百人一首の口語訳11-20

一一
海原はるかに、数えきれない島々めがけて舟を漕ぎ出してしまったと、人には告げてくれ。海人の釣舟よ。
一二
空吹く風よ、雲の中の通い路を吹きとざしてくれ。天女たちの舞姿をせめてもうしばらくここにとどめておこうと思う。
一三
筑波山の峰から流れ落ちる男女川の水量がどんどん増えるように、私の恋の気持ちもますます高まって、深い淵となってしまった。
一四
陸奥のしのぶもじずりの乱れ模様のように、私の心は乱れているが、誰のせいで乱れはじめたのか。私のせいではないのに。
一五
あなたのために、春の野に出て若菜を摘んでいる私の袖に、雪がちらちら降りかかってくる。
一六
人々と別れて因幡の国に去ったとしても、その国の稲羽山の峰に生えている松ではないが、人々が私を待っていてくれると聞いたならば、すぐにも帰ってくるとしよう。
一七
不思議なことのあったあの神代にも聞いたことがない。龍田川が唐くれない色に水をくくり染めにするとは。
一八
住の江の岸による波ではないが、夜にでも夢の中の通い路を通って逢いに行かないのだから、自分は夢のなかでも人目をさけているのだろうか。
一九
難波潟の芦の、あの短い節と節の間のような、ほんのわずかの間も逢わずに、この世を終えてしまえと、あの人は言うのか。
二〇
ここまで悩み苦しんでしまったのだから、今となってはもう同じことだ。難波にある澪標ではないが、身をつくしても逢おうと思う。