敬語の五分類

敬語の分類
文化審議会の5分類案―

Ⅰ 従来の敬語の分類
二分類・・素材敬語(尊敬語・謙譲語)と対者敬語(丁寧語)
三分類・・尊敬語・謙譲語・丁寧語


Ⅱ 文化審議会の敬語の五分類案―菊地康人『敬語』(講談社)−

文化庁文化審議会は、平成19年2月「敬語の指針」を答申
→「1尊敬語・2謙譲語・3丁寧語」の三分類を、五分類にする案を提出。
1尊敬語
相手側または第三者の行為・物事・状態などについて、その人物を立てて述べるもの。
2謙譲語Ⅰ
自分側から相手側または第三者に向かう行為・物事などについて、その向かう先の人物を立てて述べるもの。
3謙譲語Ⅱ(丁重語)
自分側の行為・物事などを、話や文章の相手に対して丁重に述べるもの。
4丁寧語
話や文章の相手に対して丁寧に述べるもの。
5美化語
物事を美化して述べるもの。


Ⅲ 五分類案の問題点

謙譲語Ⅰ
うかがう・拝見する
「来月から施行されるとうかがっております」
「実家の両親のところにうかがっておりました」
→面前の相手に配慮している
「近頃の新聞を拝見しておりますと」
  →相手に対して丁重に述べているように使っている
謙譲語Ⅱ
参る・申す・いたす・おる
「私が貴社に参ります」
  →謙譲語Ⅰとしての使用も失っていない。
謙譲語Ⅱは謙譲語Ⅰと重なる用法を持ちつつ広がっている。
「お(ご)−いたす」謙譲語Ⅰと謙譲語Ⅱを併せ持つとしている
→「お(ご)−する」は謙譲語Ⅰ、「いたす」は謙譲語Ⅱに分類しているため
美化語
お酒・お料理→相手の提供する「酒」「料理」を指すのなら尊敬語として使用される。

※a尊敬語・謙譲語が丁寧語と連動して使用される→敬語の丁寧語化
b日本語の敬語は、登場人物重視から相手(聞き手)重視に変わってきた
c謙譲語Ⅱは謙譲語Ⅰから派生したもので、ことばを丁寧に響かせる。
d美化語も丁寧語と似た機能を持ち始めた。


Ⅳ マニュアル敬語

  1
△(5000円)お預かりします
○(5000円)いただきます
  2
○5000円を(お預かりします)
△5000円(お預かりします)
×5000円から(お預かりします)
  3
○ご注文は
×ご注文のほうは
  4
×トーストになります
○トーストでございます
  5
○禁煙席で よろしいでしょうか?
×禁煙席で よろしかったでしょうか?


Ⅴ 最近見られる言い方

1
△司会を つとめさせていただきます
○司会を つとめます
2
○歌わせていただきます
×歌わさせていただきます

【参考資料】「これからの敬語」(昭和27年4月14日に出された国語審議会建議)
一、 人をさすことば
(自分をさすことば)
1自分をさすことばとしては、「わたし」を標準の形とする。
2「わたくし」はあらたまった場合の用語とする。
(相手をさすことば)
「あなた」を標準の形とする。
二、 敬称
1「さん」を標準の形とする。
2「さま(様)」は、あらたまった場合の形、また慣用語に見られるが、主として手紙の宛名に使う。
3「氏」は書き言葉用で、「さん」を話し言葉用として使う。
4社会人としては原則として「さん」を用いる。
5職場用語としては、「先生」「局長」「社長」「専務」「課長」などには「さん」をつけて呼ばない。
三、「たち」と「ら」
1「たち」は現代語としては、「わたしたち」と自分のほうにつけてよい。
2「ら」は書き言葉で「A氏、B氏、Cら」のように誰にでも使ってよい。
四、「お」「ご」の整理
(つけてよい場合)
1相手の物事を表す「お」「ご」で、それを訳せば「あなたの」という意味になるような場合。
お帽子はどれでしょうか。
ご意見はいかがですか。
2真に尊敬の意を表す場合。
先生のお話
先生のご出席
3慣用が固定化している場合。
おはよう
おかず
ごはん
ご苦労さま
おいでになる(すべて「お―になる」の型)
ごらんになる(すべて「ご―になる」の型)
4自分の物事ではあるが、相手の人に対する物事である以上、それをつけることに慣用が固定している場合。
お手紙(お返事・ご返事)をさしあげましたが
お願い
お礼
ご遠慮
ご報告いたします
(省けば省ける場合)
女性の言葉としては「お」がつくが、男子の言葉としては省いていえるもの。
(お)米・(お)菓子・(お)茶碗・(お)昼
(省くほうが良い場合)
(お)ビール・(お)くつした・(ご)芳名
(ご)調査された(「調査された」「ご調査になった」が正しい)
(ご)卒業された(「卒業された」「ご卒業になった」が正しい)
五、対話の基調
これからの対話の基調は、「です・ます」体としたい。
六、動作の言葉
動詞の敬語法には、およそ三つの型がある。
書く―Ⅰ書かれる・Ⅱお書きになる・(Ⅲお書きあそばす)
受ける―Ⅰ受けられる・Ⅱお受けになる・(Ⅲお受けあそばす)
「れる」「られる」は簡単であるので、将来性がある。
「お―になる」の型を「お―になられる」という必要はない。
おそばせことばは、おいおいすたれる形であろう。
七、形容詞と「です」
これまで問題になっていた「大きいです」「小さいです」などは、認めてよい。
八、あいさつ語
あいさつ語は決まったままでよい。
おはよう。おはようございます。
おやすみ。おやすみなさい。
いってきます。いってまいります。
いただきます。ごちそうさま。いってらっしゃい。
九、学校用語
1「お」の使いすぎに注意。
(お)教室・(お)チョ―ク・(お)机
2「です・ます」体が望ましい。
十、新聞・ラジオの用語
敬称も「さん」を使うのは妥当である。
政治的記事には「氏」を中心に使う。
犯罪容疑者には敬称を省略してもやむをえない。
十一、皇室用語
昭和22年8月、宮内庁当局との報道関係との間に基本的了解が成り立っていた。
「玉体・聖体」は「おからだ」
「天顔・竜顔」は「お顔」
「宝算・聖寿」は「お年・ご年齢」
「叡慮・聖旨」は「おぼしめし・考え」
勅語」は「おことば」
「朕」は「私」