として記載されている、国語学者から始まり英語学者に転じていった岡倉由三郎の流れを汲むと言えそうである。ただし、岡倉由三郎は国語学から始まり、


英語・英語学でその生涯を終えたが、途中、国語学の中断の時期はあるものの、細江逸記は英語学から始まり英語学・国語学でその生涯を終えた点は異なると言える。

(主要参考文献)
今泉忠義(一九三一)「助動詞る・らるの意義分化」『國學院雑誌』三号
岡田誠(二〇一七a)「細江逸記の国語学」『新國學』復刊九号
岡田誠(二〇一七b)「日本語学史・国語教育史における岡倉由三郎の再評価」「二松學舍大學人文学会(第一一六回)」口頭発表資料
小川芳男(一九四七)「細江逸記博士」『英語青年』第九三巻六号
加藤浩司(一九九八)『キ・ケリの研究』和泉書院
加藤道子(一九八八)「細江逸記」『近代文学研究叢書』第六一巻
木枝増一(一九三八)『高等国文法新講 品詞篇』東洋図書
北原保雄(一九九五)「解説」『草野氏日本文法 全』勉誠社
金田一春彦(一九五〇)「国語動詞の一分類」『言語研究』(『日本語動詞のアスペクト』麦書房所収)
金田一春彦(一九五七)「時・態・相および法」『日本文法講座Ⅰ』明治書院
國弘正雄(一九七〇)『英語の話しかた』サイマル出版会
草野清民(一九〇一)『草野氏日本文法 全』勉誠社
中島文雄(一九四七)「細江先生のこと」『英語青年』第九三巻第六号
田吉太郎(一九五六)「動詞の相に関する考察」『国語と国文学』第八巻八号
細江逸記(一九一六)『英文法汎論』泰文堂【テキストは篠崎書林(一九九九)の改訂新版】
細江逸記(一九二八)「我が国語の動詞の相(Voice)を論じ、動詞の活用形式の分岐するに至りし原理に及ぶ」『岡倉先生記念論文集』研究社


細江逸記(一九三二)『動詞時制の研究』泰文堂
細江逸記(一九三三)『動詞叙法の研究』泰文堂
細江逸記(一九四四)「我が国語の動詞の『話相』(Voice)並びに
動詞活用形式分岐の初期相に就いて」『大阪商科大学・同経済学研究所 経済学雑誌』第一四巻三号
三矢重松(一九〇八)『高等日本文法』明治書院
宮良当壮(一九三〇)『八重山語彙』【テキストは『宮良当壮全集8』甲編・乙編(第一書房・一九八〇)】
山田孝雄(一九〇八)『日本文法論』宝文館
山田孝雄(一九三六)『日本文法学概論』宝文館
渡部昇一(一九九六)『英文法を撫でる』PHP研究所

動詞

動詞

1.動詞の基本的性格
動詞の基本的性格は、単独で述語の働きをし、文中での働きの違いに応じて活用することである。

2.動詞の分類
a動態動詞・状態動詞
動態動詞・・動きを表す
(例)歩く・倒れる・倒す・話す
状態動詞・・状態を表す
(例)ある・いる・できる・要る・違う
b自動詞・他動詞
自動詞・・「名詞+ヲ」という形式の補足語を取らない
(例)人が動く・車が止まる
他動詞・・「名詞+ヲ」という形式の補足語を取る
(例)新聞を読む・車を止める
c意志動詞・無意志動詞
意志動詞・・人の意志的動作を表す (例)歩く・読む・考える
無意志動詞・・人の意志的動作を示さない (例)倒れる・老いる・失う

3.活用
子音動詞(五段活用・強変化動詞)と母音動詞(一段活用・弱変化動詞)
a子音動詞(五段活用・強変化動詞)
(例)読む yoma-nai,yomo-u,yomi-masu,yomu,yomu-toki,yome-ba,yome
b母音動詞(一段活用・弱変化動詞)
(例)食べる tabe-nai,tabe-masu,taberu,taberu-toki,tabere-ba,tabero
cその他の動詞(変格活用)
(例)する・くる

4.複合動詞
複合動詞・・ある動詞(前項)に別の動詞(後項)をつけて作られている動詞
a連用形複合動詞
(例)持ち上げる
bテ形複合動詞
(例)持ってくる

5.借用動詞
借用動詞・・実質的な意味を表さず、動詞としての性質だけを持ったもの。
(例)する・研究する・研究をする・ある・映画化する・オープンする

文の組み立てと品詞

文の組み立てと品詞と語の構造

1.文と語
a文・・言語表現のもっとも基本的な単位。あるまとまった内容を持ち、形の上で完結した単位。表記において句点が施される。
b文章・談話・・複数の文の有機的な組み合わせによって構成される。
c語・・文を構成する要素の中でもっとも基本的な重要な材料。有限の数の単語を用いて、無限の数の文を作る。

