「たまふ」(下二段)の問題点

 おはようございます。しばしば、下二段活用の補助動詞「たまふ(給ふ)」についての質問を受けることがありますので、今回はこの問題を扱います。
 これは、研究者の間でも考え方に違いがあるから生じるのでしょうね。私も教わった高校の先生や大学の先生によって意見が分かれてしまい、混乱したことがありました。あとで大学院生のときに研究論文を図書館に籠って読んでいて、謎が解けた経験があります。
 例えば、受験参考書の名著といわれている古文の参考書、『土屋の古文講義1、2、3』(代々木ライブラリー)は、の著者の土屋博映氏(旧東京教育大学筑波大学大学院出身)は、国語学(日本語学)の専攻(能や狂言の索引や、敬語の指導論、枕草子の「をかし」と「あはれ」などの論文があります。主に平安時代の語彙の研究が中心です)ですが、筑波大学立命館大学などの考え方で敬語や助詞を記述しています。四段活用の補助動詞「たまふ(給ふ)」は尊敬語で「−なさる、お・ごーになる」で特に問題ありません。しかし、下二段活用の補助動詞「たまふ(給ふ)」は謙譲語で「―申し上げる」とこの本の解説では口語訳してあります。これは筑波大学立命館大学などでしか通用しない現在はマイナーな口語訳です。
 國學院大學名誉教授の田邊正男博士や杉崎一雄氏などの数多くの用例調査の研究から、現在では下二段活用の補助動詞「たまふ(給ふ)」は、かしこまりを示す極めて特殊な謙譲語とされていますから、むしろ特殊な謙譲語や丁寧語というほうが適切です。
 したがって、大多数の大学の教員は、下二段活用の補助動詞「たまふ(給ふ)」は、謙譲語で「―させていただく」か「―です」「―ます」と口語訳するようにしていますので、注意してください。