百人一首の口語訳56-60

五六
まもなく私は死んでこの世を去るであろうが、せめてあの世への思い出に、もう一度だけ逢いたいものである。
五七
久方ぶりにめぐりあって、その人かどうか見分けがつかないうちに、雲間に隠れてしまった夜半の月のように、あおの人はそそくさと姿を隠してしまった。
五八
有馬山に近い猪名の笹原に風が吹くと、笹の葉がそよそよと鳴る。さあそれよそれよ、忘れたのはあなた、私はどうして忘れたりしよう。
五九
来ないことをはじめから知っていたら、ためらわず寝てしまっただろうに、今か今かと待つうちに夜がふけて、西に傾くまでの月を見たことだ。
六〇
母のいる丹後国までは、大江山を越え、生野を通って行く道が遠いので、まだ天の橋立の地を踏んだこともないし、母からの文も見ていない。