軍記物語特有の表現

軍記物語特有の使役表現を紹介します。

軍記物語において、意味的には受身であり、「る」「らる」を使うべき箇所に、「す」「さす」が使われている箇所が目につく。例えば、
○太田太郎我身手おひ、家子郎等おほく討たせ、馬の腹射させて引き退く。『平家物語
このような場合、一般には、受身の言い方を嫌う武士特有のもので、負け惜しみと考え、「討たせ」ではなく「討たれ」とし、「射させ」ではなく「射られ」と受身に解釈するのである。このような例は頻繁に目につく。

 この見解に従いたいが、他の解釈法を説いている諸家もいる。まとめてみると、次のようになる。
長谷川清
「−するままになって」と随順に解釈する。
金田一春彦
「不注意にも−させてしまった」と使役に解釈する。
○小林賢次
「心ならずも−の結果を生じさせてしまう」「−するままにしてしまう」と許容・放任に解釈する。