国語の基礎を養う漢文

国語の基礎力を培う漢文
漢文の書き下し文は、日本語の古文になります。初めは中国語で読んでいたのでしょうが、遣唐使の廃止などもあり、日本語として読むことが要求された結果、編み出されたものです(なお、誰が最初に訓読を始めたかははっきりとしていません)。したがって、日本語の古文の文法に則っているのかを確認することが必要なのです。そうすることで、古文の文法が漢文にも生かされることになります。漢文で使う古文文法のほうが、はるかに種類が少ないのです。なぜなら、もともとは古文文法通り訓んできたのですが、漢文では、近世(江戸時代)のころから、できるだけ簡潔に訓むようになりました。その結果として、すっきりとした必要最小限の古文文法の知識でよむこととなったわけです。初期の平安・鎌倉時代には、ヲコト点という赤い印をつけて、暗号のように読んだりしていましたが、次第にレ点、一・二点といった符号や送り仮名で示すようになりました。江戸時代には、その漢詩文のレベルも、中国語はできないのに、中国と同水準か、それ以上のレベルにまで達しました。これは、すごいことです。頼山陽の書いた『日本外史』といった歴史書漢詩文を見ると、その水準の高さに驚かされます。寺子屋では『論語』の素読を行い、『十八史略』『唐詩選』といったものが読まれました。知識人としての条件は、漢文ができることだったのです。そして、精神的教養としては、禅が根底にありました。
そして、日本の幕末から明治期にかけて、英語をはじめ、大量に西洋の欧米の言葉が入ってきました。それらのことばをうまく咀嚼して、受容した背景には、実は漢文の力があるのです。国語力を養成してきただけではありません。翻訳語を作り出すときも、漢語を多用しました。それに加えて、英語の構造が漢文に似ていたので、比較的容易に受容できたのです。たとえば、主語、述語、目的語の語順や、再読文字のように、「because」は「なぜなら―だからである」、「if」は「もし―なら」と口語訳するのがそのよい例です。漢文の構造は、完全ではありませんが英語とかなり似ているので、英語をイメージするとよいでしょう。実際、中国人も英語をマスターするのがはやいのは、英語と構造が似ているからであるといわれているほどです。漢文(古典中国語)の種類としては、の随筆(評論)・物語、仏教漢文、漢詩、現代中国語、変体漢文、日本漢詩文、中国文学史などがあります。漢文と漢詩が中核なので、その二つを学習することとなるでしょう。