書き言葉の条件

Ⅰ書きことばの条件
a.書き手と読み手が物理的に同じ場面にいないこと。
b.書き手と読み手がその場で対面していないこと(または対面している意識が薄いこと)。
c.書き手は書く内容をあらかじめ吟味することができ、聞き手を意識しつつも、書き手の一存で文章展開が決定されること。
d.文字は保存ができ、読み手は文章を繰り返し読むことができること。

Ⅱ書きことばの特徴
1表記や句読法、記号(括弧や引用符、「−」「・・」「!」など)が伝達上大きな役割を果たす。ひらがな、カタカナ、漢字表記の別がニュアンスの違いを生み出すことがある。
(例)先生・センセイ
2書き手と読み手が伝達場面を共有しないため、言語以外の要素への依存度はかなり低い。書き手は言葉だけで意図が十分に伝わるように配慮する。
3日常的になじみがない、文章特有の語彙が用いられる。(例)小生
4音では区別することの困難な同音異義語も用いられる。(例)私立・市立 創造・想像
5特別な意図のない限り、語彙は標準語を用いることが多い。
6語彙は縮約されず、正規の形が用いられる。俗語も少ない。
7感動詞、間投助詞、終助詞はほとんどない。
8複雑な文構造も許容される。話しことば(会話文)にくらべ、一文が長い。
9省略や倒置表現など、文法的に不整合な文は避けられる。
10待遇表現は少なく、中立的な表現が多い。例えば、聞き手を意識した「です・ます」体はあまり用いられず、「だ・である」体が主流である。
11手紙文のように相手に語り掛ける調子の文章では、文体が話しことば的になるが、話しことばより少し改まった言葉遣いになりやすい。(口頭ではくだけた言葉遣いをする友人にたいして「です・ます」体で文章を書くなど)
12談話展開が論理的で、不必要な反復や言い換えは避けられる。

Ⅲ書きことばと話しことばの差異の原因

1話し言葉は現場会話時に使われるため、相手にすぐ返事するのを要求されている。そのため、文
の長さは比較的短く、自分の頭にある有限的な語彙だけが使われる。しかし、書き言葉には、書き手に自由な時間があり、辞書なども参考できる。そして、考えを重ねたり、繰り返して推敲したりすることができる。書き言葉は比較的に永久的で、客観的で、厳密的で、照合することとか弁駁することなどに関して、都合がよい。
2話し言葉は、常に、人と人が面と向かって交流するため、外部環境に左右されやすい。例えば、聞き手は話し手のアクセントや手まねや表情などから相手の意味がもっとよく分かれます。そのため、感慨語、男性語、女性語などの言葉が多く使われ、文も短く、倒置、中断などの表現が多
くある。そして、相手は前にいるために、直接、断ることなどは遠慮されるので、曖昧な表現が好まれる。それに対して、書き言葉は外部条件に左右されにくい。
3話し言葉は世代につれて著しく発展する。特に若い世代は文法の規範性などに興味がないため、
「ら抜きことば」「れ足すことば」「さ入れことば」「マニュアルことば」などが使用される。また、新しい単語もよく作られる。それに対して、書き言葉は保守的で、時代に応じて変化する話し言葉と同じではない。

谷崎潤一郎文章読本』(中央公論社
思うに、我が国の或る時代において、久しい間「口で話される言葉」と「文章に書かれる言葉」とが截然と分かれておりましたのは、ただ今申す「薄紙一と重を隔てる」心持が働いていたでありましょう。即ち口語は現実の一種であり、しかもとかく饒舌に陥りやすいのでありますから、文章語の品位を保つために、その間に相当の距離を設けたのでありましょう。

Ⅳ言文一致の条件
1話しことばの語法(口語文法)
2文語文の冗漫性の払拭と文意識の確立
3場面に応じた語法の確立

Ⅴアナウンサーのスピードの変化
現在のアナウンサーのスピードは、はやくなっています。かつての高橋圭三宮田輝などの時代よりも、はるかにスピード感あふれるものとなり、多くの情報を入れることに成功しています。そのさきがけとなったのが、森本毅郎久米宏の世代です。特に、森本毅郎はNHKの朝のメインキャスターで、あのスピード感で読み上げたので、日本中が驚き、アナウンサーのスピードと情報量とを一気に増やしました。
1974年 NHK「NC9」磯村尚徳・・337文字
1980年 NHK「ニュースワイド」森本毅郎・・510文字
1990年 NHK「ニュース」松平定知・・489文字
1992年 NHK「ニュース」草野満代・・495文字
1992年 テレビ朝日ニュースステーション久米宏・・767文字
1999年 NHK「おはよう日本三宅民夫・・541文字
1999年 NHK「ニュース7」森田美由紀・・466文字
NHK「ラジオ深夜便」・・300〜350文字
ゆっくりだなぁと感じる・・450文字以下
普通だと感じる・・500〜600文字、
早いと感じるのが・・650文字以上
文字を読むスピード、映画の字幕・・1秒当たり3〜4文字で、1分間に180〜240文字を表示。