読書日記−『古代和歌の世界』

 日本文学者が外国で和歌を講じたものとして、鈴木日出男(1999)『古代和歌の世界』(ちくま新書)があります。この本の草稿は「あとがき」によると、ジュネーブ大学で客員教授として赴いたときに講義の一つとして「和歌について」を担当したときのものであることが述べられています。また、対象としては日本学科の学生だけでなく、日本学科以外の学生も聴講できるように、二宮正之教授のフランス語の翻訳付きで講義が進められたことが述べられています。目次は以下の通りです。本は目次から読むのが鉄則です。本屋で中身からめくる方をみかけますが、本の読み方の基本を教わっていないのでしょうか?

序章 古代和歌のあらまし
一和歌のはじまり・二『万葉集』の時代・三『万葉集』から『古今集』へ・四歌集の構成と部立・五八代集の時代
第一章 場の共同性
一通達と和歌・二独詠歌・三贈答歌の方式・四歌垣と贈答歌・五贈答歌の方式(続)・六唱歌
第二章 類歌−言葉の共同性(1)
一類同の言葉・二類歌(1)・三集団と個・四類歌(2)・五共同の言葉としての類似性
第三章 枕詞・序詞
一枕詞とは・二『万葉集』の枕詞・三序詞とは・四人麻呂の枕詞と序詞・五『古今集』の枕詞・序詞
第四章 『万葉集』の世界
一歌謡と和歌・二作歌方法の多様化・三歌風の個性化・四歌風の個性化(続)
第五章 歌言葉−言葉の共同性(2)
一歌言葉とは・二春の景物・三秋の景物・四恋の景物・五歌枕・六歌言葉の規範性
第六章 掛詞・見立て
一掛詞とは・二縁語掛詞仕立て・三見立てとは・四擬人法
第七章 『古今集』の世界
一事実の再構成・二観念的表現・三時の流れ・四『万葉』の歌の感動・五紀貫之の歌
第八章 女歌の表現性
一『和泉式部日記』の女歌・二『万葉集』時代の女歌・三王朝の女歌・四男の女歌
第九章 物語の和歌
一『竹取物語』に即して・二『伊勢物語』の和歌・三『源氏物語』の和歌
第十章 『新古今集』への道
一和歌史の転換期・二「余情」の歌・三『新古今集』の表現・四『新古今集』の表現(続)
終章 古典詩歌の共同性
一共同の歌・二歌合せ・三題詠・定数和歌・四連歌・五俳諧・六自然の表現の様式
あとがき

 内容的には、鈴木日出男氏の専門が日本古代文学研究(物語と和歌の業績が有名)であることを反映して、和歌の修辞技巧などだけにとどまらず、上代から中世初期までの和歌および物語での和歌を中心に物語の和歌を講じたことがわかります。たいへん、重厚な内容で、日本人が読んでもうなずくことが多い内容です。以前、この本に触発されて「方法論としての和歌解釈」(『解釈』)という論文を書いたことがあります。思い出に残る一冊です。