日本語教育でのテンス・アスペクトの定義

a小泉保(1993)『日本語教師のための言語学入門』pp.118−130
文法的カテゴリーの中の動詞関係のカテゴリーで立項
時制・・話し手がある発話をなしている時、すなわち言語伝達を行っていると
きを「発話の現在」と呼ぶ。・・〈中略〉・・時制は、発話の現在時を
基準として、相対的にとらえられた時間の文法的表示である。
相・・相は動詞の示す行為が完結している(完了的)か、完結していない(未
完了的)かを表す文法的表示である。
ル形・タ形
テイル形・テアル形・テオク形・テシマウ・テオク・テクル・テイク
b松岡弘監修(2000)『初級を教える人のための日本語文法ハンドブック』pp.40−71
テンス・・発話時と時間的前後関係を問題にするもの
アスペクト・・出来事の時間的性質に関わるもの
ル形・タ形
てしまう・たことがある・たことがない・ことがある
ている・ているところだ・つつある・続ける・だす・終わる・やむ
ところだ・てある・ておく・てみる
c白川博之監修(2001)『中上級を教える人のための日本語文法ハンドブック』
pp.68−101
テンス・・出来事が起こったときと発話時/基準時との時間的前後関係を表す
概念
アスペクト・・開始、継続、終結などの出来事の局面を表す概念
ル形・タ形
テイル形・たことがある・ことになる
〈直前・開始〉かける・ようとする・始める・だす
〈継続〉続ける・つつある
終結・直後〉終わる・終える・きる・つくす・たばかりだ
〈ところだ〉ところだ・たところだ・ているところだ
・ていたところだ・ところだった
d庵功雄(2001)『新しい日本語学入門』pp.142−165
テンス・・出来事と発話時の時間関係(以前〈過去〉、同時〈現在〉、以後〈未
来〉)を表す文法カテゴリー
アスペクト・・出来事がどのような局面にあるかを表す文法カテゴリー
※テンスが出来事などが起こった「時点(時間的前後関係)」を表すのに
対して、アスペクトは出来事などの「局面」を表す。
ル形・タ形
テイル形・テイタ形
e近藤安月子(2008)『日本語教師を目指す人のための日本語学入門』pp.67-77
テンス・・時間軸に沿った出来事の述べ方
アスペクト・・出来事を時間軸上ではなく動きの側面から捉える文法範疇
ル形・タ形
テイル形・テアル・テオク・テシマウ・(トコロダ・バカリダ)

慣用句など

省略・繰り返し・語順転換・縮約
1.省略
文脈から予測できたり、一度話題になった要素は、省略されることが多い。省略される要素は、主題、補足語、述語、助詞、主節など多岐にわたる。
(例)
鯨は魚ではない。(鯨は)哺乳類だ。(主題の省略)
太郎は(どこにいるの)?(述語の省略)
ご飯(を)食べた?(助詞「を」の省略)
あっ、雨(が)降っている。(助詞「が」の省略)
これ(は)いくらですか。(助詞「は」の省略)
私はここにいますから(用事があったら呼んでください)。(主節の省略)
この家は高いでしょうね。(この家は高い)だろうね。(先行要素の省略)
2.繰り返し
本来省略すべき要素を省略しないで繰り返すと、場面の転換や強調といった特別の効果が出る場合が多い。
(例)
花子に会った。忙しそうだった。花子はいつも忙しそうにしている。
→(「花子」のいつもの性質を説明)
花子に会った。忙しそうだった。(花子は)いつも忙しそうにしている。
→(この場面で話者が持った乾燥の報告)
寒い、寒い。(程度の強調)
どうも、どうも。(感動詞の繰り返し)
3.語順転換
種々の事情によって、語順が転換することがある。語順の転換には主として、要素の前置と要素の後置がある。
(例)
そのことを二人はずっと話していた。
←二人はそのことをずっと話していた。
美しい街ですよ、京都は。
←京都は美しい街ですよ。
4.縮約
くだけた話しことばでは、単語や語句の縮約が起こることがよくある。縮約の仕方は、方言や場面、各単語によって異なる。
(例)
−ければ(きゃ)・−けれども(けれど・けど)・−でしまう(ちゃう・ちまう)
−では(では・じゃ)・−ではない(じゃない)・−ている(てる)・−ておく(とく)
−のだ(んだ)・−ので(んで)・それは(そりゃ)・それなら(そんなら)

