文章読本と言文一致

?書きことばと話しことばの差異の原因

1即時性
話し言葉は現場の会話時に使用されるため、相手にすぐ返事する即時性が要求される。そのため、文の長さは比較的短く、自分の頭にある語彙が使われる。しかし、書き言葉には即時性が要求されていないため、辞書などもしながら、考えを深めたり、推敲したりすることができる。書き言葉は比較的に永続性・客観性を持つ。
2対人性
話し言葉は、対人性が強いため、外部環境に左右されやすい。そのため、感慨語、男性語、女性語などの言葉が多く使われ、文も短く、倒置、中断などの表現が多く使用される。そして、相手と対面しているために、直接的な表現などは遠慮されるため、婉曲的な表現が好まれる。それに対して、書き言葉は外部条件に左右されにくい。
3規範性
話し言葉に個人差がある。たとえば、若い世代は文法の規範性などに頓着しないことが多く、「ら抜きことば」「れ足すことば」「さ入れことば」「マニュアルことば」などが使用される。また、新しい単語もよく作られる。それに対して、書き言葉は保守的である。
4音声情報
話し言葉では、聞き手は話し手のアクセント、声の大きさ、スピード、ジェスチャーや表情などから相手の意味を知ることが可能である。

※作家・文学者の『文章読本』での文語と口語の言文一致運動についての意見
谷崎潤一郎
思うに、我が国の或る時代において、久しい間「口で話される言葉」と「文章に書かれる言葉」とが截然と分かれておりましたのは、ただ今申す「薄紙一と重を隔てる」心持が働いていたでありましょう。即ち口語は現実の一種であり、しかもとかく饒舌に陥りやすいのでありますから、文章語の品位を保つために、その間に相当の距離を設けたのでありましょう。
三島由紀夫
口語文は言語の発達と変化にともなって、あまりにも文章が実用から離れ、文章を作るということと、実際の社会生活とのあいだに乖離が起こって来たことから、当然歴史的に生まれたものということもできましょう。一例が、われわれは昔のような着物だけの生活では、物質文明の潮流を乗り切れないので、みっともないと思いながらも、洋服に着替えて靴をはき、社会生活のテンポにあわせて行かなければならなかったように、文章もまた激しい時代や社会の変化の即応して「なになになんめり」というような文章が、チョンマゲのように滑稽に見えてきたこととも関係があります。風俗は滑稽に見えたときおしまいであり、美は珍奇からはじまって滑稽で終わる。つまり新鮮な美学の発展期には、人々はグロテスクな不快な印象を与えられますが、それが次第に一般化するにしたがって、平均的美の標準と見られ、古くなるにしたがって古ぼけた滑稽なものと見られていきます。
中村真一郎
ひとつの文明の初期の段階では、多分、人は「話す言葉」と「書く言葉」とのあいだに、あまり大きな区別はしなかったでしょう。ところが、その社会が発達するにつれて、「書く言葉」の方は、次第に精練され、巧緻になり、合理的にも美的にもなって行って固定し、一方、「話す言葉」の方は、絶えず社会の変動に伴って変化して行きます。明治維新の頃は、文章語、文語は、一般に漢文−これは極東諸国の文明的共通語でした−の影響を受けた、格調高いものに完成し、一方、市民の話し言葉は、かなり柔軟な、ニュアンスに富んだ、感覚的なものに進化していました。そうして、この文語と口語との差異は、いちじるしく開いてしまっていました。・・〈中略〉・・江戸の後期では、文語と口語では、このように開きが大きくなり、同じ時代のものでありながら、拙堂文を口語に直したり、三馬のものを文語にするということは、もう不可能になっています。これほど極端な開きがでてくると、人々はもう一度、文語を口語に近づけようと考えるようになります。今日、私たちが日常に書いている文章、また新聞記事など、皆、この明治以来の口語文なのです。


?言文一致の条件
1話しことばの語法(口語文法)
2文語文の冗漫性の払拭と文意識の確立
3場面に応じた語法の確立

?アナウンサーのスピードの変化
現在のアナウンサーのスピードは、はやくなっています。かつての高橋圭三宮田輝などの時代よりも、はるかにスピード感あふれるものとなり、多くの情報を入れることに成功しています。そのさきがけとなったのが、森本毅郎久米宏の世代です。特に、森本毅郎はNHKの朝のメインキャスターで、あのスピード感で読み上げたので、日本中が驚き、アナウンサーのスピードと情報量とを一気に増やしました。
1974年 NHK「NC9」磯村尚徳・・337文字
1980年 NHK「ニュースワイド」森本毅郎・・510文字
1990年 NHK「ニュース」松平定知・・489文字
1992年 NHK「ニュース」草野満代・・495文字
1992年 テレビ朝日ニュースステーション久米宏・・767文字
1999年 NHK「おはよう日本三宅民夫・・541文字
1999年 NHK「ニュース7」森田美由紀・・466文字
NHK「ラジオ深夜便」・・300〜350文字
ゆっくりだなぁと感じる・・450文字以下
普通だと感じる・・500〜600文字、
早いと感じるのが・・650文字以上
文字を読むスピード、映画の字幕・・1秒当たり3〜4文字で、1分間に180〜240文字を表示。