筆跡鑑定と筆跡心理学
筆跡鑑定と筆跡心理学
(筆跡鑑定)
イギリス生まれのドイツの生理学者、W・ブライヤーは、同一人物がペンを利き腕で持ったり、逆の手で持ったり、足の指に挟んだり、口にくわえたりして書いた文字を比べるという実験をしました。そうしたところ、それぞれの筆跡には同じ特徴が見られるということを発見しました。同様に筆速度が変わっても、同じ特徴が見られます。つまり、文字を書くという動作は、手や足や口が独自の動きをしているわけではなく、脳による神経的な刺激が働いているのだと実験で突き止め、「筆跡は脳跡だ(Brain Writing)」としたのです。脳(気質)が描いた形が、そのまま筆跡として表れているということを証明したのです。このような方針で、現在の筆跡鑑定は行われています。
(筆跡心理学)
「書は人なり」と言われます。文字には人の性格や深層心理が反映されます。フロイトによると、「無意識の世界が人間の何気ない行動や文字をコントロールしている」ということができます。性格(パーソナリティ)は変えることができるのでしょうか。意見の分かれるところでしょうが、先天性と後天性とに分けて考えると、先天性は基本気質であり変えることはできませんが、後天性は環境や職業などによって形成されるので変えることができます。心理学者のウィリアム・ジェームスは、行動と心・性格との関係を密接なものと位置づけました。行動が感情をコントロールできるというわけです。例えば、「悲しいから泣く」のも真実ですが、「泣くから悲しい」というのも真実なのです。行動の中に「文字を書く」という動作も含んでいます。つまり、「性格が文字に表れる」のも真実ですが、「文字が性格をつくる」のも真実なのです。しかし、具体的にどのような文字がどのような性格かは、あまり日本では盛んではありませんでした。ヨーロッパでは、筆跡心理学(グラフォロジー)は100年以上の歴史があり、大学に講座もあるほど盛んに研究され、フランスでは国家資格になっているのと対照的です。書道家も科学的に分析を行ってこなかったのが原因と考えられます。その中で、書家の森岡(もりおか)恒(こう)舟(しゅう)氏(東京大学の文学部心理学科卒業)が綿密な調査を経て、日本で初めて「筆跡心理学」を体系化しました。以来、森岡恒舟氏とその弟子を中心として、筆跡心理学は確実に認知されてきています。筆跡で性格が読めるので、たいへん便利です。しかも、心理テストの結果とだいたい同じようになるのでその的中率には感心します。筆跡を読み解くには次の六つがあげられます。性格とは後天的身につけたキャラクターで、気質とは持って生まれたキャラクターのことです。
1文字の形(性格)
2文字の大きさ(性格)
3文字の傾き(性格)
4空間の配置(性格)
5筆圧(気質)
6筆速(気質)
「大」「口」「門」「子」「様」の五文字で性格が反映されるようです。長所と短所は裏と表の関係なので、よさを生かすことが大切です。
「文字の大小と積極性」
○大きい文字を書く人
(長所)強い自信・優れたリーダーシップ・寛大・積極的な行動
(短所)強いうぬぼれ・軽はずみな行動
○小さい文字を書く人
(長所)謙虚・慎重・正確な行動
(短所)自信がない・小心・消極的な行動
また、開運という視点では、習得しておきたい筆跡としては、次の三つになります。
「文字の傾きでわかる感性」※6度の右上がりが標準
○右肩上がりの角度の人
(長所)情熱的、感情的、鋭い感覚
(短所)怒りっぽい、興奮しやすい
○右肩下がりの角度の人
(長所)デリケート、不満をあまり口に出さない
(短所)気取り屋、コンプレックスがある、素直さがない
○右肩上がりと右肩下がりが混じっている角度の人
(長所)敏感、感受性が強い
(短所)自意識過剰、感情が不安定、落ち着きがない
「年賀状からみる筆跡診断」
年賀状からみるポイントを、筆跡診断士の吉田博行氏『筆跡のオーラ』(三五館)は、年賀状のチェックポイントを
○書き始めの高さ
○書かれた行の位置
○書かれた行のズレ方
とし、次のようにまとめています。
