エリクソン発達段階

エリクソンの心理社会的発達理論
エリクソン(独・1902-1994)は、社会との関係という視点を加えた「心理社会的発達理論」を提唱しました。たいへん有名なもので、8つの段階で解決する課題があるとしました。
1乳児期0-1歳 信頼・不信
母親との関係を通じて、他者は信頼できるものだという実感を得る。
2幼児前期1-3歳 自律性・恥・疑惑
排泄トレーニングによって、自分の生活をコントロールすることを学ぶ。
3幼児後期3-6歳 自主性・罪悪感
大人のように振る舞おうと、活動範囲が広まっていく。自主性を学ぶ時期。
4児童期6-12歳 勤勉性・劣等感
学校という環境のなかで、努力して何かを達成する喜びを覚える時期。
5青年期12-20代半ば 自我同一性・同一性拡散
自我同一性(アイデンティティ)を確立し、自分の生き方を固める時期。
6成人前期20代後半-30代半ば 親密性・孤独
パートナーとの親密な関係を持とうとする時期。
7成人後期30-60 世代性・停滞
自分の子供や生徒、部下などを育てることで、限定された自己を超える。
8高齢期 統合・絶望
それまでの人生を振り返って受け入れる。それができないと絶望する。
(解説)
エリクソンの心理社会的発達理論」
人生を8段階に区分して、それぞれに発達課題と心理社会的危機(psychosocial crisis)、重要な対人関係、心理社会的様式が設定されている。
1.乳児期 (基本的信頼 対 不信)
基本的信頼は、乳児期の主に授乳関係を通じて作られるといわれる。唇でお乳を飲む行為は、食物摂取という生理的な意味ばかりではなく、後の人格発達の原型となる心理的な意味もある。乳児は口を通じて自分の周りの世界を学んでいく。この時期に子どもが世界は自分を養ってくれ、頼ることができ、信頼するに値すると感じることができるか否かで、その後の親密な人間関係を築き上げていく土台が作られる。
2.児童前期 (自律性 対 恥、疑惑)
この時期になると、幼児は肛門括約筋をはじめとする全身の筋肉が発達してきて、自分で立って歩けるようになり、排泄をコントロールすることが可能となる。発達課題としては、排泄と保持という体験を通じて自律性の感覚を身につけることができるか否かが重要となってくる。うまく排泄ができれば親にほめられ、失敗すると恥ずかしい思いを、幼児は体験する。また、自己主張をだんだんしはじめる頃であり、攻撃の手段として自分の排泄物を武器として扱うことも時々観察される。
3.遊戯期 (積極性 対 罪悪感)
この時期は、侵入するというモードが主流になる。世界にどんどん侵入していき、攻撃をしかけ、自分を主張していく積極性と、そういうことをすると自分は罰せられるのではないかという罪悪感が発達課題となる。これらの発達によって、積極性に富む子どもになったり、罪悪感の強いマゾヒスティックな子どもになったりするとされる。男の子の場合には正面攻撃によって思いをとげ、女の子の場合には、自分を魅力的にすることによって、対象を引き付けようとする手段の違いがある。いずれにせよ、子どもは、自分が世界に対して積極的に取組める存在であることを徐々に認識していく。
4.学齢期 (勤勉 対 劣等感)
学齢期に達すると、フロイトのいう幼児性欲の抑圧にひとまず成功する。日常的な勤勉が主題となる時期である。子どもは学校で急速に知識や技能を修得し、仲間との集団関係を育成する。この時勤勉さが十分に成功しないと、劣等感が生ずるとされる。勤勉さが成功するということは、物事を完成させる力とその喜び、周囲の承認、自己の有能感や自尊心といったものが得られるということである。また、学校での同輩集団が、子どもの社会化の力を養う上で重要な存在となってくる。
5.青年期 (同一性 対 同一性拡散)
青年期では性欲がふたたび表面化する。これに基づいて自己概念が新しく現れてくる。生理学的変化と社会的な葛藤とによる混乱の時期である。新しい自我同一性(ego identity) ―― 自分がどんな人間かということ ―― を確立することが課題となり、これに失敗すると役割混乱が起こって同一性拡散(identity diffusion)という病理が生ずる。人格が統一されず、社会へのコミットメントができない状態に陥ってしまう。青年期は新たに出会う世界とかかわりを結ぼうとする。青年は同一性(identity)の確立を目指して試行錯誤しながら、やがて自分の生き方、価値観、人生観、職業を決定し、自分自身を社会の中に位置づけていく。
6.前成人期 (親密さ 対 孤立)
この時期の発達課題は、親密さである。自我同一性を確立したものは、他者と真の親密な相互関係をもつことができる。これは、異性と仲良くなることを意味する。そして、性というものを通じて、心身ともに一体感を抱くような、今までにない親密さを体験することである。体験される親密さは、自分と異なる性別、肉体をもつ他者との相互性という点に意味をもつ。これに失敗すると、孤独をもたらし、以後の心理的成長を抑制するとされる。
7.成人期 (生殖性 対 自己没頭)
この時期の発達課題は、生殖性(生産性)である。生殖性とは、次の世代を育てていくことに関心をもつということを意味する。また、結婚して子どもを育てることだけでなく、社会的な業績や知的、芸術的な創造もこの中に含まれるとした。自分自身にしか関心がもてず、自己没頭という状況になると人格の停滞を示し、この発達をうまく乗り越えられない。
8.成熟期・老年期 (統合性 対 絶望)
成熟期の発達課題は、統合性である。この時期は、人間の生涯を完結する重要な時である。今までの自分のライフワークや生活を総合的に評価し直すという営みを通して、自分の人生を受け入れて、肯定的に統合しなければならない。統合性を獲得することができれば、心理面の安定が得られ、人間的な円熟や平安の境地が達成される。しかし、この課題に失敗すると、後悔や挫折感を経験することの方が多くなる。すなわち、自分の人生を振り返って絶望を感じることになる。

エリクソン(Erikson, E. H.)の理論は、課題を達成しようとしまいと人は心理的発達とともにすべての発達段階を通過していくと考えている。ただし、発達課題の成功や失敗は、次の段階の達成に大きく影響を与える。また、各課題は、成功と失敗の対概念として提示されているが、必ずしも成功だけを体験しなくてはならないという意味ではないが、より多くの成功体験をもつことが発達にとって重要なのである。