言語教授法について思うこと
1.直接法・文法翻訳法
文法翻訳法は、ギリシャ語教育・ラテン語教育から始まった伝統的な語学教育であり、中学・高校ではこの方式で英語を教わったため、すんなりと理解できた。しかし、この教授法は教養を高めるが、この教授法は、勉強に慣れた人に向くものであり、口語に関しては自然な感じではできないのではないだろうか。この教授法はよく言えば伝統的であるが、科学的ではないかもしれないと思った。科学的、効率的な教授法と学習者の状況に合わせた教授法が重要であると感じた。
直接法は、聴覚を重視したもので、会話力が身に付くが、その一方で学習者の個人差による心理的不安や、読み書き能力が身に付くのかという不安が残る。
2.オーディオリンガル法
オーディオリンガル法は、構造主義言語学と行動主義心理学に支えられたものであるため、パターンプラクティスなどを用いる点では、文法翻訳法を支える理論と大きな差異はないという印象を受けた。私の大学生のころの英会話の講座はこの方式であり、会話のパターンと文法を暗記するというテストが毎時間あった。文法・文型の積み上げ優先で、文化などにはあまり配慮しない形式であり、大人向けであると思う。
3.全身反応法
全身反応法は、聞いて動くことで全身を活性化させる方法として、五感を総動員して脳を刺激するという意味では、たいへん有効な方法で記憶しやすいと思う。ただし、文法の導入が遅れてしまい、高度な内容は扱えない。体を動かすことが苦手な、性格的に引きこもりがちなタイプには適さないと思った。
4.TPR
TPRは、言語と動作を結びつけ、聞いて真似するだけなので、全身反応法よりも心理的ストレスが少ない印象を受けた。導入として、すぐに会話できるようにするにはよい方法だと思った。聴いて真似しているうちに身についてしまうという、人間の力を引き出す方法であり、幼児の言語習得に根差したものであり、導入には最適であると思った。
5.サイレントウェイ
サイレントウェイは、沈黙式教授法であり、授業の中心は学習者であり、教師は沈黙し、学習者の自立を助ける観察者、補助者の立場をとるものであるが、授業としては初級向けである。受講生は頭を回転させるにはよいが、はたして授業の在り方としてはよいのだろうか、という疑問を持った。学習者の気づきを与えるという意味ではよいと思うが、やはり、人間はことばで伝えるものであり、教師は指導する側であるため、だまっているのは、特殊なやり方であり、逆に教師も疲れ、学習者もとまどうのではないか、など疑問だらけの印象を受けた。文法、読解、ライティングを軽視することになり、バランスが悪い特殊な教授法だと思った。
6.サジェストペディア・CLL
サジェストペディアは、学習者を緊張から開放してリラックスした心理状態にし、潜在意識に働きかけるという。暗示などの心理学や音楽によって脳波はよくなるため、心身の健康としても学習としても、それなりに効果はあがると思う。音楽療法によく似ているという印象と、教師養成としては、かなり特殊な訓練を行わないとできないために、教師の養成の面でのハードルが高いため、普及は難しいと思った。声の質も、おそらく「ゆらぎ」など注意が必要であるから、教師に求められるものが多すぎ、特殊なものだと思う。
CLLは、カウンセリング理論と技術を外国語教育に応用させたもので、教師は助言者としてカウンセラーであり、学習者はクライアントとする。学習者は話したいことを自由に話すことができ、録音したり再生したりする。教師の負担が大きく、文章力が弱くなる可能性はあるが、自主的な学習になる点で、たいへん有効であると思う。
7.ホールランゲージ・年少者教授法
ホールランゲージは、学習者の負担もたいへん少なく、幼児向きの年少者教授法としては、最適だという印象を感じた。学習者の負担が少なく、失敗とみなさないのもよいと思った。ただし、新聞、チラシ、物語などからの、教師の教材作りの負担の問題が大きいため、授業準備などが課題だと思った。
年少者教授法では、母語保持教育の必要性を感じた。やはり、母語を保持しておかないと、思考・判断を行う認知能力に難点が残ってしまうと思う。
8.多重知能
多重知能は、MI理論に基づくもので、「人間の知能は多面的である」「知能の強さや組み合わせは異なる」「訓練で知能は向上する」「脱文脈化した学習に熟達した人だけが能力を発揮する」ということばが印象的であった。学びの個別性を目指したもので、個性を生かすという意味では、個人主義ということばについても考えさせられた。
9.コンピテンシー
コンピテンシーは、システム的に段階を追って練られたものであり、積み上げるのには最適だと思った。目標設定が明確であり、動機づけとして十分であると思った。またモジュール形式のため、欠かさず出席することが重要だと思う。詰め込み的な印象はあるが、ビジネス関連の企業の研修には、たいへん効果的であると感じた。
10.コミュニカティブアプローチ
コミュニカティブアプローチは、それまでの文法知識の習得を前提としていたものと異なり、コミュニケーション能力の育成を目的とし、現在の教授法の流れに大きく影響している。この概念は、たいへん重要であると認識させられた。講座のテキストは、コミュニカティブアプローチの流れの教授法を紹介してあったので、よくできていると思った。文法の整理がなされず、読み書きに問題点は残るものの、その後の流れとして、教え方や教える内容は、個々の学習者の違いに応じたものであるべきだとする考え方は、学習者の現在の教授法の方向付けを行った点で重要な教授法であると思う。
11.ナチュラルアプローチ
ナチュラルアプローチは、すぐに活用できるコミュニケーション能力を目指したものであり、第二言語習得研究の成果を応用したものである。コミュニカティブアプローチと似ているという印象を持った。文法や読み書き能力が劣る可能性もあるとは思うが、コミュニカティブアプローチの発展という意味で、意義のあるものだと思う。
12.協同言語学習法
協同言語学習法は、相互作用や過程を学び、そして話し合うことで学習者同士の人間関係も構築できるという点で、たいへん興味深い方法であると感じた。共同作業が多いと人間関係の信頼度も高まるものである。教師はサポーターに徹するという点は、共感を覚えた。
13.内容重視の指導法
内容重視の指導法は、内容・情報中心のアプローチであり、教科にまたがった言語教授法であるため、たいへん実践的であると感じた。役に立つ人材育成にたいへんよいと思う。また、国語以外の教師も言語スキルを指導したほうがよいとする考え方に納得した。
14.タスク重視の言語教授法
タスク重視の言語教授法は、達成すべき課題であるタスクというものに興味を持つきっかけとなった。さっそく『タスク教授法』(凡人社)を購入した。コミュニカティブの理論的発展にあたり、興味を持った。
15.ポスト教授法時代
ポスト教授法時代は、教授法全体を概観してみたいという気持ちが強く、ぜひ担当したいと思うテーマであった。この教授法を担当してみて、参考文献や論文などを読み進めるうちに、教授法全体の大きな流れがみえてきた。そのため、さまざまな教授法の復習にもなり、その背景となる理論などについても勉強になった。全体的な流れの中でコミュジカティブの考え方をどのように発展させていくのか、という方向性でその切り口は異なるが、目標とするところは同じであることがわかった。特に、構造主義言語学・行動主義心理学の理論的な背景から、生成文法・認知文法への変遷が、教授法に大きな影響を与えていることは、たいへん興味深いと思った。