受身文の主語と旧主語ニ格の例

1.「有情−なし」の例
○山菅の実成らぬことをわれに依せ言はれし君は誰とか宿らむ(萬葉集・巻4・564)
○さ言はるる人をも、喜ばせたまふもをかし。(枕草子・137段)
○御子どもは、いづれともなく、人がらめやすく、世に用ゐられて、心地よげに物したまひしを。(源氏物語・賢木)
○法師はあまた所くはれながら事故なかりけり。(徒然草218段)
2.「有情−有情」の例
○汝が母に嘖られ吾が行く青雲のいで来吾妹子逢ひ見て行かむ(萬葉集・巻14・3519)
○人にも語りつがせ、ほめられむと思ふ人のしわざにや。(枕草子・292段)
○(入道ハ)弟子どもにあはめられて、月夜に出でて、行道するものは、遣水に倒れ入りにけり。(源氏物語・明石)
○かく人に恥ぢらるる女、如何ばかりいみじきものぞと思ふに、女の性は皆ひがあり。(徒然草・107段)
3.「有情−非情」の例
○わが思ひかくてあらずは玉にもが眞も妹が手に(私ハ)巻かれむを(萬葉集・巻4・734)
○(頭の弁ハ)夜を通して、昔物語も聞こえあかさむとせしを、にはとりの声に催されてなむ。(枕草子・292段)
○(源氏ハ)たまたま朝廷に数まへられたてまつりては、・・。(源氏物語朝顔
○くちばみに蟄されたる人、かの草を揉みて付けぬれば、則ち癒ゆとなむ。(徒然草・96段)
4.「非情−有情」の例*
○白珠は人に知らえず知らずともよし知らずともわれし知れらば知らずともよし(萬葉集・巻6・1018)
○ことに人に知られぬもの凶会日。(枕草子・261段)
○何事も、人にもどき扱はれぬ際はやすげなり。(源氏物語・賢木)
○すべて、人に愛楽せられずして、衆にまじはるは恥なり。(徒然草・134段)
5.「非情−非情」の例
○沫雪に降らえで咲ける梅の花君がり遣らばよそへてむかも(萬葉集・巻8・1641)
○髪は風に吹きまよはされてすこしうちふくだみたるが、肩にかかれるほど、まことにめでたし。(枕草子・200段)
○うち解けたりし宵の側目はいとわろかりしかたち様なれど、もてなしに隠されて、口惜しうはあらざりかし。(源氏物語・末摘花)
○夜寒の風に誘はれくるそらだきものの匂ひも、身にしむ心地す。(徒然草・44段)
6.「非情−なし」の例
○・・偲ひけらしき百世経て偲はえゆかむ清き白濱(萬葉集・巻6・1065)
○唐絵の屏風の黒み、おもてそこなはれたる。(枕草子・163段)
○この際に立てたる屏風も、端の方おしたたまれたるに、・・。(源氏物語・空蝉)
○いにしへのひじりの御代の政をも忘れ、民の愁、国のそこなはるるをも知らず。(徒然草・2段)