○天アキ型の人
積極的な発言は避け、冒険はせず、何事にも用心深く慎重な行動をとる。
内向的で臆病、万事が控え目で消極的。
息苦しい人間社会から本能的に身を避ける精神の持ち主。
○天ツマリ型の人
何事に対しても積極的な姿勢で行動する。
踏み込む能力が強く、物事に恐れを知らぬタイプ。
自信と積極性の表れで、フロンティア精神の持ち主。
ただし、郵便番号の枠に接触して書き始める人は性格がやや雑な面もある。猪突猛進タイプなので、まわりは暴走に目を光らせる必要がある。
○宛名の行が右寄りの人
目立つことを嫌う恥ずかしがり屋。
芸術的センスにすぐれている。
やる気がないと誤解されることもある。
○宛名の行が左寄りの人
仲間の中心にいたがるムードメーカー。
社会性が高く、コミュニケーションに長けている。
ハメをはずしやすい。
○宛名が行下部右ズレ型の人
物事に対して悲観的な傾向がある。
現在進行形で大きな悩みを抱えている可能性が高い。
○宛名が行下部左ズレ型の人
楽天的で少々のことでは落ち込まない。
失敗してもすぐに気持ちを切り替えられる。
自信を裏付ける努力をしている可能性が高い。
誘惑に負けやすい。
「運のよい筆跡」
○弘法型
○開空間広型
○等間隔型
これらの縁起のよい筆跡で名前を書くようにすれば、心地よくなるものです。筆跡心理学の専門家は、あまり画数による姓名判断を気にしません。たとえ悪いといわれる画数でも、よい筆跡で書けば開運できることを知っているからです。そして、よい筆跡でサインするのが楽しくなります。このように、性格が読めますし、開運にもつながる筆跡心理学はぜひ習得しておくとよいでしょう。また、書道教育の上では、
○臨書―エネルギーの吸収
○書道の訓練―知力開発・性格淘汰・社会性訓練
になるといわれています。「文字には霊力がある」と漢字学の大家であった白川静氏は述べましたが、よい筆跡は人に好印象を与えるから不思議です。また、古典をいわれる名筆は、だいたいよい筆跡で書かれています。そのため、筆跡心理学とあわせて古典の臨書も行って書道も学ぶと、精神安定剤にもなって(これを「カイゼンヒーリング」と呼ぶ専門家もいます)効果絶大だと思います。
ペン字の第一人者、山下静雨も次のように述べています。
私は「字は心の顔である」と20数年間いい続けておりますが、字を見て、その人の人柄や人格などを想像することは、私たちの日常において多いものです。とりわけ、よく知らない相手から手紙や書類を受け取ったとき、ひどい右上がりのクセ字だと「気が強くて強情な人ではないか」、また、チマチマとした小さな字だと「器も小さいのではないか」などという先入観を持ちがちです。逆に、のびのびと大きい字を書く相手に対しては、「おおらかな、素敵な人のようだ」などと、会うのが楽しみになったりします。ですから、きちんとした美しい文字が書けるか、書けないかで、将来まで決まってしまうといっても、過言ではないわけです。
「筆圧と筆速」
筆圧と筆速との関係は、次のようにまとめられます。
○筆圧が高い人は、ペンの下のほうをもち、筆速は遅い。
○筆圧が弱い人は、ペンの上のほうをもち、筆速は速い。
クレッチマーは、「筆圧は人によって強さが異なり、筆圧の強さと気質には密接な関係がある」と述べています。このようにドイツ人のクレッチマーの影響を受けた筆跡診断を行った人物が、町田欣一氏(ドイツ流)で、安定した筆圧や速度で書かないとするフランスのグラフォログの立場をとるのが、森岡恒舟氏(フランス流)です。
筆圧の高い場合は、次の三つの項目のうち、二つ当てはまれば「筆圧が高い」と考えてよいでしょう。
○角張った文字を書く。
○文字の線の幅が比較的太い。
○一文字の書き出しや書き終わりに力が入っているようにみえる(力を入れている)。
筆速が速い場合は、次の三つの項目のうち、二つ当てはまれば、「筆速が速い」と考えてよいでしょう。
○筆圧が低いと判定された。
○比較的文字が大きい。
○文字が丸い・連綿型(行書体や草書体などのつながった形)の字を書くことが多い。