西洋人から見た江戸語

西洋人から見た江戸語の特徴

Ⅰ ロドリゲス『日本大文典』(一六〇四―一六〇八)の記述(土井忠生訳)

関東または坂東
一 三河から日本の涯にいたるまでの東の地方では一般に物言いが荒く、鋭くて、多くの音節をのみこんで発音しない。またこれらの地方の人々相互の間でなければ理解されない、この地方独特で粗野な語がたくさんある。
二 直説法の未来にはさかんに助辞ベイを使う。例えば、参リ申スベイ、上グベイ、読ムベイ、習ローベイなど。
三 打消にはヌの代わりに動詞ナイを使う。例えば、上ゲナイ、読マナイ、習ハナイ、申サナイなど。
四 アイ、エイ、イイ、オイ、ウイにおわる形容動詞(形容詞)において、良ウ、甘ウ、温ウなどの如く、オウ、アウ、ウウにおわる語根の代わりに、白ク、長ク、短クなどの如く書き言葉のクにおわる形を用いる。
五 習ライ、払ライ、喰ライなどのようにアイにおわる第三種活用の動詞では、アッテにおわる書き言葉の分詞形を用いる。例えば、払ロウテ、または払イテの代りに、払ッテ、習オウテの代わりに習ッテ、喰ロウテの代わりに喰ッテ、買ウテの代わりに買ッテというなどがそれである。
六 第二種活用のある分詞形を区別するためには、張ルという動詞の張ッテの代りに、張リテを用い、借ルの借ッテの代りに借リテという。
七 移動のエの代りにサを用いる。例えば、都サ上ル。
八 シェの音節はささやくようにセまたはセに発音される。例えば、世界の代りにセカイといい、サシェラルルの代りにサセラルルという。この発音をするので、関東のものははなはだ有名である。
九 尾張から関東にかけては、アンズまたはエンズにおわる書き言葉の未来形をさかんに使う。例えば、上ゲンズ、為ンズ、聞カンズ、参ランズ、習ワンズなどは、アギョウズ、ショウズ、キコウズ、マイロウズ、ナラオウズの代りである。
十 「申し(す)」を書き言葉、主として消息において、「参らする」の代りに、「坂東では下賤な者どもの間で用いる」。「上げ申す・読み申さぬ」(都では読ミマウスルという)
十一 上方では「ヂヤ」だが、東国では「ダ」を使う。








Ⅱ J・Cヘボン和英語林集成』(一八六七)の記述

一 江戸ではクヮはカと発音される。クヮンはカン、グヮンはガン。たとえばグン‐クヮンはグン‐カン、ケン‐クヮはケン‐カ、クヮ‐ジはカ‐ジ、グヮイ‐コクはガイ‐コク。
二 ユはしばしばイに変わる。たとえばユクはイク、ユキはイキ、ユガムはイガム。また、ジュクはジク、イッシュはイッシ。
三 ヒはシと発音する。たとえばヒバチはシバチ、ヒノキはシノキ。
四 ナはネに変わる。たとえばナイはネイ、シラナイはシラネイ、ソーデナイはソーデネイ。
五 硬音gはngに弱められる。カゴはカ‐ゴ(kago ka‐ngo)、メガネはメ‐ガネ(megane me‐ngane)、スギルはス‐ギル(sugiru su‐ngru)、ネガタカイはネ‐ガタカイ(negatakai ne‐ngatakai)

※西洋人の日本語研究の資料
『日葡辞書』、ロドリゲス『日本大文典』
ホフマン、アストン、、ヘボンチェンバレン、サンソムなど