国語教育での和歌の取り扱い

今回は、国語教育では「和歌」はどのように取り扱われているのかを論文調でまとめてみました。

「国語教育での和歌の取り扱い」

中学生向けの国語便覧ではどのように扱っているかを見てみることとする。『東京都版・国語便覧』(浜島書店・2001)では、次のように「和歌」と「短歌」とを分けて記述している。

「和歌の知識」
○和歌のリズム
句切れ
○和歌の表現技巧
枕詞・序詞・掛詞・縁語・体言止め・本歌取り
○歌枕
○和歌で注意する語句
やも・かも・けり・らむ
「近代短歌の知識」
○短歌のリズム
句切れ
○短歌の表現技巧
比喩・倒置法・体言止め・押韻・字余り・枕詞
○短歌鑑賞の手引き
感動の中心をつかむ・感動を表す語には「けり」「なり」「かな」「かも」などがある・声に出してよむ

中学校の国語教科書、加藤周一木下順二ほか(2006)『伝え合う中学国語』(教育出版)では、第二学年に「短歌」、第三学年に「和歌」が掲載されている。それぞれ、どのような和歌・短歌が採用されているかを示すと、次のようになる。

『伝え合う中学国語2』教育出版
○短歌とは
○句切れ
斎藤茂吉石川啄木若山牧水与謝野晶子

『伝え合う中学国語3』教育出版
○『万葉集
持統天皇額田王大伴家持山上憶良
東歌・防人の歌・長歌反歌
○『古今和歌集
紀貫之藤原敏行小野小町
○『新古今和歌集
西行法師・藤原定家式子内親王
○和歌の句切れとリズム

短歌と和歌とを区別しており、短歌に掲載されている歌人は、日本語教育のテキスト、姫野昌子・伊藤祐郎(2006)『日本語基礎B−コミュニケーションと異文化理解』(放送大学教育振興会)にも掲載されている。

次に高等学校の国語教育向けに書かれた、佐伯梅友(1988)『古文読解のための文法・下』(三省堂)の第一章に和歌の記述があるので、その目次をみてみる。この本は学校文法をもととして古文の読解に必要な文法的事項を述べたものである。

第一章 かけことば・縁語など
一 かけことば
二 かけことばで圧縮する言い方
三 物名
四 縁語
五 枕詞・序詞

このように掛詞を中心に縁語を説明し、枕詞と序詞の説明の扱いを少なくしている。このことは、高等学校での和歌では修辞技巧としては掛詞と縁語を主に学ばせたいということを意味すると考えられる。

次に高等学校の国語の文法書として編纂された中村幸弘(1993)『生徒のための古典読解文法』(右文書院)では、その第八章に和歌の説明があり、次のようにその目次は次のようになる。

第八章
一 枕詞
二 序詞
三 掛詞
四 縁語

この本の指導資料にあたる、中村幸弘(1993)『先生のための古典読解文法』(右文書院)では高等学校の現場の教員の声を反映したQ&A方式が採用され、
Q98(枕詞・序詞・掛詞)
Q99(掛詞の掛け方)
Q100(掛詞の例)
となっている。この場合、掛詞の指導を中心とした説明が高等学校で行われていることがわかる。

高等学校向けに書かれた、加藤道理ほか(1999)『常用国語便覧』(浜島書店)では、「古典文学編」の箇所で「和歌の修辞技巧一覧」があり、次のように三つに分類して書かれている。なお、「近代文学編」には修辞技巧は記されていない。

「和歌の修辞技巧一覧」
○韻律的な形式・調べ
句切れ
○連想に関するもの
枕詞・序詞・掛詞・縁語・本歌取り・折り句・歌枕・体言止め
○余情・余韻
体言止め

国語教育の和歌の取り扱いで気づくのは、序詞の説明が軽く扱われていることである。このことは、序詞は一回性が強いため、指導しにくいことを反映しているのであろうか。あまり重要性を見出していないのであろうか。