易の智恵と魅力

「易(周易)の智恵と魅力」

(易について)
古代中国人は、すべての根元は宇宙の「太極」のもとにあり、その太極の変化によって、自然界が変化していくと考えました。そして太極は「陰陽」からなり、陰陽から春夏秋冬、東西南北といった「四象」が生まれ、四象からさらに、「乾(天)・兌(沢)・離(火)・震(雷)・巽(風)・坎(水)・艮(山)・坤(地)」の「八卦」が生まれました(古代の帝王の伏羲(ふっき)が作ったとされています)。さらにこの八つを組み合わせると、六十四の卦(周の文王が作ったとされています)ができます。この六十四の卦によって(さらに周の文王の子の周公が384種類にわけたといわれています)、人間を含めた宇宙の森羅万象のすべての運命を判断しようというのが易です。その現象を書いたものが『易経』です。『易経』は人生観・宇宙観を示した思想の本、哲学な本です(一説によると、孔子が編纂したとする説もあります)。また同時に、占いとしての面を『易経』は持っていました。
学術的な面と神秘的な占いの面をバランスよく書いた本としては、金(かな)谷治(やおさむ)氏(中国思想研究家)の『易の話』(講談社学術文庫)という名著があります。このように両方をバランスよく書いた本は、あまりないために、中国や台湾でも翻訳されて広く読まれています。この本の中で金谷治氏は、
「人間をこえた神秘に関わる性格と、人間的な理性に関わる性格と、『易』はこの二つの顔を備えている。そして、その二つの顔は、決して一つに重なり合うことはないけれども、実は微妙につながっている。易の面白さは、実はそこにあるといってよかろう。考えてみれば、易のうらないも易の哲学も、その関心の中心はこの人生の生き方にある。それぞれが別個のものを求めているのではない。だから、占筮は、義理の書としての『易』の性格に助けられて、合理的な説明づけを与えられることになる。占筮は神秘への傾斜を深めるよりは、むしろそれを引き止めて、より合理的な解釈へと向かうのである。―(中略)―たとえば、人相、家相、地相といったものや、まじないの類に比べて、より高級なものと考えられてきたのは、そのためであった」
と述べています。
また、占いたい事柄を心に念じながら未来の運命を探るには、たまたま表れる易は偶然ではなく、必然の暗示(シンクロニシティ・同時性の原理)だというように関心を示したのがスイス人の心理学者のユングでした。ユングは潜在意識に注目し、潜在意識が約8割を占めると述べています。ユングは易の大家でもありました。その意味で、彼は東洋の易に最初に注目した心理学者といえます。他に成功哲学を説いたマーフィーも関心を寄せ、
「易は知恵の宝庫である。易の回答はあなたの潜在意識の声である。素直に耳を傾けなくてはいけない」
と述べ、成功哲学のヒントとしてとらえました。つまり、吉凶をみるだけでなく、その対処法を易から読み取ることで、運命を切り開くものとして考えたのでした。さらには、数学者・哲学者であるライプニッツ微分積分の祖といわれています)は、易の64分類をさらに4000ぐらに分類しようとして、64の配列を検索しやすいように数字化しました。これにより、コンピューターのプログラムの基礎を作ったといわれています。
日本では、「易聖」と呼ばれている人物は三人います。江戸時代の新井(あらい)白(はく)蛾(が)、真勢(ませ)中州(ちゅうしゅう)(新井白蛾の弟子)、そして高島呑(たかしまどん)象(しょう)(高島嘉衛門)です。現在残っている易の流派も真勢易、白蛾易、高島易の三つにすぎませんし、大きく分けて真勢流と高島流とに分けることができます。
しかし、現在の高島易断には注意が必要です。高島呑象には弟子は少なく、政治家でもあった小倉正恒、そして純粋に易を継いだ小玉呑象の二人だけです(現在、高島姓でやっている占い師はすべて高島呑象とは無関係です)。