分化文と未分化文

(基本的性質と分類)

a.分化文・・述語を中心として組てられた文
1.平叙文
(例)太郎は、きのう、映画を見に行った。
2.疑問文
(例)太郎は、きのう、映画を見に行きましたか。
3.命令文
(例)ぜひ、映画を見に行きなさい。
4.感動文
(例)よく間に合ったものだ。
何度、やりかけたことか。
あれっ、来ていたのか。

b.未分化文・・述語中心の組み立てを持たない文
1.平叙文
(例)あっ、雨。
2.疑問文
(例)雨?
3.命令文
(例)おい、お茶。
4.感動文
(例)まあ、きれいな月。
5.感情・感覚を示すもの
(例)痛い。ついてないなあ。
6.受け答えを表すもの
(例)はい。なるほど。
7.呼びかけを表すもの
(例)おい。もしもし。
8.儀礼の慣用表現
(例)こんにちは。失礼します。





慣用句

(基本的性質)
いくつかの語からなる句で、語の結びつきが固定し、句全体の表す意味が特殊化したものである。慣用句においては、構成する語の意味が句全体の意味に直接には反映されない。

1.組み立てによる慣用句の分類
a補足語+述語
(例)肩を落とす。音がする。
b連体修飾+名詞
(例)目の毒
c述語を修飾
(例)手もなく

2.その他の慣用句
a−によれば・よると
(例)ラジオによると、関東地方では大雪になるそうだ。
b−必要がある・ない
(例)そこに行く必要はない。
c−ばかりか−も
(例)副キャプテンばかりか、キャプテンも負けてしまい、散々な結果だった。
d−やいなや
(例)その仕事が終わるやいなや、すぐに他の仕事が舞い込んだ。
e−ことは−が
(例)書くには書いたが、出来栄えはよくはない。
f−か
(例)緊張のためか、ろれつがまわらなかった。
g−から−にかけて
(例)東京から甲府にかけて2時間かかる。

名詞句の構造

名詞句の構造

富士谷成章あゆひ抄
「名をもて物をことわり、装(よそひ)をもて事を定め、挿頭(かざし)・脚結(あゆひ)をもて言葉を助く」
→文の中心が、ものをあらわす「名」(名詞)と「装」(述語)で構成されるという見方。

名詞句の構造
名詞を中心とした表現がどのように組み立てられるかという問題。主に、「連体修飾の表現」と「並列の表現」とに分けられる。

a連体修飾の表現
(例)
酒のつまみ
→「つまみ」を「酒」が詳しくしている(連体修飾)
松の木
→「木」の一種としての「松」
日本語の勉強
→日本語を勉強すること
文法の話
→文法についての話
1名詞を修飾するグループ→連体詞
(例)
これは大きな問題になりそうだ。
あらゆる危険性を予測しなければならない。
全部買ってもたいした金額にならないだろう。
2述語として働くことができる動詞と形容詞が名詞を修飾するグループ→述語の働きをする語が使われるもの
(例)
何か飲むものはありますか。
冷たいものなら、ありますよ。
やせた人(「た」は過去ではなく性質を示す。やせている人)
3連体修飾の働きを本来持たない語が名詞を修飾するグループ→名詞や副詞が「の」や「という」のような接続語を伴って修飾表現になるもの
(例)
文法の本(名詞+の)
パスタという料理(名詞+という)
あいにくの雨(副詞+の)


b並列の表現
(例)
酒とつまみ
→「つまみと酒」と入れ替え可能(並列の表現)
「と」と「や」・・「と」は厳密、「や」はおおまか。
コーヒーと紅茶
コーヒーや紅茶
〇千円札3枚と100円玉4個と10円玉5個があります。
×千円札3枚や100円玉4個や10円玉5個があります。
「も」・・取り立て、累加。
夜も働く(「昼も働く」を暗示)
コーヒーも紅茶も好きだ(コーヒーだけではなく紅茶も好きだ)

