読解過程の三つのモデル

読解過程には、三つのモデルがある。それは、「ボトムアップモデル」「トップダウンモデル」「相互交流モデル」である。それらには、書かれた文字その他に対峙する個人の存在を前提として、この個人の中で進行する過程と捉える考え方が共通している。
ボトムアップモデル
ボトムアップモデルは、伝統的な読解活動が依拠してきた読解のモデルである。このモデルでは、読解の過程は、書かれた文字を一つ一つ追いながら、文字から単語、単語か句、句から文、文から段落へと読解を進め、最終的に書き手が言おうとした意味を正しく再生していく過程として把握される。目に見える具体的なもの(印刷された文字)から、目に見えない抽象的な意味(書き手の意図)に至る一方向性の線状的なモデルである。
トップダウンモデル
トップダウンモデルは、グッドマンが読解を心理学的な推測ゲームと主張したことから始まる。トップダウンモデルは、読解は読み手が持っている様々な知識(言語や世の中一般についての知識)に依拠した予測から始まって、その予測をテキストに照らして確認する過程であると、考える。このモデルでは、読み手の頭の中にある予測、推測という抽象的なものからテキストに下りて行くものである。
トップダウンモデルの展開と合わせて、スキーマ理論と読解ストラテジーの研究が盛んになってきた。読み手は、言語についての知識に加えて、それまでの経験や学習の結果、獲得した背景知識などで予測を立てる。その背景知識は、図式化され構造化された知識の枠組みという形で存在し、この知識の構造化された枠組みをスキーマという。トップダウンは、このスキーマに沿って読解が行われることになる。特に行間などはスキーマを利用して読解することになる。

スキーマは社会的、文化的なものであり、人はある社会の中で社会化し、文化的自己同一性を獲得していく中で、この社会的・文化的に認められたスキーマを学習し、自分のものにしていく。しかし、第一言語の読解と第二言語の読解とでは、本質的に異なる問題、つまり、読み手が持つスキーマと書き手が持つスキーマとの間にある違いやズレによる問題が起こる可能性がある。そこで、読解ストラテジーの重要性が指摘されるようになった。
読解ストラテジーとしては、「スキミング」「スキャニング」「推論」「文脈的推測」「予測」「スキーマの活性化」などがあげられる。学習ストラレジーは、認知ストラテジー(直接的に読解に関わるストラテジー)とメタ認知ストラテジー(どの読み方をするのが自分の目的に合致しているかを判断し、同時に認知ストラテジーが特定の場面で効果的かどうかをモニターしたり、その結果を評価したりするストラテジー)に分けられる。
○相互交流モデル
相互交流モデルは、いくつかのものがある。それらに共通するのは、テキストに書かれた文章と読み手の認知的活動が同時に相互に交流し合うことによって読解の過程が構成されるという捉え方である。トップダウンボトムアップかの一方向で考えずに、その両者の相互交流による過程と考える点が特徴的である。
読解は「書かれた文字、統語、文章、語彙についての知識」「ストラテジー(認知及びメタ認知)」「読む目的(特に社会的観点からの目的)」の三つがそれぞれが相互に関連しあう形で進められるものであり、そして、それぞれに読み手がどのぐらい第一言語で教育を受け、あるいは読みに関する技能に熟達しているかが影響を及ぼしているととらえることができる。