日本語教科書での主語という術語

日本語教育での主語の扱い

日本語教育で用いられる教科書は、戦前は国語教科書と同様であったが、戦後は日本語教育の確立とともに、進展したことでも知られている。そこで、主語の初出は、国語教科書と異なる可能性があるため、代表的な日本語教科書(初級)での主語の初出を調査すると、以下のようになる。

1.NAGANUMA(1944)『FIRST LESSONS IN NIPPONGO』財団法人言語文化研究所
・・第5課で「subject」
2.国際交流基金日本語国際センター(1981)『日本語初歩』凡人社
・・主語という用語の掲載なし
3.筑波ランゲージグループ(1992)『SITUATIONAL FUNCTIONAL JAPANESE 』凡人社
・・第2課で「subject」
4.スリーエーネットワーク編(1998)『みんなの日本語・初級Ⅰ・Ⅱ本冊』スリーエーネットワーク
・・主語という用語の掲載なし
5.東京外国語大学留学生日本語教育センター編(2010)『初級日本語・上・下』(凡人社)
・・主語という用語の掲載なし
6.坂野永理・池田庸子・大野裕・品川恭子・渡嘉敷恭子(2011)『初級日本語[げんき]Ⅰ・Ⅱ』The Japan Times
・・第1課で「subject」

このように、『日本語初歩』、『みんなの日本語』、『初級日本語』といった東南アジアの学習者向けの文型中心の日本語教科書では、主語という用語を掲載しないことがわかり、『FIRST LESSONS IN NIPPONGO』、『SITUATIONAL FUNCTIONAL JAPANESE 』、『初級日本語[げんき]』のような英文で解説している日本語教科書で「は(wa)」「が(ga)」の説明で、「subject」という用語で主語を掲載していることがわかる。このことは、欧米人を対象とした日本語教科書では、「subject」とした方が文法的に理解しやすいためだと考えられる。
このように、対象とする学習者の違いに応じて日本語教科書は主語という用語を用いるものと、用いないものとがあることが、国語教科書との大きな違いと言える。