間接受け身の定義

こんにちは。
今回は、「間接受身」の考え方をまとめてみます。


受身文の分類説明で一般に使われるものとしては、「直接受身(中立受身)」と「間接受身」の二分類がある。そして、「直接受身」の後に「間接受身」を学習することが一般的である。
「直接受身」は「中立受身」とも呼ばれ、「AガBヲ動詞→BガAニ動詞+れる・られる」(例:兄が弟をほめる→弟が兄にほめられる)、「AガBニ動詞→BガAニ動詞+れる・られる」(例:兄が弟に反対する→弟が兄に反対される)のように構造上も説明しやすい。他に「迷惑の受身」「持ち主の受身(所有受身)」「非情の受身」が使われるが、「間接受身」の中に「迷惑の受身」「持ち主の受身」「自動詞の受身」を入れておくことが多い。
しかし、受身文の研究では、「間接受身」の定義付けが問題になっている。そこで、「間接受身」のとらえ方の代表的なものをいくつか列挙してみる。
○寺村秀夫(1982)
♢直接受身表現
XガYニ/ヲ〜スル→YガXニ/カラ〜サレル
♢間接受身表現
WガXニ〜サレル
WガXニYヲ〜サレル
*Wは能動表現にはなかったが、第三者的であったものが、受動文になったときに主語として生じたものである。
*Yヲの「ヲ格」は能動文でもそのままの形で「ヲ格」として存在していたものである。
→この分類は奥津敬一郎(1987)や高見健一(1995)でも用いられ、一般的になっている。
松岡弘(2000)
♢能動文にない名詞句が受身文になるタイプ。間接受身は迷惑の受身。「持ち主の受身」は主語が間接的な影響を受ける意味で間接受身の一種だが、必ずしも迷惑を意識しない。
(例)隣の人が騒ぐ→私は隣の人に騒がれる。(間接受身)
私は知らない人にいきなり頭をたたかれた。私は息子を先生にほめられてうれしかった。(持ち主の受身〜間接受身の一種)
スリーエーネットワーク編(2001)
N1はN2にN3を受身動詞
この文型はN2がN1の所有物(N3)などに対してある行為をし、その行為をN1が多くの場合迷惑に感じていることを示す。N2は人以外の動く物の場合もある。
(例)男の人がわたしの足を踏みました。→わたしは男の人に足を踏まれました。
→これらは日本語教師用の手引書であるが、寺村秀夫の枠組みを踏襲している。
○今井新悟(2010)
「間接受身」は「迷惑被害の受身・持ち主の受身・自動詞の受身」とすることが多いのに
対して、二重対格制限・ガノ交替・主格降格と参与者数・付加詞と必須項・主語尊敬構文の尊敬対象・再帰代名詞「自分」の先行詞・数量詞遊離などの統語論的視点から、「直接受身・持ち主の受身は中立の意味、間接受身は迷惑の意味」とし、「持ち主の受身」を「直接受身」に分類している。


参考文献
寺村秀夫(1982)『日本語のシンタクスと意味Ⅰ』くろしお出版
奥津敬一郎(1987)「使役と受身の表現」『国文法講座・第6巻』明治書院
金水敏(1991)「受動文の歴史についての一考察」『国語学』164集
金水敏(1993)「受動文の固有・非固有について」『近代語研究』第9集
スリーエーネットワーク編(1998)『みんなの日本語・初級Ⅱ本冊』スリーエーネットワーク
高見健一(1995)『機能的構文論による日英比較』くろしお出版
松岡弘(2000)『日本語文法ハンドブック』スリーエーネットワーク
スリーエーネットワーク編(2001)『みんなの日本語初級Ⅱ・教え方の手引き』スリーエーネットワーク
川村大(2003)「受身文の学説史から」『言語』32巻4号
姫野昌子・伊東祐郎(2006)『日本語基礎B−文法指導と学習』放送大学教育振興会
東京外国語大学留学生日本語教育センター編(2010)『初級日本語・下』(凡人社)
今井新悟(2010)「間接受身再考」『日本語教育』146号