百人一首の口語訳(鈴木日出男版)の口語訳1-10


秋の田のほとりに作った仮小屋の、その苫の網み目があらいので、私の袖は露にしっとりとぬれぬれてゆくばかりである。

春がすぎて夏がきてしまったらしい。夏になるとまっ白な衣をほすという天の香具山なのだから。

山鳥の尾のその垂れさがった尾の長々しいように、秋の長々しい夜を、たったひとりで寝ることになるのだろうか。

田子の浦に出てみると、まっ白な富士の高嶺に雪はいまもしきりに降っていることよ。

奥山で紅葉をふみしだき妻を求めて鳴く鹿の声を聞くときこそ、ひとしお秋は悲しいものと感じられる。

かささぎが翼を広げて天の川にかけているという橋、つまり宮中の御階(みはし)に、今おりている霜の白いのをみると、夜ももうふけてしまったのだった。

大空をはるかにふり仰ぐと、いま見るこの月は、かつて春日の三笠山に出た、あの月にほかならぬのだ。

私の庵は都の東南、このように心のどかに住んでいる。だのに、この世を憂しとして逃れ住んでいる氏山だと、人々は言っているようだ。

私の花はすっかり色あせてしまった。むなしく春の長雨が降り続いていた間に。そしてむなしく私が生きていることの物思いをしていた間に。
一〇
これがあの、出て行く人も都に帰る人も、ここで別れては、そして知っている人も知らない人も逢うという、その名も逢坂の関である。