2.文の基本構造
a文の骨格・・述語・補足語・修飾語・主題
b述語・・文の中心的な要素で、述語によって文の大枠が決定され、文の骨格を定める。
動き(動態述語)と状態(静的述語)に分けられる
(例)太郎は荷物を運んだ。
次郎は仕事で忙しい。
c補足語・・述語が示す意味を補う要素
(例)太郎は荷物を運んだ。
d修飾語・・与えられた表現に付加的な情報を加え、精密な記述を与える働きをする文の要素
連用修飾と連体修飾に分けられる
(例)太郎は重い荷物を軽々と運んだ。
太郎は重い荷物を軽々と運んだ。
e主題・・「Xは−述語」の形で文の陳述の対象をあらわす要素
有題文と無題文とがある
(例)次郎は仕事で忙しい。
太郎が荷物を運んだ。
f語順・・文中の諸要素の並ぶ順序
主題−補足語・修飾語(修飾語・補足語)−述語
(例)太郎は重い荷物を軽々と運んだ。
太郎は軽々と重い荷物を運んだ。

3.品詞
品詞・・働きの違いによって語を種類分けしたもの。
名詞・・主題や補足語の中心要素になる
(例)山・机・イギリス
動詞・・単独で述語になる
(例)読む・書く
形容詞・・単独で述語になり、かつ、連体修飾語として働く。
(例)早い(イ形容詞)・静かだ(ナ形容詞)
副詞・・連用修飾語として働く。
(例)ゆっくりと・とても
判定詞・・名詞に接続して、述語を作る。
(例)だ・です
助動詞・・述語に接続して、複雑な述語を作る。
(例)らしい・ようだ・だろう
助詞・・名詞に接続して、主題や補足語を作ったり、名詞と名詞、節と節とを接続したりする。
(例)は・も・ね
指示詞・・現場や文脈における人やものを指し示す働きをする。
(例)これ・それ・あれ
連体詞・・連体修飾語として働く。
(例)この・ある
接続詞・・文と文とを接続する。
(例)しかし・でも
感動詞・・単独で文になることができる。
(例)ああ・まあ
〈学校文法の分類〉
1.自立語
a活用あり・・述語になれる(動詞・形容詞・形容動詞)
b活用なし・・主語になれる(名詞)・主語になれない(副詞・連体詞・接続詞・感動詞
2.付属語
a活用あり(助動詞)  b活用なし(助詞)

4.単文と複文
a単文・・単一の述語を中心として構成された文
(例)太郎が重いにもつを軽々と運んだ。
b複文・・複数の述語から構成された文
(例)太郎が重い荷物を軽々と運んだので、花子は驚いた。
複文は複数の節から構成される
主節と接続節(従属節と並列節)から構成される。
(例)太郎が重い荷物を軽々と運んだので(接続節・従属節)、花子は驚いた(主節)。
花子が詩を書き(接続節・並列節)、太郎が曲をつけた(主節)。

5.語の構造
a語・・には1つの要素だけからなるものと、複数の要素からなるものがある。
b活用語・・文中での働きの違いに応じて形を変える語
(例)「食べる」→食べろ・食べよう・食べれば
c派生語・・特定の語に別の要素が付加(接辞)してできる語のこと
(例)「寒い」→寒さ
d複合語・・複数の語が結合して一語となったもの
(例)「勉強机」←勉強+机

主な文芸思潮

 文芸思潮

写実主義・・勧善懲悪の否定
坪内逍遥二葉亭四迷
擬古典主義・・古典回帰・硯友社・「我楽多文庫」
尾崎紅葉幸田露伴
浪漫主義・・自我の確立・「文学界」
北村透谷・与謝野晶子
自然主義・・実証的・科学的・私小説へ・「早稲田文学
島崎藤村田山花袋
余裕派(高踏派)・・超然として独自の作家活動
夏目漱石(エゴイズムの追求から則天去私を目指す)
森鷗外(現実と関係のある倫理問題の追及)
耽美派・・耽美的・「三田文学」・「スバル」・悪魔主義
永井荷風谷崎潤一郎
白樺派・・理想主義・人道主義・「白樺」
有島武郎志賀直哉武者小路実篤
新思潮派(理知主義)・・理知派・「新思潮」
菊池寛芥川龍之介久米正雄
プロレタリア文学・・マルクス主義・「種蒔く人」・「文芸戦線」・「戦旗」
小林多喜二葉山嘉樹・徳永直
新感覚派・・反プロレタリア・「文芸時代
横光利一川端康成
新興芸術派・・反プロレタリア・「新潮」
堀辰雄井伏鱒二梶井基次郎