「―ヲ―しむ」の構造

古典における「―ヲ―しむ」の構造について調査してみました。

方丈記』は和漢混交文であるため、使役として「しむ」が用いられ、ニ格の使役ではなく、3例ともすべて、次のようにヲ格が表出され、「−ヲ格−しむ」という構造を持つ。
① また知らず、仮りの宿り、誰が為にか心を悩まし、何によりてか目を喜ばしむる。(一)
② (隆暁法印は)をその首の見るごとに、額に阿字を書きて、縁を結ばしむるわざをなんせられける。(二)
③ (私は)芸これつたなけれども、人の耳を喜ばしむるとにはあらず。(三)
同様に、『徒然草』においても「しむ」の用例をみてみると、次のように、「しむ」の用例のすべてが「−ヲ−しむ」となり、「ヲ格」が必ず表出されている。
④ 愚かなる人の目を喜ばしむる楽しみ、またあぢきなし。(38段)
⑤ 大方、生ける物を殺し、痛め、闘はしめて遊びたのしまん人は、畜生残害の類なり。(128段)
⑥ 身をやぶるよりも、心を痛ましむるは、人を害ふ事なほ甚だし。(129段)
⑦ 我負けて、人を喜ばしめんと思はば、さらに遊びの興なかるべし。(130段)
⑧ 人を苦しめ、法を犯さしめて、それを罪なはむ事、不便のわざなり。(142段)
⑨ 異様に曲折あるを求めて目を喜ばしめつるは、・・。(154段)
⑩ 身を危めてくだけやすき事、珠を走らしむるに似たり。(172段)
⑪ 最勝光陰の邊にて、をのこの馬をはしらしむるを見て、・・。(238段)
意味的には、②⑥⑧は「人ニ」を補って解釈できるため、二格の非表出とも考えられる。