「は」「が」

主語と主題

妹は怪我をしたので、仕事を休みます。
→怪我をしたのも、仕事を休んだのも妹。
「は」は文の最後までをスコープ(支配域)とする機能がある。
妹が怪我をしたので、仕事を休みます。
→怪我をしたのは妹だが、仕事を休むのは私(発話主体)。
「が」は一番近い述語までしかスコープ(支配域)は及ばない。
これは旅行のお土産です。
→ほかはともかくこれ(対比)
これが旅行のお土産です。
→ほかでもないこれ(総記)
これ旅行のお土産です。
→聞き手の注意を喚起(無助詞による主題提示)

「は」は文の主題を示す
(例)
その本は買いました。
→「買う」の対象が「本」
田中さんには会いませんでした。
→「会う」の目的が「田中さん」
太郎は学生だ。(名詞述語文)
空は青い。花子は元気だ。(形容詞述語文)

「は」の対比の働き
(例)
田中さんは来たが、山田さんは来なかった。
コーヒーは飲んだが、ケーキは食べなかった。

「が」の総記の働き
(例)
この会の主催者は誰ですか。
私です。
私が主催者です。(主催者は私であって他の誰でもない)


「が」の中立叙述の働き
主題を持たない文(現象文・無題文)・・話し手が発話の時点で、認識したものをそのまま叙述。
(例)
犬が走っている。
空が青い。
雨が降っている。

新情報「が」と旧情報「は」
(例)
昔あるところにおじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に生きました。おばあさんが洗濯をしていると、川上から大きな桃が流れてきました。
野田尚史の説
【伝えたいこと】が【主題】
【主題】は【伝えたいこと】
(例)「あいつが許せない」だと、許せないのは、あいつであり、「あいつは許せない」だと、あいつについて許せるか許せないかと考えると「許せない」になる。

「象は鼻が長い」−二重主語構文−
「は」が文の主題を示し、「が」はあとの述語が示す属性を持つ主体を示す。
(例)
弟はサッカーが上手だ。
兄はスポーツが得意だ。
→能力が発揮される対象の分野を「が」で示す。
述語は能力や可能性(できる・わかる・話せる・上手だ・下手だ・得意だ)、好悪の感情(好きだ・嫌いだ)。
東京は人口が多い。
田中さんは息子さんが大学生だ。
象は鼻が長い。
→「全体は部分が述語」の構造。「は」を「の」に入れ替え可能。
「は」が主題を示し、「が」が主題の一部分の状態を示す。
あるものの部分の属性を記述することで、結果として全体について述べる形になる。
春は桜がきれいだ。
→春を主題にして、残りの部分でその主題について述べる文。
「は」を「の」に入れ替え不可能。
日本は富士山が有名だ。
→日本を主題にして、残りの部分でその主題について述べる文。
「は」を「の」に入れ替え不可能

疑問と否定


疑問と否定の表現

疑問表現
(基本的性格)
話し手が相手に未知の部分の情報を求めたり、自分自身にといかけたりする表現である。
1真偽疑問文
(例)昨日、花子に会いましたか。
2疑問語疑問文
(例)昨日、誰に会ったのですか。
3選択疑問文
(例)文法は、好きですか、嫌いですか。
1質問型
(例)花子に会いましたか。(上昇調イントネーション)
2自問型
(例)誰に会ったのだろう。(下降調イントネーション)

