「る・らる」は助動詞か、接尾語か。

今、久しぶりに「る・らる」は助動詞か、接尾語かを考えていました。では、私の論文の一部から転載します。



助動詞説と接尾語説

「る・らる・す・さす・しむ・れる・られる・せる・させる」は、品詞論上、意見がわかれる。つまり、「助動詞説」と「接尾語説」とがある。近世の国学者は、本居春庭をはじめとして、動詞の一部とする方が一般的であったが、近代以降は欧米語の影響もあり、大槻文彦以来、助動詞として扱われることが多くなった。現在でも学校文法では助動詞として扱われている。ただ、明らかに他の助動詞とは異なる点も多く、時枝誠記(1941)は格関係を変えてしまう点を指摘し、「る・らる・す・さす・しむ・れる・られる・せる・させる」を接尾語とした(注)。また、山田孝雄(1908)は助動詞というものを認めず、複語尾という語を用いているが、助動詞という概念とほぼ同じであると考えて、差支えないようである。
次に、「る・らる・す・さす・しむ・れる・られる・せる・させる」が接尾語と解釈される主な二つの論拠を示してみる。
第一に、格関係を変化させるもので、主述関係を決定する客観的な語であるという点である。例えば、
○彼がつかまえる。
では、「つかまえる」のは「彼」である。ところが、「れる・られる・せる・させる」が下接すると、
○彼がつかまえられる。
○彼がつかまえさせる。
のように、「つかまえる」のは「彼」ではなくなってしまうのである。その他の助動詞には、そのように変化させるものはない。
第二に、語順が補助動詞よりも上にくるという点である。つまり、
動詞+「る・らる・す・さす・しむ・れる・られる・せる・させる」+補助動詞+他の助動詞
という語順になるのである。橋本進吉(1929・1969)は、助動詞相互の承接関係の表を示して、きわめて接尾語に近いことを示したが、大野晋(1968)が「うごめく」「かなしがる」などの接尾語に下接することを指摘し完全には接尾語とはいえないとした。
本稿の立場では、森重敏(1965)が述べるように、動詞は述語として使われるために格に関する助動詞を分出する。それが「る・らる・す・さす・しむ・れる・られる・せる・させる」と考えて、これらを助動詞として扱うこととする。

(注)時枝誠記は、他に「たし・まほし・ごとし・たい」も接尾語とした。