現代文の参考書の歴史(2)

長谷川泉という近代文学の大御所(森鷗外の研究で有名)で、「医学書院」を設立した人物がいました。晩年の長谷川泉にお目にかかったことがありますが、独特の雰囲気のある方でした。長谷川泉は、現代文の教育についても理論書を書いたりしていました。その理論の実践としては、『チャート式・現代文』(数研出版)があります。その本は、作品を読み味わうタイプのもので、近代について考えさせるという現在の入試に即したものではありません。しかし、文学史・小説・文芸評論などはどれもしっかりとした文章で、一読の価値はあると思います。長谷川泉がこの本を書いたころは、文芸評論がよく出題されていたので、問題がなかったのでしょうね。一昔の現代文の参考書といえるでしょう。研究の仕方も、まだ作品・作家論のころのものなので、現在のように文学・歴史学社会学の融合としてとらえるものではなかった時代なので、ある意味で平和な時代だったともいえます。近年の近代文学研究は、さまざまな知識が要求されるので、幅広く勉強することが必要です。