大凶方位について考える
大凶方位について考える―気学の大家「中村文聡」の12年説
気学の大家で、中村(なかむら)文(ぶん)聡(そう)氏という人物がいました。中村文聰は、「気学」以外にも「人相」「手相」の気色についての業績もあります。中村文聰は、都内の和菓子屋の家に生まれました。しかし、占いに興味を持ち、家を飛び出し、目黒にある神社の堂守をしていました。その間は貧乏暮らしで、お供えの餅と油揚げで食いつないでいました。それにもめげず、お堂の中で細々と占いをしていました。そんな中村に転機が訪れたのは、16歳のときでした。見かねた町内会の人が、「何か占いについて講義しろ」といってくれたのでした。そのため、町内会の人々に講義するようになり、安い謝礼でしたが月謝がもらえるようになりました。そのかたわら、目黒(めぐろ)幻(げん)龍子(りゅうし)に弟子入りして、人相も勉強しました。その後、永福町の宅占をするようになりました。そのときの中村文聰の鑑定の様子を、実際に見学した佐藤六龍氏は、次のように思い出を述べています。
「長い付き合いの中で、一度も他人の悪口を言うのを聞いたことがない易者に中村文聰という人がいました。昭和初期に占いの事業化を手がけた熊崎健翁に請われてスタッフに迎えられた一人ですが、職養道で生きた易者としては、最高の実践者だったといえます。『当てずはずさず』の絶妙なバランスで、客に十分話をさせるというものでした。『それはいけません』『それはいいのです』の二通りの言葉しか言わないという甘い(?)鑑定でしたが、連日12から17人ぐらいは押しかけるという繁盛ぶりでした。何もすごい予言をすることが易者の力量ではなく、いかに客を安心させて帰らせるかが、一流の鑑定家なのだとあらためて感心したものです。ある日、中村の家に税務署の査察が入ったことがありました。たまたま、そのとき居合わせたのですが、その日に限って客が3人しか来ませんでした。おかしいと思ったのか、税務署は翌日も来たのですが、やはり3人でした。運も実力のうち、といいますが、多額の納税を免れていた中村文聰の職養道には運もついていたようです。」
中村文聰は、「気学」の研究の上での最大の功績としては、「カルマは12年で解消される」ということを実証したことにあるといえるでしょう。「気学」を少し勉強した方ならご存知のように、「五黄殺」などの大凶方位に引っ越すなどで移動すると、持っている悪因縁が噴出してしまい、たいへんなことになるとされています。灰汁だしが終わっていたり、徳の高い僧侶のような感じの人物であったり、運気の強い人物であったりすれば、大凶の作用はでない(あるいは少し咳がでる程度)とされています。中村文聡氏は、自分と弟子とで気学の発展に貢献するために、わざわざ死ぬ覚悟で五黄殺に引越しをしました。当然、火事・病気・怪我・盗難などのとんでもない大凶作用がでました。ところが、12年したら本人も弟子も、まったく何も起きなくなりました。そして、それと同時に気学の大家としての「中村文聡」という名前が世間に知れわたるようになり、有名になっていったのです。つまり、12年間苦しめば、カルマ(業・悪因縁)が晴れて、開運できるということを証明する結果となりました。これは重要なことです。不運はいつまでも続かないことがわかりますし、「正負の法則」といわれていることも、何となく理解できるからです。
また、天下統一を成し遂げた「豊臣秀吉」は「マスカケ」(別名「百握り」)という特殊な手相でした。しかもそこに加えて「天下線」という強烈に一本長く伸びる運命線を持っていました。豊臣秀吉は、幼いころから自分でその手相を励みに、将来大きなことを成し遂げたいと考えました。そのためには、カルマ(業)の解消が必要だと考えました。そうして若いうちに早くカルマ(業・悪因縁)を晴らしたいと思い、自分であえて積極的に五黄殺の方角に出かけ、死ぬような苦しみをたといわれています。その行いが後の出世につながったともいわれているのです。手相を見ても、12年間苦しんだ人というのは、厄年でもまったく大凶作用はでないことがわかっています。大凶もカルマ(業・悪因縁)の灰汁だしと考えれば、必ずしも悪いものではないようです。
逆に、幼いころから吉方位にばかり移動している場合には、カルマ(業・悪因縁)が残ったままで全く解消されていない状態なので、やがて吉方位が効かなくなってしまうことになります。そのため、吉方位は「不運なときや勝負どころで吉方位を利用する」というのが理想的だといえるでしょう。不運な時期は、誰にでもあります。「プレジデント」「PHP」などの人間観察の雑誌を読んでいると、一流企業の経営者もみな、不運な時期に遭遇していることがわかります。しかし、成功する人はその不運な時期の過ごし方が実に見事なのです。あまり積極的なことはしないで、自分を見つめ、自分を磨くときと考えて、禅寺で座禅や断食をしたり、勉強や読書をしたり、資格をとったりなどの自己投資をしているのです。
また、国際的な手相家の西谷泰人氏は、一流の文人・政治家・企業経営者を鑑定した経験から、ある共通点に気づいたそうです。それは次のようなものであると、『トップになれる極意』(橘出版)の中で述べています。つまり、
○東洋や西洋の古典的名著(人間学・哲学・歴史などが中心)をよく読んでいる。
○何かプロ級の趣味(絵画・囲碁・剣道・和歌・漢詩・書道など)を持っている。
です。古典(岩波文庫や中央公論社の世界の名著)には人間の叡智が詰まっており、生きる指針になるのかもしれません。趣味も実務的なものよりは、現実を忘れることのできるものであることが多いようで、一種の脳派をα派にすることに役立つのかもしれません。「趣味は仕事の栄養剤」という名言がありますが、その通りなのかもしれませんね。一見、仕事とは無関係に思える現実世界から離れた趣味を持つことで、将来の見通しが鮮明になるのかもしれません。仕事のことだけを考えていては大成しないといわれますが、まさにその通りなのでしょう。ある程度の「ゆとり」を持つことの重要性が感じられます。