『源氏物語』に思うこと

 今回は、『源氏物語』について考えてみることとします。「『源氏物語』は日本古典の最高傑作」といわれることが多い作品です。ドナルド・キーンは、世界三大作品として、紫式部の『源氏物語』、ダンテの『神曲』、シェークスピアの『リア王』の三つをあげたところからも、名声が高まったようです。
 『源氏物語』をどのように読むかについては、個人差があってよいと思います。現在の日本文学では、日本の古典文学の最高傑作として解釈・鑑賞して作品を分析していく手法が中心ですが、日本語学では、『源氏物語』を文法や敬語の使い方などの面からの考察を加えて読んでいきます。また、江戸時代前期までは、教訓書や人生訓として『源氏物語』を読んできました。また、江戸時代の漢学者たちは、倫理上よくないものとして、『源氏物語』を排除しました。このように、さまざまな読み方があってよいのです。一つの読み方にこだわる必要はありません。
 私も『源氏物語』を読みましたが、途中の「須磨」「明石」の巻の箇所で、少し挫折しそうになりました。しかし、そこは頑張って全部読み通しました。なるほど、昔から「須磨」「明石」の箇所は挫折することが多いので、『須磨源氏』『明石源氏』と呼ばれることが多いのもよくわかりました。私の場合、大学院受験で『源氏物語』が必須科目だったので、全部読み通すことができたのだと思います。受験勉強を利用して勉強するというのも、有効な手段かもしれません。『源氏物語』を三回ほど読みましたが、その美しい文体に魅かれました。そのため、『源氏物語』の受身表現を研究したことがあります。
源氏物語』は、まず、解説付きのもので読むのがよいと思います。その上で、全文を読むとよいと思います。岩波文庫は、古典を原文で全部読ませようということをインテリの条件として押し付けているところがありますね。あれでは、挫折する比率も高いのです。かつてのように、抄出で解説を施すものを中心として、その上で魅力に取り付かれた人々が原文にあたるという姿勢が大切です。その意味で、漫画も有効だと思います。『あさきゆめみし』という漫画で『源氏物語』の面白さを感じたら、『光る源氏の物語』(中公文庫)などの解説書で読み方を参考にし、与謝野晶子谷崎潤一郎円地文子橋本治瀬戸内寂聴などの現代語訳した本を読み、さらに原文を対照した、今泉忠義、玉上拓也などの学者の注釈をようにするとよいのではないでしょうか。