『万葉集』の書名の読み方の諸説

 こんばんは。この3年ほど、カルチャー講座で『万葉集』を扱っています。日本最古の和歌集で、約4500首あります。この『万葉集』は、「マンヨウシュウ」と今では読んでいますが、かつては「マンニョウシュウ」でした。つまり、室町時代以降の連声という読み癖で読んでいたのです。それを、戦後、佐々木信綱という学者(孫が俵万智の師である佐々木幸綱氏です)が、「マンヨウシュウ」と読むことを提唱し、教科書には「マンヨウシュウ」が採用されています。しかし、今でも比較的高齢の大学の教授は、みな「マンヨウシュウ」と読むのは素人だとして、「マンニョウシュウ」と読むことを推奨しています。『万葉集』の読み方の変遷をまとめると、次のようになります。

一、A マニエフシフ(奈良から平安初期)
  B マンエフシフ(奈良から平安初期)
二、マンエフシウ(平安から鎌倉)
三、A マンヨウシュウ(室町以降・現在の通行の訓み)
  B マンニョウシュウ(室町以降・連声の作用)

他に、読み方で思い出されるのは、『節用集』、『源平盛衰記』、『八雲御抄』があります。室町時代の古辞書である『節用集』は、伝統的にはこれも室町時代の連声の読み方で「セッチョウシュウ」と読んでいたのですが、最近は「セツヨウシュウ」という読み方が多くなってきました。また、『平家物語』の異本とされる軍記物語の『源平盛衰記』は、かつては「ゲンペイジョウスイキ」と読まれていました。それが最近は、教科書などでは「ゲンペイセイスイキ」と読まれるようになりました。また、順徳院の書いた歌論書の『八雲御抄』は、「ヤグモミショウ」であったようですが、最近では「ヤクモミショウ」と読まれるようになりました。伝統的な読み方よりも、わかりやすい読み方が教科書では好まれるようです。しかし、本来的な伝統的な読み方というものも、知った上で、読んでおきたいものです。