百人一首の口語訳21-30

二一
あの人がすぐにも行こうと言ってよこしたばっかりに、九月の夜長に待ち続けているうちに有明の月が出てしまったことだ。
二二
それが吹くやいなや秋の草木がしおれるので、なるほど、山風を嵐というのであろう。
二三
月を見ると、あれこれとめどなくものごとが悲しく思われることだ。なにも私一人だけを悲しませるために来た秋ではないけれども。
二四
このたびは、ちゃんと幣を捧げることもできない。そのかわり手向山の紅葉の錦を、神の御心のままにお受けください。
二五
逢って寝るという名を持っているならば、その逢坂山のさねかずらは、たぐれば来るように、誰にも知られずに逢えるてだてがほしいものよ。
二六
小倉山の峰のもみじ葉よ、もしも物事の情理をわきまえる心があるならば、もう一度のみゆきがあるまで、散らずに待っていてほしい。
二七
みかの原を分けて、わきかえり流れる泉川の、その「いつ」ではないが、いつ逢ったというので、こんなにまで恋しいのであろうか。
二八
山里は都とはちがって、冬がとくに寂しさがまさるものだった。人も訪ねてくることがなくなり、草も枯れてしまうと思うので。
二九
当て推量で、折ろうというのなら折ってみようか。初霜を置いて見わけもつかず紛らわしくしている白菊の花を。
三〇
有明の月がそっけなく見えた、その、そっけなく思われた別れからというもの、暁ほどわが身を憂鬱に思うときはない。