「より」と「から」

 こんばんは。今回は、「より」と「から」の使い分けについて書いてみます。時間や空間を示すときに使われる助詞、「より」「から」はどちらを使うほうがよいのか、迷うことはないでしょうか。また、「より」と「から」が、時間や空間の起点を示す格助詞として場合には、どのような違いがあるのでしょうか。言葉である以上、何らかの違いがあるはずです。例えば、
  本日二時より会議があります。
  校長先生よりお話があります。
  本日二時から会議があります。
  校長先生からお話があります。
は、どちらがよいのでしょうか。朝日新聞の「日本語相談」というコラムがあり、作家や国語学者がそれに回答するという紙上連載がありました。その中でも、「より」は間違いではないか、という具合いいに質問する読者の質問が掲載されました。実際には、新聞の見出しでは、
  アメリカ軍沖縄より撤退
のように「より」を使い、記事の内容では、
  アメリカ軍の沖縄からの撤退を受けて政府は、
のように「から」を使っています。
名詩といわれる、島崎藤村の詩の一節を比較してみます。藤村の詩では、
  名も知らぬ遠き島より流れよる椰子の実一つ
と書かれていますが、この箇所を、
  名も知らぬ遠き島から流れよる椰子の実一つ
と変えたらどうでしょうか。二つとも意味的には同じですが、途端に格調が失われてしまう感覚になると思います。次のように、
 ○「より」は格調があり、強い格式、古典的な雰囲気、改まった感じを与える。
 ○「から」は口語的で特に意識していないときには頻繁に使う傾向がある。
とまとめることができそうです。
それでは、いったいどのような語源なのでしょうか。語源の説明が詳しい大野晋『岩波古語辞典』(岩波書店)によると、
 「より」の起源は「ゆり(後)」である。その「ゆり」が母音交代によって「より」になっ た。一方「から」の語源は「家柄(やから)」「国柄(くにから)」「川柄(かわから)」などの 「柄」で、あるつながりを共有する社会的な一つのあつまりを示すものである。ここから、 自然の成り行きという意味が生まれ、原因・理由を表し、動作の出発点を示すようになっ  た。
と書かれています。では、実際にはどちらが多く使われていたのでしょうか。もともとは「より」の方が多く使われていたために、「より」の使用例が圧倒的で、「から」は口語の世界で生き残るようになりました。ところが、明治時代には口語が重視されるようになったために、現在では「から」が中心になっています。