否定表現
(基本的性格)
対応する肯定の事態や判断が成り立たないことを意味する。
事態の否定と判断の否定とがある。
普通体の否定形は述語に「ない」をつけて作る。
丁寧体の否定形は「動詞の連用形+ません」などを使う。
1事態の否定
a無題否定
単にある事態が存在しない、あるいは、しなかった、ということを表す。
(例)雨が降らなかった。
天気がよくないな。
b有題否定
ある対象に関して、その対象が持つかもしれない属性、経るかもしれない過程、するかもしれない動作が、実際には存在しない、あるいは、しなかったということを表す場合が多い。「は」で示されることが多い。
(例)彼は昨日、来なかった。
この米はおいしくない。
2判断の否定
ある可能な事態をいったん想定し、それが当該の事態の説明としては、その全部あるいは一部が間違っていることを表す。
(例)太郎が会いに来たのではない。花子が会いにいったのだ。
この事実は太郎が指摘したのではない。

助詞

助詞

(基本的性格)
名詞に接続して補足語や主題を作る働きをするもの、語と語、節と節を接続する働きをするもの。

1.格助詞
補足語が述語に対してどのような関係にあるかを表す助詞。
「が・を・に・から・と・で・へ・まで・より」など。
(例)鈴木さんが街で旧友に会った。
2.提題助詞
主題を提示する働きをする助詞。主題は、名詞と提題助詞で構成される。
「は・なら・って・ったら」など。
(例)鈴木さんは、街で旧友に会った。
※「格助詞+提題助詞」で示されることもある。
(例)日本では、土地の値上がりが深刻化している。
3.取り立て助詞
同類の他の事項を背景にして、ある事項を取り上げる働きをする助詞。
「は・も・さえ・でも・すら・だって・まで・だけ・ばかり・のみ・しか・こそ・など・なんか・なんて・くらい」など。
(例)花子からも返事がなかった。
補足語と述語の位置に現れる
補足語では格助詞の前後に現れる。
(例)あなただけにお話しします。(だけ+に)
A氏は、地元でさえ知名度が高い。(で+さえ)
述語の位置では、連用形・テ形、基本形・タ形に接続する。
(例)太郎はテレビを見てばかりいる。(テ形+ばかり)
課長に話しただけだ。(タ形+だけ)
4.接続助詞
語と語、節と節を接続する助詞。
並列接続助詞(並列的な関係で接続する働きを持つ)と従属接続助詞(従属的な関係で接続する働きを持つ)とがある。
並列接続助詞「と・や・も・に・か・し・が」など。
(例)スポーツの中では、テニスや水泳が好きだ。
この街は、道路が広いが、車も多い。
従属接続助詞「の・という・と・まで・なり・きり・から・けれども・なら・ので・のに・ながら・つつ・から」など。
(例)トンネルを抜けると、そこは一面の雪景色だった。
この国の人は皆親切なので、とても暮らしやすい。
5.終助詞
文末に現れる助詞で、述語の基本形、タ形などに接続する。
「さ」(断定)、「か・かい・かな・かしら」(疑問)、「ね・な」(確認・同意)、「よ・ぞ・ぜ」(知らせ)、「なあ・わ」(感嘆)、「っけ」(記憶の確認)、「な」(禁止)など。
(例)何時からだっけ。(記憶の確認)
財布が落ちましたよ。(知らせ)
今日は、よい天気ですね。(同意要求)
彼は、東京都出身でしたね(確認)。

助動詞

助動詞

(基本的性格)
「動詞・形容詞・名詞+判定詞」述語の基本形、タ形、連体形に接続して複雑な述語を作る語。ムード・モダリティ表現として用いられる。
a「助動詞の種類」
1形式名詞を要素として含むもの
すべての述語に接続するもの
のだ・わけだ・はずだ・ようだ
動詞にのみ接続するもの
ことだ・つもりだ
動詞と形容詞に接続するもの
ものだ
2形式名詞を含まないもの
だろう(でしょう)・らしい・みたいだ・
です・でした
そうだ(そうである)・べきだ(べきである)・まい
b「助動詞の活用」
1活用するもの
判定詞系
はずだ・つもりだ・のだ・わけだ・ものだ
ナ形容詞
ようだ・みたいだ・べきだ
イ形容詞
らしい
2活用しないもの
ことだ・だろう・です・でした・そうだ・まい