百人一首の修辞技巧

百人一首の修辞技巧

【第一類】・・枕詞・序詞・・『万葉集

枕詞

(枕詞の意味と機能)
 枕詞は、三音・四音・五音・六音のものなどがあるが、五音が多く口語訳はしない。下にくる特定の語を引き出す。
一「草枕―旅」のように枕詞が受ける語を意味的に修飾する場合
二「梓弓―春」のように枕詞が受ける語と同音または類似音の他の語(掛詞)にかかる場合
三「父の実の―父」のように枕詞と同音または類似音をもつ語にかかる場合
四「ささなみの―志賀」のように枕詞が地名にかかる場合
(枕詞の位置)
第一句目
ちはやぶる神代も聞かず龍田川からくれなゐに水くくるとは(古今集・秋下・在原業平
第三句目(半臂(はんぴ)の句と呼ばれる)
わたのはらこぎ出でてみればひさかたの雲居にまがふ沖つ白波(詞花集・雑下・藤原忠通

序詞

(序詞の意味と機能)
 序詞は、契沖が「序は枕詞の長きなり」、折口信夫が「序詞のつづまったもの」と述べているように、枕詞と性質は似ているが、二句以上、または、七音以上でその場その場で臨時的に自由に創作される。土地や情景になる場所であることが一般的である。
一 「の」による比喩の場合(有心の序)
あしひきの山鳥の尾のしだり尾の長々し夜をひとりかも寝む(拾遺集・恋三・柿本人麻呂
二 同音反復の場合(無心の序)
すみの江の岸による波よるさへや夢のかよひ路人目よくらむ(古今集・恋二・藤原敏行朝臣
三 掛詞を引き出す場合(無心の序)
なには江のあしのかり寝のひとよゆゑ身をつくしてや恋ひわたるべき
(千載集・恋三・皇嘉門院別当


【第二類】・・掛詞・縁語・・『古今集

掛詞

(掛詞の意味と機能)
 掛詞は、あることばに二つ以上の意味を持たせる技法で、地名に起こりやすい。
一 地名型
これやこの行くも帰るも別れては知るも知らぬも逢坂の関(後撰集・雑一・蝉丸)
二 二重文脈の「交代型」型(仮名連鎖構文・尻り取り式)
立ち別れいなばの山の峰に生ふるまつとし聞かばいざ帰り来む(古今集・離別・中納言行平)
三 包含型
かくとだにえやはいぶきのさしも草さしも知らじなもゆる思ひを
(後拾遺集・恋一・藤原実方朝臣


縁語

(縁語の意味と機能)
 縁語は、掛詞とともに用いられることが多く、掛詞の中でも「物象」と「心象」とが掛けられている場合の「物象」と結びつく。
縁語掛詞仕立て
山里は冬ぞ寂しさまさりける人目も草もかれぬと思へば(古今集・冬・源宗干朝臣


Ⅲ【その他】・・体言止め・その他・・『新古今集

体言止め・連体止め

 体言止め・連体止めは、体言・連体形で終止させることで、余情・余韻をもたせるための技巧である。
「体言止め」
これやこの行くも帰るも別れては知るも知らぬも逢坂の関(後撰集・雑一・蝉丸)
「つつ止め」
君がため春の野に出でて若菜つむわが衣手に雪は降りつつ(古今集・春上・光孝天皇

本歌取り

本歌取りの意味と機能)
 本歌取りは、以前に詠まれた、すでにある名歌・古歌を本歌として踏まえた上で、その一部分を詠みこむことによって、本歌のもつ趣向・情景・発想などを新しい歌に取り入れ、歌の内容を広く深くしようとする技巧である。本歌取りは、藤原俊成が推進したが、法則化した人物としては、藤原定家と藤原為世をあげることができる。
一 歌から取る歌詞の長さは多くても二句と三四字までである。
二 取った歌詞は本歌と位置を変える。
三 歌の季節や主題を変えて詠むこと。
本歌取り」の例
本歌取り
み吉野の山の秋風さ夜ふけてふるさと寒く衣うつなり(新古今集・秋下・文屋康秀
(本歌)
み吉野の山の白雪つもるらしふるさと寒くなりまさるなり(古今集・冬・坂上是則

倒置法

 倒置法は、論理上の普通の語順をかえることで、強く印象づけるものである。
花の色は移りにけりないたづらにわが身世にふるながめせし間に(古今集・春下・小野小町
(いたづらにわが身世にふるながめせしまに花の色は移りにけりな)

歌枕

 歌枕は、和歌に詠まれた地名である。しかし、それだけにとどまるものではなく、他の和歌の修辞と密接な関わりをもつ。(例)逢坂の関・大江山白河の関・吉野

見立て

 見立てについては、見立てと擬人法を同一視する考え方もあれば、見立てと擬人法とを区別する考え方もあり、認定が一定していない。
一〈見立て〉とは、視覚的印象を中心とする知覚上の類似に基づいて、実在する事物Aを非実在Bと見なす表現である。
二自然と人事を結ぶ見立てと自然物相互の見立てとがある。
一「見立て」の例
嵐吹く三室の山のもみぢ葉は龍田の川の錦なりけり(後拾遺集・秋下・能因)
二「擬人法」の例
わたの原八十島かけて漕ぎ出でぬと人には告げよ海人の釣舟
(詞華集・雑下・藤原忠通


離合
吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風を嵐といふらむ(古今集・秋下・文屋康秀

字余り・・「本居宣長の字余り法則」=句中に「あいうえお」がある。
わびぬれば今はた同じ難波なるみをつくしても逢はむとぞ思ふ(後撰集・恋五・元良親王
今来むと言ひしばかりに長月の有明の月を待ち出でつるかな(古今集・恋四・素性法師

和歌特有の語法

「なれや」「らむ」「なくに」「を」「―を―み」「結果的表現」「連体修飾の場合」「いづくはあれど」「已然形+や」「べらなり」などが知られているが、以下のものにも注意が必要である。
一「けるらし」の約まった「けらし」
春過ぎて夏来にけらし白妙の衣ほすてふ天の香具山(持統天皇
二「ミ語法」
瀬を旱み岩にせかるる滝川のわれても末にあはむとぞ思ふ(詞花集・雑上・崇徳院