具体的な易のやり方としては、さまざまな方法がありますが、主に筮竹(ぜいちく)50本を使う場合、八面体サイコロか六面体サイコロを使う場合、コインを使う場合、カードを使う場合(東洋式タロット・易タロット)があります。六面体サイコロを使うときには、「奇数を陽、偶数を陰」とします。また、コインを使うやり方は中国でも簡単なやり方(簡略法)として、中国では漢の時代から行われていました。三枚の硬貨を同時に空中に投げて、その裏表で陰陽を決めるやり方です。六回投げることで、卦が得られるのです。これを鬼(き)谷子(こくし)(春秋時代)の編み出した「擲(てき)銭法(せんほう)」といいます。この際には、コインの「表を陽、裏を陰」として考えるのです。宋代にも、「このごろの人は三枚の銭を用いる」と書かれています(『朱子語類』)。
この「擲(てき)銭法(せんほう)」というやり方をもう少しアレンジしたものを提唱したのが、黄小娥(こうしょうが)(1913年生)でした(当時、四谷のアパートで鑑定しており、政財界・芸能界などの間でも評判の人気占い師でした)。彼女の書いた『易入門―自分で自分の運命を開く法』(光文社)では、10円玉六枚を使って行う方法を提唱しており、この本は易入門書としては異例のベストセラーになりました。ただ、師匠ある加藤(かとう)大岳(だいがく)は起こり、彼女を破門にしました。推理小説家で占い研究家でもあった高木彬光氏もこの本を推薦して、次のように述べています。
「『易経』は、人類の宝といいたい古典なのに、その難解さのために、現代の人々には、頭から敬遠されてしまっている。しかし、いったんこれを理解すれば、この深遠な古典が、人間処世の指導書としても、その応用面での占いの教科書としても、たいへん貴重な価値を持っていることは、だれにでもわかるのだ。それは、幸福への扉だとさえいいたいものである。ただ、専門家は、過去の教えを守ることだけに執着して、それを大胆に現代化し、大衆化しようという道にふみきらない。その意味で、この本は、百万人の現代人に、『易経』の秘密、幸福への扉を開く、ただ一つのカギだと断言できる。
著者、黄小娥(こうしょうが)先生は、現在易占いの道においては、第一人者といえるお方である。易の学問的研究や、実際の占いでは、先生以上の人もいるかもしれない。しかし、学、術ともに兼ね備えた名人は、私もほかに知らないのだ。私は先生の教示によって、四年の間に何度か人生のチャンスをつかんできた。その先生が、一年近くの間、情熱を傾けて書き上げられたこの本は、かならず多くの人々に運命の神秘を悟らせるだろう。この本によって、人生のチャンスをつかめることを、私は信じて疑わないのである」
『易入門』は、絶版後も苦労して古本屋をめぐって入手する人も多くいたことから、サンマーク出版から装丁を改めて再版されました。現在では、『黄小娥(こうしょうが)の易入門』(サンマーク出版)という書名で入手できます。この10円玉6枚でやるやり方は、現在よく用いられています(裏表がわかる硬貨であれば、何でもよいのです)。6枚あれば、1回でできますが、3枚で上卦と下卦の2回にわけてもよいですし、1枚でも6回に分けて卦を出すこともできます。八面体サイコロであれば、1回でできます。通常のサイコロでやる場合には6回ふることになり、偶数を陰、奇数を陽として卦を出すこととなります。近年では、易を西洋のタロットのようにカードにしているものも発売されています。これは「東洋式タロット」、「易タロット」、「イーチン・タロット」などと呼ばれています(東京の「鴨書店」がこのようなカードを幅広く扱っています)。
西洋にはタロット、ジプシーがあるように、東洋には易があります。目の前のことを占うには、易が一番です。その意味でも易ができることは重要です。困ったときには易をたてることも多いものです。しかも、易にはアドバイスがあるので、運命を好転させることも可能なのです。一般に易は周易と断易とにわけられますが、一般に「易」という場合には「周易」のことを指し、解決方法が示されます。それに対して、「断易」は独特のやり方をしますし、吉か凶かに中心があるので、あまり開運という視点には適しません。