三夕(さんせき)の歌

「三夕の歌」
 『新古今和歌集』に、「三夕(さんせき)の歌」と呼ばれている末尾が「秋の夕暮れ」の体言で終わる歌があります。秋は「実りの秋」「収穫の秋」で「豊作」の意味もありますが、冬に向かうので「人生の悲哀の時節」や「はかなさ」などの「哀愁」の漂う時期でもあります。それまでの秋の美意識は「紅葉」でしたが、これらは「わびしい風景」を描いています。では、「三夕の歌」を紹介します。

○寂しさはその色としもなかりけり真木立つ山の秋の夕暮れ(寂蓮法師
(口語訳)寂しさには、特に「寂しさ色」というものはないなあ。針葉樹がぽつんと一本立っている、この秋の夕暮れよ。
○心なき身にもあはれは知られけり鴫立つ沢の秋の夕暮れ(西行法師)
(口語訳)物の情趣を感じる心のないこの出家者の身も、あわれが自然と感じられることだなあ。鴫が一羽沢に立ってじっとしている、この秋の夕暮れよ。
○見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮れ(藤原定家
(口語訳)まわりを見ても、美しい花も鮮やかな紅葉もないことだなあ。粗末な小屋だけが立っている秋の夕暮れよ。